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ドリーム・ライフ~夢の異世界生活~  作者: 愛山 雄町
第六章「教導者時代:諸国編」

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第二十四話「ロックハート城」

一気に一年半が過ぎました。


前半はザックの視点、後半は三人称になっています。

 トリア歴三〇二一年九月二十日。


 第二回ドワーフフェスティバルから一年半が過ぎた。

 その間、ロックハート家やラスモア村に大きな問題は起きていない。


 この一年半の間に村を去った者がいる。

 それはウェルバーンから修行に来ていた鍛冶師クルトとドリスだ。

 二人は蒸留器の製造方法を完全にマスターし、三〇二〇年の四月にウェルバーンに向けて出発した。


 意気揚々として帰路についた二人だが、ひょんなことからカウム王国で起きたある大事件の発端となった。

 彼らの帰ったルートはアルス街道を北上し、ペリクリトルからアウレラ街道を西に向かうというカウム王国とは関係ない場所を通っている。

 しかし、彼らはその旅でドワーフにとっては到底許容できない“スコッチの密造酒”を見つけてしまったのだ。


 首謀者は以前俺とも関係があった、カウムの国王の元側近アドルファス・エッジカンプ伯爵だ。

 彼はうちの村の蒸留所で修行に耐えられなかった職人を集め、密かに蒸留酒を作った。その品質は蒸留酒と呼べるものではなかった。


 伯爵はその粗悪な酒を買い集めたラスモア村の樽に詰め、当時ほとんど流通していなかったアウレラに持ち込んだ。そして、ラスモア村産のスコッチとして売り捌いた。

 アウレラのドワーフたちはスコッチを飲んだことがなく、最初は大した味ではないと首を捻っていたという。


 伯爵も何度も売れば発覚すると思い、一気に売り捌いて利益を上げるだけのつもりだった。

 しかし、アウレラに運ぶ途中、樽の一つが破損した。輸送していた者はばれないだろうと帝国最北の街ロークリフでその酒を売った。それを偶然クルトたちが飲み、密造が発覚したのだ。

 クルトたちは自分たちの愛する酒を冒涜されたと激怒した。


 ウェルバーンに戻ったクルトは父親であるデーゲンハルトにそのことを訴えた。デーゲンハルトとウェルバーン支部のドワーフたちは直ちに北部総督であるラズウェル辺境伯に相談する。

 相談というより怒りをぶちまけに行ったようだが、辺境伯は事の重大さを即座に感じ取り、虎の子である飛竜騎士団の竜騎士をカウム王国の王都アルスに派遣した。


 情報を受け取った王妃カトリーナは辺境伯と同じく事態を憂慮した。

 そして、彼女は腹心であるオットー・エルウェス卿に全権を与えて取り締まりを命じた。その際、関係者を一人残らず捕えるようにという指示が出され、苛烈な取り締まりが行われる。


 貴族に対しては厳しいが、平民に対しては寛容な王妃だったが、スコッチの密造という犯罪には利用されただけの職人に対しても一切温情を見せなかった。

 その苛烈さに“カティ・ソーク”という二つ名が付いたほどだ。ちなみに“soak(ソーク)”には“厳しく取り締まる”という意味がある。


 “カティ・ソーク”の活躍により、今までどうやっても排除できなかった犯罪者集団(マフィア)とのつながりがあった密造酒製造組織は、マフィアごと壊滅した。

 エッジカンプ伯はその罪により、爵位を剥奪されて放逐された後、マフィアの生き残りに暗殺された。


 それだけではドワーフたちの怒りは収まらず、主導した人物であるエッジカンプ伯爵の名、“アドルファス”という名がカウム王国内から消えるほどだった。生まれてきた子供に付けられることはなく、更に既にその名を持つ者のほとんどが改名したとされる。



 他にもいろいろなことがあった。

 慶事だが、兄ロドリックに待望の長男ディーンが誕生した。生まれたのは三〇二〇年七月十一日で、今は一歳になり元気に暴れている。


 子供が生まれたことから兄たち夫婦用の屋敷が館ヶ丘に新たに作られた。といっても外側は俺が魔法で作ったものだ。

 この屋敷だが、丘の南側の中腹、貯蔵庫と学校の間に作られている。以前、ヘクターやガイたちの家があったところだ。


 ヘクターたちの家だが、ここも俺が新たに建て替えている。

 建て替えた理由だが、元々、従士が住むにも貧しすぎる家屋だった。裕福になった村の中心部にある農民の家の方がよほど立派であり、兄たちの家を新築するのに合わせて、騎士階級が住むのにふさわしい家にしたのだ。


 兄たちの屋敷は幅十五メートル、奥行き十メートルほどの二階建ての石造りのものだ。屋根も土属性魔法で作っており、白い壁と青い屋根、窓ガラスをふんだんに使った美しいもので、一階にはホールがあり、屋根裏部屋も合わせると全部で十部屋ほどある。


 ヘクターたち家臣の屋敷はそれより少し小さい程度だが、同じような色合いの建物だ。更に従士たちの家も丘の中腹に建てており、林の間から見える姿はリゾート地のコテージのようだ。



 本家のロックハート屋敷だが、こちらも建て替えている。

 祖父も父も建て替えには消極的だったし、俺自身もそれまでの屋敷には思い入れがあったが、頻繁に貴族が訪問することと役所の機能を備えるため、ちょっとした城を作ったのだ。


 今では“ロックハート城”と呼ばれているが、大きさは幅三十メートル、奥行き二十メートル、高さ三十メートルほどで、地上四階、地下二階という造りだ。

 四隅には尖塔を備え、ロックハート家の旗がなびいている。


 こちらも白亜の壁に深いブルーの屋根、窓にはガラスをふんだんに使っており、四階部分はバルコニーにしている。

 一階がエントランスとホールと厨房、二階が居室、三階が執務室、四階が客室になっている。


 この城だが、帝国の建築様式とは異なる作り方にした。それは鉄筋を配した石造り、つまり鉄筋コンクリートに近い構造を採用したのだ。

 鉄筋は村を襲ったスケルトンたちが持っていた剣が材料になっており、ベルトラムたちドワーフが鍛造で長い鉄筋を作ってくれた。そして、接合部は金属性魔法で溶接のように接着している。

 その配筋に土をかぶせ、魔法で石に変える。石がコンクリートの代わりとなり、今までより壁や床を薄くすることに成功した。


 鉄筋を入れたことにより強度が上がったことと軽量化できたことから、柱の間隔を広げ、広いホールを作ることができた。

 もっとも建築家でもない俺が作った構造であるため、どの程度の強度があるかは不明だが、少なくとも石だけで作った物よりは強度は上がっているだろう。


 この城の作り方だが、少し変わった方法を採用している。

 従来なら壁と床を作りながら、少しずつ地上部分に出していくのだが、今回は長い鉄筋を入れる必要があり、地上に出しながらという方法が採れなかった。


 そのため、予め地下に空洞を作っておき、その中に鉄筋を入れて構造を作り、そこに魔法で土を盛って石に変えた。そして、その部分を地上に引き上げていったのだ。

 ようは地下室を作り、それを地上に出すイメージだ。


 防壁や防空塔に比べて面倒な方法であり、城の建設に半年以上かかったが、一人で外枠を作ったにしては非常に早いと言えるだろう。

 内装は以前の屋敷で使っていた木造部分をできるだけ活用することにしたため、父たちの居住部分の印象は以前とあまり変わっていない。


 外壁だが、先に説明した通り、白亜の壁にしてある。

 作った当初は館ヶ丘の土から作ったため、防壁と同じように赤土色になった。そのままでもよかったのだが、あまりにものっぺりとした感じだったので、黒池(ブラックラフ)やそこから流れるブラック川から白い砂を採取し、それを塗り込んで石化させて真っ白にしてみた。


 また、白い砂自体がケイ素を多く含んでおり、更にそれを改質してガラス状にしたことから、白いタイルが貼り付けてあるかのような感じになっている。

 屋根も同じように青い色の鉱石を使って色を着け、ガラス状にしているため、太陽の光を受けるとコバルトブルーのような透き通った感じの色合いを見せることがある。


 更にメンテナンスについても考慮した。

 帝国の街道に使われている石の中に“硬化”の魔法陣を描く手法を取り入れたことにより、耐久性向上と経年劣化対策を図っている。


 他にも地下水を汲み上げる魔道具を使い、全館に水道が行きわたるようにした。

 この魔道具だが、俺のオリジナルで風属性魔法により加圧するタイプだ。

 それまでも風属性魔法を利用した送風の魔道具は存在した。実際、鍛冶師ギルドの研修所には大型の送風の魔道具が換気扇代わりに取り付けられている。


 その送風の魔道具の出力を大きく変え、圧縮機(コンプレッサー)に変えた。

 通常のファンやブロワでは大きな圧力差を付けると、羽根の間から逆流する“サージング”という現象が起きる。そのため、空気を圧縮するにはジェットエンジンのような多段式にするか、往復式ピストン(レシプロ)を用いる。


 一方、送風の魔道具は風の精霊の力を使っているため、理論的には逆流は起きない。但し、風の行き場がなくなると、精霊たちが勝手に風を止めてしまい、圧力上昇はほとんど起きない。

 つまり、その点を上手く制御すれば、圧力を上げることは可能だったのだ。


 魔法陣を改造したことで圧力一メガパスカル、揚程にして約百メートルの圧縮空気を作り出すことに成功した。

 この圧縮の魔道具と圧力容器を井戸に設置し、間欠的ながらも城の最上階に設置した貯水タンクに水を送ることができるようになった。



 見た目の美しさと居住性を求めたが、あくまで城であり、戦闘も考慮してある。

 壁は先ほど説明した硬化の魔法によって、俺の最高出力の獄炎の槍(ヘルファイアランス)の魔法でも表面に焦げができる程度だ。


 この城の中で最大の弱点となるガラス窓だが、ここには鋼鉄製のシャッターを取り付けた。このシャッターだが、厚みを充分に取ることにより、翼魔クラスの魔法なら充分に防ぐことができる。

 シャッターもスケルトンの剣を基にしており、城を作るだけでほとんどの剣を潰すことになった。


 ただ、鋼鉄製ということで非常に重い。このままではシャッターを上げ下げするのが大変で時間も掛かる。通常時ならそれでもよいが、戦闘を考えると短時間で閉止できるようにしなければならないし、雨戸代わりに使うには簡単に開放できた方がいい。そのため、シャッターに重りと滑車とワイヤーを組み合わせてバランスを取り、必要最低限の力で動くように工夫している。


 防空用の施設だが、四隅にある尖塔には矢狭間が作られ、四階のバルコニーも鋼鉄製の盾を設置できるようにしてある。

 丘の頂上にある防空塔と連携させることにより、翼魔族や飛行型の魔物対策はかなり強化できた。


 城の地下は貯蔵庫となっているが、酒用ではない。ここには領民から納められた穀物や予備の武具を保管しており、緊急時に備えている。


 城や屋敷の他にも村のインフラ整備として、下水道は設置済みだ。他にも丘に作った貯蔵庫を氷室に改造し、村とアルス街道を繋ぐ道の整備も行っている。



 新たにロックハート家の領地になったキルナレック市、バルドック村、ウーズリー村、シフェレス村の状況だが、キルナレックを含め、それまでとほとんど変わっていない。


 キルナレックには父や兄が定期的に出向き、更に守備隊長としてバイロン・シードルフが常駐している。

 税についてだが、ロックハート家にはラズウェル辺境伯家に納められていた金額と同じ、年間十万クローナ、日本円で一億円だけが入ってくる。税収的には充分に多く、更に納めさせることは可能だが、父は街の発展のために使うよう指示を出していた。


 街の予算についてもあまり口出しはしていないが、予算の執行には当然ロックハート家の承認が必要だ。以前は着服などがあったようだが、ロックハート家が帳簿を確認するようになってからはそのようなことは起きていない。


 三つの村だが、いずれもラスモア村のような自警団を組織する選択はしなかった。そのため、ロックハート家に税を納めている。といっても納める税は蒸留所で使う大麦であり、税率的には三割程度だ。


 ロックハート家の領地となる前は貧しい開拓村ということで、税はほとんど免除されていた。そのため完全な増税だが、不満の声は全く聞かれない。

 これは元々ロックハート家による農業指導により収穫量が格段に上がったこと、冒険者に依頼していた魔物の討伐がロックハート家によって迅速に行われるようになったことなどが関係している。

 収入増加と治安維持の両方を担っているロックハート家に対し、感謝の声しか聞かれないとのことだ。


 ただ、キルナレックを含め、若者の中にはラスモア村の自警団に入りたいと思う者が多くいた。そのため、家の事情が許す者に関しては、従士見習いのような形で館ヶ丘に住むことを許可している。但し、祖父の厳しい訓練に耐えられる者はほとんどおらず、数日で故郷に戻っている状況だ。



 政治絡みでは噂にあったとおり、一昨年の年末に帝国の宰相がアービン・フィーロビッシャー公爵からアレクシス・エザリントン公爵に代わっている。また、フィーロビッシャー公爵家も代替わりし、ジェレマイアが当主となった。


 それが原因かは分からないが、新たにフィーロビッシャー公となったジェレマイアからある連絡が来た。

 それはシャロンの赦免の連絡だった。


 二年半前の三〇一九年二月にシャロンが独断で鍛冶師ギルドを動かし、当時の宰相フィーロビッシャー公の怒りを買った。そのため、父マサイアスが俺とシャロンの結婚を無期限延期にするとした。


 先代のフィーロビッシャー公は政治的な理由でシャロンというかロックハート家に罰を与える姿勢を示していたが、代替わりをしたことで赦すという情報がラドフォード子爵から伝えられたのだ。

 これにはシーウェル侯を通じて行った情報提供が評価されたことも大きいらしい。


 伝えられたのは昨年三〇二〇年の年末だったが、すぐに結婚しては反省の色がないと言われると考え、来年三〇二二年の三月に式を挙げることとなった。

 これを聞いたシャロンはうれしさのあまり父や母がいる前であるにも関わらず号泣し、それに釣られてメルも感極まって泣いたほどだ。



 そして、俺たちの状況だが、訓練時間を取れるようになったことから確実にレベルアップしている。特に俺の魔法のレベルは大きく上昇し、土属性がレベル七十を超えている。剣術も順調に上がり、今ではレベル五十三にまで上がっている。


 リディたちも順調で、リディが風属性六十四、ベアトリスが槍術士六十九、メルが剣術士五十八、シャロンが風属性六十一、ダンが剣術士四十四、弓術士四十八だ。

 祖父たちもまだレベルアップしており、ラスモア村の戦力は順調に強化されていた。


 大きな動きはこんな感じだが、現在最大の案件であるルナの教育については大きな方針転換を図っている。


■■■


 帝国領の辺境、ロックハート領ラスモアにあるロックハート城はその外観の美しさと機能美から、帝国の名城百選に選ばれている。

 城郭の歴史に詳しい、ヴィル・ライスフィールドは著書である「帝国百名城~帝国式城郭の魅力~」で以下のように紹介している。


『……ロックハート城を初めて訪れた者はまずその外観の美しさに感嘆の声を上げる。真珠のような美しい光沢の白壁。アウストレリア海のコバルトブルーをそのまま映したかのような屋根。鏡のように陽の光を受けて煌めくガラス窓……しかし、本当の美しさは城本体だけではない。重厚なスコッチの貯蔵庫のレンガ色、よく手入れされた木々の鮮やかな緑、それらと城の美しさが互いに協調するよう配慮されているのだ……』


 更にライスフィールドはその美しさを鑑賞できるポイントを紹介していた。


『……もし、あなたがラスモアを訪れたなら早起きすることをお勧めする。特に初夏には城の西を流れるフィン川沿いに立ち、朝日に照らされるロックハート城を見てみるといいだろう。アクィラの山並みの黒、レンガ色の防壁と森の淡い緑。それを背景に一点の曇りもない白亜の壁がオレンジ色の朝日に染まり、コバルトブルーの屋根が柔らかなスミレ色に輝く姿が見られるだろう……これは設計者である“万能の天才”ザカライアス卿が計算し尽くして作った絶景と言われ……』


 美しさ以外の点にも言及していた。


『……魔道具の大家でもあるザカライアス卿が設計したこの城は、機能面でも非常に洗練されている。送風の魔道具を使った合理的な換気システム。大型のポンプと貯水槽による水道設備。壁に配した点灯装置(スイッチ)から操作可能な“シャンデリア”と呼ばれる大型の灯りの魔道具。これほどまでに魔道具を効果的に配した城はそれまで見られることはなかった……その中でも城の中に水道を張り巡らすというアイデアは斬新で、それは生活上の便利さだけでなく、防災面でも画期的だった。ロックハート城内の天井には水道から繋がる消火装置が備えられ、火災が発生した場合も迅速に消火が可能な設計となっているのだ……』


 そして、最後にこう締めくくっている。


『……ロックハート城はそれまでの城の概念を変えたと言われているが、私もそれに激しく同意する。ロックハート城ができるまで、二千年以上に渡って城と言えば帝国様式の武骨な城がほとんどだった。もちろん大都市では貴族の邸宅が“城”と呼ばれているが、それらはあくまで行政庁が“城”と呼ばれているに過ぎない。それらの城は防壁があるだけで、建物自体は戦闘に耐えうるものではなかった。ラスモアという特殊な地理条件はあったにせよ、戦闘用としての機能と住居としての機能、そして行政庁としての機能を見事に融合させた設計はザカライアス卿の起こした奇跡の一つであると私は考えている……』

密造酒事件の話は書籍版「トリニータス・ムンドゥス~聖騎士レイの物語2」の特別読み切り「ドワーフライフ~夢の異世界酒生活~セロン編」で詳細が読めます。


ついにロックハート家も城持ちになりました!

記載はありませんが、下水管もきちんと整備されている近代的な建物です。


次話から一気にストーリーが加速します……するはずです。ということでシリアスが続く予定!

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本作品とは毛色が違い、非転生・非転移ものですが、こちらもよろしくお願いします。
最弱魔術師の魔銃無双(旧題:魔銃無双〜魔導学院の落ちこぼれでも戦える“魔力式レールガン戦闘術”〜(仮))
― 新着の感想 ―
[一言] ヴィル・ライスフィールド……米原さん?!
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