表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユニオン!  作者: 南野海風
小学校で気に入らない奴をボッコボコにする篇
9/60

07.百人組手を攻略する!  激!



 一通りの通過儀礼が終わった頃、イッキたちは【ユニオン】で遊び倒していた。

 先の【百人組手】もそうだが、【ユニオン】で遊べるのは【ヴィジョンバトル】だけではない。


 複数名からの協力プレイで巨大獣の【NPVノンプレイヤーヴィジョン】を倒すという怪獣狩り《モンスターハント》や、モニターを介して思考操作するFPS視点でのシューティングゲームやアクションゲーム、レースゲーム等、【ユニオン】で遊べるゲームソフトは多岐に渡る。

 もちろんネットを介して離れた場所にいるプレイヤーと遊ぶこともできるので、一昔前のソフトが今でも現役で稼動していたりした。





 イッキが通過儀礼の【百人組手】をこなして数日。

 今日も最寄のカード販売店の奥にあるバトルルームで、イッキら四人は遊んでいた。


「今日こそクリアするぞ!」

「イッキがしくじらなければな!」

「なんだと! つかおまえ味方巻き込んで剣振るのやめろよな!」

「普通は避けるんだよ! ダイサクもケイイチも避けてんだろが!」


 仲良くケンカするイッキとカイジを「まあまあ」と仲裁するケイイチも、「確かにそろそろクリアしたいな」と思っていた。

 最近は学校でバトルして、放課後は協力プレイで遊ぶというローテーションができている。


 そんな昨今、今四人が熱中している目標は、あの【百人組手】を四人でクリアすることだ。

 あれは「一人でクリアできて一人前」と言われていて、初心者プレイヤーのハードルになっている。そしてイッキたちにとっては数人がかりでも超えられない壁となっている。

 参加人数上限が五人までとあって、一緒に遊ぶのにも好都合だった。


 70人抜きまでは行ける。

 だがその先が難しい。


 【百人組手】は、一度に100人が向かってくるわけではない。20、30、20、20、10という区切りで、タイプの違う【NPVノンプレイヤーヴィジョン】が群れて現れる。

 最初は近接戦闘型が20体。

 次はスピード重視型が30体。

 近距離型と遠距離型の混合部隊が20体。

 イッキたちが詰まっている、超長距離型を含めた遠距離型が20体となる。

 そして、最後の10体はまだ見ていない――ネットで調べれば一発でわかるのだが、誰かに教えてもらうのは悔しいので自力で攻略して見てやろう、というのが総意になっている。


「遠距離から狙い撃ちされるんだよね……ダイサク君、今日はあれ試してみよう」

「そうだな。上手く行くといいが」


 直情型(かんがえなし)は当てにならないので、試行錯誤はケイイチとダイサクの役目になっていた。





 最後まで残っていたケイイチの【風塵丸ふうじんまる】がやられて、ゲームオーバー。

 イッキは肩を落とした。


「……負けた」


 基本的に【ユニオン】のゲームで遊ぶ際は、初回が一番集中力が高い。その後は疲れのせいでどんどん集中力が落ちていく。

 特に、まだまだ初心者の域を出ないダイサクを除く三人は、集中力を持続させることにも慣れていない。


「もう少し工夫しないとな」


 ダイサクはそんなことを言い、どっしりベンチに座った。

 ちなみにダイサクは、すでに一人でクリアしている。ケイイチはなんとなくそのことに気づいているが、イッキとカイジは気づいていない。

 要するに、経験者に甘えてクリアするという形が嫌なのだ。ケイイチもダイサクも。

 だからケイイチはそのことを確かめないし、ダイサクも有効な作戦を立案したりアドバイスをしたり、ということをしない。


「おい、次やろうぜ次! 次は絶対勝つし!」


 カイジが騒いでいるが、ケイイチは「待って」と手で制する。


「今のままじゃ何度やってもクリアできないよ。休憩も兼ねて少し考えようよ」

「賛成だ。闇雲にやってても疲れるだけだからな」


 ダイサクは立ち上がり、端末を操作した。


「リプレイでも見てみよう。俺たちがどんな状況でどんな風にやられているか確認してみろ」


 バトルルーム内でのゲームは、3ゲームまでは、どのソフトをプレイしても自動的に撮影される。その後は古いものから順次消えていくが、USBメモリーに3D動画データとして保存することもできる。

 動画投稿サイトを覗けば毎日のように「スゴ技」とか「ウルテク」とか「超絶コンボ」とか名付けられた動画が、プレイヤーの【ヴィジョン】の自慢も兼ねて投稿されている。本当にすごいのもあればそうでもない名前負けしているものも多いが。


「最初はいいんだけどなぁ……」

「そうだなぁ……」


 考えるのが苦手なイッキとカイジの【ヴィジョン】は、ゲームスタートと同時に敵に突っ込んでいく。ケイイチの【風塵丸】は、サイドから当たるように迂回しながら移動する。

 最初は楽しいのだ。

 考える必要もなくボコボコにできるから。


 だが徐々に、ただ突っ込むだけでは対処できなくなる。それが顕著に現れてくるのが、やはり飛び道具を使う遠距離型が出てくる50人抜き以降だ。

 51人目からは、近距離型と遠距離型が同時に出てくる。


 援護射撃があんなにも厄介だなんて、経験しないとわからない。

 単純に言うと、意識していないところから攻撃が来るのだ。突然に。これはもう常に不意打ちされる可能性があるということだ。

 防御を意識し出すと、近距離型が猛威を振るうようになる。

 攻撃に転じると援護射撃がまともに当たって体制を崩し、それこそ近距離型の良い的になる。


 これは作戦ではなく必然的にそうなっただけだが、イッキたち近距離型が防御を固めている(固めざるを得ない)状態で、足の速いケイイチが遠距離型をしらみつぶしに叩くことでクリアした。

 必然的にそうなっただけだが、これはこれで良い作戦だと思う。盾役に攻撃を集中させて、その間に仲間が攻撃に転じるというのは有効な作戦だ。


 問題は、71人目からだ。

 厄介な遠距離型と、更に遠くから狙いをつける超長距離型の部隊。ここからは近距離型が動けなくなるほど激しい攻撃が遠くから飛んでくることになる。即席の盾役がそんな有様ありさまなので、充分な囮にならず、ケイイチがどう動いても狙われ、集中砲火を浴びてやられてしまう。

 何度やっても同じようなパターンで終わってしまうので、このチームの壁は間違いなくここにある。


「これってクリアできるのか?」


 リプレイを見ても勝機が見えなかったのだろう、疲れた顔でカイジが言った。


「四人がかりでもこれだぜ? クリアなんてほんとにできるのかよ」

「できるよ」


 リプレイから目を離さずケイイチははっきり言った。


「これを一人でクリアして、初めて一人前って言えるんだ。世界中何万人もクリアできることを証明している。――単純に僕らが弱いだけだよ」


 カイジは一瞬カチンと来たが、ケイイチの言葉は言い訳できないくらい正論である。

 弱いのはいいのだ。

 弱いと思える分だけ、強くなる余地があるのだから。


「なあ」


 何の案も出せないが一応考えているイッキが、最後に残って敵から集中砲火を受け、逃げ回る【風塵丸】を目で追いながら言った。


「これ、一人ソロでやると、誰であろうとこんなことになるよな?」

「そうだね。それが?」

どうやって一人で(・・・・・・・・)勝つんだろうな?(・・・・・・・・・・)


 だからそれを今考えているんじゃないか――と、今度はケイイチの方がイラッとしたのだが……今の言葉には引っかかるものがあった。


 どうやって一人で勝つのか?

 どうやって、一人で、勝つのか?


(……一人で?)


 噛み砕いて考えると、そこが気になった。

 そう――ケイイチは自分で言ったはずだ。「世界中の何万人もが一人でクリアできることを証明している」と。

 実際その通りなのだ。だからそこに問題はない。


 問題は、ケイイチがチームで勝とうとしていること、だ。

 誰がどのように動けばいいとか。誰が囮になるとか。

 そうじゃないのだ。


(いや)


 それも一つの正解だが、このチームには相応しくないのだ。


 自分が一人でやる場合にどう攻略するか?

 それを考えた方が、早かった。


「わかった。もう一度やろう」


 ケイイチは【ユニオン】にセットしたカード【煙玉スモークボム】を外し、違うカードをセットした。

 【煙玉スモークボム】は、プレイヤー任意で自分の周囲に白いモヤのようなものをまとう消耗型の【移動ムーブ】カードだ。一定時間で効果は切れるが、対プレイヤー戦で使えば派手な目くらましになる(使用プレイヤーの目には煙幕は薄く見える)。

 ケイイチはこれを使って敵から隠れ、後方に控えている遠距離部隊を叩いていた。最後まで生き残ったのも、煙幕で狙われなかったからだ。

 作戦通り上手く言ったのは、やはり70までだった。


 ここでケイイチは、考え方を変えた。

 一人でやるならどういうプレイをするか、と。


 一人でやるなら「狙われないアイテム」など何の意味もない。的が一つしかないのだから、どんなに狙われづらくなろうと、狙われて当然だ。

 考え方が逆だった。


「イッキ、【キャラメル】はセットしてる?」

「おう。でも使いどころがいまいちわかんねーや」


 例の「一粒三百メートル分だけ早く動ける」という、強化ブーストカード【一粒三百メートルキャラメル】のことだ。

 イッキは開始時に一粒使い、敵に突っ込んでいる。効果はなかなか高い。ちなみに1バトルに使えるのは8粒までだ。


「70人目で使って。そして敵に突っ込んで」

「は?」


 70人目というと、このチームが詰まっている遠距離と超長距離型の【NPV】が出てくる時だ。

 援護射撃どころか集中砲火の痛さを思い知っているイッキは、防御一辺倒になり、結局何もできないままやられてしまう。だが防御しないと本当にあっという間にやられてしまう。

 ケイイチの提案は、「敵の攻撃に突っ込んでさっさとやられろ」と言っているに等しい。


 そんなものなかなか頷ける提案ではない、が――


「わかった。その時に使う」


 ケイイチが無意味なことを言うわけがないと知っているので、イッキはわずかな迷いをさっさと振り切った。理由さえ聞かないところがイッキらしい。


「頼んだよ。――カイジ君は僕らの中で一番防御力が高いから、ダイサク君の盾になってほしい」

「盾ぇ? ……わかったよ。そっちしっかりやれよな」

「うん。ダイサク君、さっきの作戦だけど」

「ああ、今度こそやってみよう」


 こうして、今一度【百人組手】攻略が行われる。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ