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ユニオン!  作者: 南野海風
中学生篇
60/60

58.VS笠原シロウ!  音!




 カウントダウンが始まる。


 ゆっくりと愛刀【獅子威ししおどし】を抜き払う笠原シロウのヴィジョン【四谷来明ヨツヤライメイ】に対し。

 イッキの【無色のレイト(フリーレイト)】も、構えた。


(チッ……やべえな)


 笠原シロウは内心舌打ちする。

 一応、イッキの過去の動画はチェックしてきた。去年のWFUBの、あの英雄殺しの団体戦だ。

 あの頃でもそれなりにキツいのに、この構え一つ取っても、あの頃よりレベルが上がったことを物語っている。


 最初から楽だとは思っていなかったが、ここまで強いとは思っていなかった。


 何しろ、隙がない。

 どこに攻撃しても確実にカウンターが飛んでくる――そんな悪い未来予想しか見えないのだ。

 さっきのクソ生意気な「刀使いに負ける気がしない」という発言も、あながち誇張でも自信過剰でもない気がしてくる。


 左肩を前に、刀身を寝かせるようにして脇に構える【四谷来明ヨツヤライメイ】。

 それを見据えるイッキも、同じようなことを考えていた。


 軽い性格に反し、笠原シロウは割と堅実な操作をする。何かに特化しているのではなく、あえて全局面に対応できるよう調整し、腕を磨いてきた。

 特化型は、偏った特性のおかげで強くなった気分にはなれるが、実際強くなっているわけではない。苦手な局面はとことん苦手なままなのだ。

 なんだかんだ言って、「平均的に強い」というのは、どんな相手にも対応できるということだ。


 そして、このスタイルでランカーまで到達しているなら、動きの全てが洗練されたものであることは疑いようがない。





 双方が一瞬にして理解した。

 この試合は、数秒で終わる、と。


 刻む数字が少なくなっていく。

 それに比例するように、互いの集中力も高まっていく。


 意識するのは、踏み足。

 わずかでも相手の攻撃の間合いをはずし、己の間合いを占領することを意識し――


 カウントが0になると同時に、二人は躊躇なく飛び出した。





 読み勝った、というよりは、イッキは「読み」というものをほとんど考えない。

 つまり、先んじたのは笠原シロウだった。


 拳の間合いに、入っている。

 左肩を前にした構えのまま、【無色のレイト(フリーレイト)】は左側――【四谷来明ヨツヤライメイ】のほぼ背後に(・・・・・)位置した(・・・・)


 要するに、背後を取られて完全にイッキに有利な状況になったということだ。


 悪手、笠原シロウの失態――と見るものが大多数ながら、当人たちはよくわかっていた。


 この形は、むしろ笠原シロウの狙い通り。

 踏み込んだ位置も狂いなく、体勢も1ミリたりともズレはない。おまけに【無色のレイト(フリーレイト)】の位置も想定通りだ。


 出来過ぎな程に、この一手は完璧だった。


 脳裏に過ぎる一瞬の迷い――「イッキがあえてこの形にした」という可能性を感じるも、ここから繰り出される攻撃に躊躇いはなかった。

 この距離、この速度、この一手で迷えば、確実に負けるからだ。


 【四谷来明ヨツヤライメイ】は、踏み込んだ左足を、すり足で足一つ分だけ先に送った。遅れて身体が付いていく。

 だが、右足は残す。

 構えの反転――脇構えから逆脇へのスイッチ。


 すり足で拳の間合いをわずかに外し、かつ己の……刀の間合いに入り、更に背後を取らせたことで攻撃を誘い込む。

 イッキのスピード、反射神経なら、確実に攻撃に来るだろう隙間のような誘い込みに――果たしてイッキは望む通りに反応していた。


 ほぼ同時である。

 眼前で爆発する白い炎と、【四谷来明ヨツヤライメイ】が逆胴に振るう刀。


 相手の攻撃を避けながらの、刀による攻撃が成立した。





 違和感、ではない。

 これはむしろ、起こるべくして起こったことである。


 「刀使いに負ける気がしない」という言葉を、実証したのだ。





 拳一発分の速さで振るわれた愛刀【獅子威ししおどし】は、しかし白いヒーローの胴を駆けることはできなかった。

 左の掌で(・・・・)止められた(・・・・・)


 【無色のレイト(フリーレイト)】の両手は機械である。肉体なら斬られても仕方ないが、機械パーツならそう簡単に斬られることはない。何せ金属製だから。


 イッキは攻撃を読んでいた。本能的に。

 そして更に呼んでいる。本能的に。


 【四谷来明ヨツヤライメイ】の体制、ここから繰り出される一刀に、斬鉄は起こりえないことを。

 あの高等技術は、数ミリの狂いもない目算があって初めて成立する、もはや神業と言える技。

 構えがスイッチする瞬間、ほんの一瞬だが、どうしても【無色のレイト(フリーレイト)】から視線を外すことになる。

 本当に刹那の一瞬の話、ただ首を振るだけの一瞬のことだ。


 しかしその一瞬こそ、斬鉄を否定する行動だ。


 狙いが数センチ外れるだけで成立しなくなるのだ。

 それほど難しいからこそ、神業なのだ。

 目を離した一瞬、相手が止まっているとは限らない。いやむしろ、構えをスイッチする必要がある相手と闘っているのであれば、相手は確実に動いていると考える方が自然だ。

 笠原シロウがベテランであればベテランであるほど、その神業が成立しないことを熟知している。だから来ないと読んでいた。


 ――ちなみに、そもそも笠原シロウは斬鉄ができるのか、という疑問は度外視である。





 刀を止められた。

 半歩踏み込めば拳の間合いに入るというこのシチュエーションで、一撃必殺を失敗した。


 笠原シロウは笑った。


 やはり奥の手を使うべき相手だった、と。


「――【雷音ライオン】」


  ドン!!


 言葉に応え、愛刀【獅子威ししおどし】の美しい白刃に、刀身に青白い雷が発生した。


(機械だろ? 知ってるっつーの)


 WFUBの動画で見た通りだ。腕が機械であることは知っている。

 そして機械は、雷に滅法弱いことは、常識だ。


 ただのガチンコ勝負なら、さっきの時点で決着はついた。笠原シロウの負けである。


 しかしこれは【ユニオン】だ。

 超常の力を実現するカードを使用してあたりまえのゲームだ。


 笠原シロウが使用したのは、ただの【属性エレメントカード】である。任意で発動でき、武器や防具にまとわせることができる。

 属性攻撃は、決定打になることは少ない。だが弱点を突けたとなると話は別だ。

 魔法使い型(ウィザードタイプ)ではないので威力はいまいちだが、しかし、機械にはよく効く。


 少なくとも、【無色のレイト(フリーレイト)】の両腕のパーツが破壊されたか、ショートしてしばらく使えなくなる。もちろん吹き出す白炎だけではなく、単純な握る・広げるという動作も効かなくなる。


 不意の雷撃に襲われ、【無色のレイト(フリーレイト)】は一歩下がった。


 なんとも半端な逃げ方だ。

 刀の間合いから外れてさえいない。

 驚いたのかなんなのかわからないが、まるで素人並の反応だ。


「チッ」


 笠原シロウは、本当に舌打ちした。


 ――この程度でおまえは打ち止めか。


 そう思うと、怒りと苛立ちがこみ上げた。

 同レベルの死合いができる相手と見積もっていたのに、とんだ期待はずれである。


 笠原シロウは容赦なく、刀を振り上げた。









「だから言っただろ。刀使いにはもう負ける気がしねえんだ」


 最後の一刀で、勝負は決するはずだった(・・・・・)


「雷による機械パーツの破壊なんて、何回やられたと思ってやがる。弱点をそのまま残しとくほど俺たちは甘くねえぞ」


 ――これも、最初から【無色のレイト(フリーレイト)】に仕込んでおいたギミックである。


 【無色のレイト(フリーレイト)】のボディが、黒く染まっていた。正確には白かった部分が黒くなり、そして時折りバチッバチッと電気が走る。


 無色、という言葉には意味があった。

 それは、属性攻撃を受けたら、その属性に変わるというギミック。


 【無色のレイト(フリーレイト)】の着ているスーツの素材に【属性同調(エレメンタルシンクロ)素材】というものを選んだ結果である。


 動かないはずの左手で、再び刀を止め。

 右の拳で、がら空きになっている【四谷来明ヨツヤライメイ】の腹に三発叩き込んだ。





 お粗末な回避などではなく、

 誘われたのだ。

 笠原シロウが自覚した時には、バトルは終わっていた。











あまり意味のない豆知識

 山本一騎は相変わらず、何も考えずに操作していたりします。本能や反射神経とは恐ろしいものです。

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― 新着の感想 ―
クノンから読者にならせていただいて、その他過去作品色々見させてもらいました。初期の頃の作品だったので仕方ないのかもしれないですがイッキ達の続きが見たかったですね~ 途中までですが先が凄く気になるくら…
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