53.VS鮫島ヤエ! 弾!
普段は直で観ることが多いが、近くで行われる注目の試合は、【ユニオン】で観戦することができる。
【ユニオン】を通してなら、たとえ狭い場所で行われる10分の1スケール同士のバトルでも、縮尺の設定を変えたりカメラの角度も自分の好みで変更できるからだ。
細かく、注意深く観るなら、直接見るのではなくこっちである。
今回のリベンジマッチは、四面に分けて使用している教室を、丸々一面として使用する。……が、同時に観戦客も多いので、あまり広く使うことはできない。
よって、3分の1スケールの【ヴィジョン】でバトルをすることになった。
先の世界大会(WFUB)のように、現実に【ヴィジョン】を呼び出す必要もなく仮想空間のみで片付けることもできるのだが、あれはプレイヤー自身の動向が見えないので、玄人はこの方法を採用したがる。プレイヤーの動向も判断材料になるからだ。
電脳部もその例に漏れず、まあ、慣れているスタンダードなこのバトル方法を取った。イッキたちもだいたいいつもこれなので、特に文句はない。
出入り口のある壁際と、窓際に別れ、プレイヤー同士が向き合っている。
「俺でいいのか? あんたはてっきりイッキにリベンジすると思ったんだが」
「個人的にはしたいが。だが今は団体戦に勝てればいい」
【ユニオン】越しで、指名を受けた新山カイジと、電脳部副部長・鮫島ヤエが睨み合う。
部室を賭けたリベンジマッチ一回戦が始まろうとしていた。
形式は、公式の団体戦と同じく勝ち抜き形式。双方3名ずつ参加となった。
そして開始直前に指名制が導入されてしまったので、対戦順位は不明である。……まあ参加人数が少ないので予想外の組み合わせが実現する、ということもないだろうが。
カウントダウンが始まる。
大剣を肩に担ぐ重装備のヴィジョン【断罪の騎士】。
対するは、眼帯のメイド【弾丸のホルン】。
剣によるカウンターを得意とする近接バトルスタイルに、飛び道具をメインとする中・遠距離型のバトルスタイル。
組み合わせからして、【断罪の騎士】には相性の悪い相手である。そこを見越して指名してきたのだろう。
見た通りならばカイジが劣勢だ。
あの見るからに鈍重な騎士では、身軽そうなガンマンを捉えることはできないだろう、と。
だが、そう見ていないのはイッキらと電脳部全員だ。
特に、鮫島ヤエは、ここで全てを出し尽くしてでもカイジを倒す気構えができていた。
相性の差があって初めて対等か、もしかしたら足元くらいに届くか、それくらいの差があると思っている。
一週間前、イッキのあの強さの片鱗を目の当たりにしているヤエである。
そのイッキと肩を並べて大会に出ていたカイジが、イッキと比べてひどく劣るとは考えられなかった。
同じくらい強いと考えれば、どこに余裕などあるものか。
5 4 3 2 1 judgment!
白と黒を分かつ木槌が振り下ろされた。
開始と同時に、【弾丸のホルン】は左腰の銃を抜いた。
愛銃【ジタン】。右に吊った単発銃【カナビス】とは違う、6連式のリボルバーだ。こちらもアンティーク調で、黒い銃身に木製グリップである。【カナビス】と大きく違う点は、非力な女性型でも扱えるよう口径が小さいことだ。
そしてもう一つ違う点がある。
【ジタン】は弾丸を放つ銃ではない、ということだ。
「――【凍弾】!」
放たれた魔法の弾丸は、【断罪の騎士】の右肩に命中し――バキンと音を立てて鎧の肩口を白く染まった。
凍らせたのだ。
イッキは【弾丸のホルン】を銃使いと呼んだが、少しだけ違う。
【弾丸のホルン】は魔銃使いだ。
魔法武具としては口径は小さく威力よりも扱いやすさを重視した【ジタン】なので、強力な魔法は使えない。が、弾丸の速さで飛ぶ属性攻撃は、直接攻撃で戦うのとは一味違う。
単純に言えば、搦手だ。
決定打は狙えないが決定打に繋がる攻撃、と考えるとわかりやすいだろう。
「……」
確実に命を狙っている銃口を前にし、カイジは迷っていた。
威力をバカ上げしたステータスの銃ならともかく、そこそこの銃から撃たれる弾丸程度なら、無視して突っ込んでいい。すべて鎧が弾いてくれるし、少しだけ隙間がある視界穴を狙わせるなんて素人臭い真似もさせない。
だが、撃っているのが魔法の弾丸となれば、話が別だ。
このくらいの威力の「氷弾」なら、5、6発は喰らわないと動きを封じるほど氷漬けになることはない。
このくらいの弾速なら、かわせなくもないし。友達の銀狼や刀使いはもっと速かった。
問題は、下手に弾丸をかわした時のことだ。
【断罪の騎士】は「回避」という行動を前提にしていないので、動きが遅い。ある程度の速度領域の攻撃を変にかわそうとすると、体制が崩れる。
体制が崩れると、隙ができる。もちろん致命傷は狙わせない。だが続けて撃たれた弾丸を喰らうくらいの隙はできてしまう。
普通の銃使いなら、このまま無視して突っ込んでも問題はない。
だが、魔銃使いとなれば、そこまで単純な話ではない。
喰らうのは得策ではない。
だがそれでも当てるのが銃使いの腕の見せ所だ。
下手にかわしていらないところに喰らうよりは、いつものように安全な部分で受けた方が……と考えたところで、面倒臭くなった。
(リボルバーだろ。だったらマシンガンほど連射はできねえよな)
マシンガンクラスの連射性ではどうにもならないが、リボルバーなら。それに魔銃ならいちいち魔法を込めなければならない。更に連射性は落ちる。
ならば、鎧よりももっと安全なもので受ければいい。
「行くぞ!」
少々凍りついただけの肩を無視し、【断罪の騎士】は走り出した。鈍重な見た目にしては、かなり速い動きである。
「――【凍弾】!」
カウンターのように、二発目の魔弾が放たれた。
カイジはそれを、走りながら剣を振るって弾き飛ばした。剣が重いので身体をターンさせて走るスピードを微塵も落とさない、というなかなか高度な技術を使って。……まあ剣は凍りついたが。
鈍重な騎士にあるまじき器用な防御行動に、ギャラリーが湧いた。
「チッ!」
ヤエは舌打ちし、想像以上に速い接近と遠距離正面からの弾丸が当たらないことを悟り、銃を下ろした。
想像以上に速い動きもそうだが、まずいのはあの剣速だ。
先の防御を見てもわかる通り、大剣だけに連続して振るうことはできないのだろうが、その一撃の速さは相当なものだ。
色々な想定はしてきたが、あの剣速は想定の中で郡を抜いている。
接近戦はかなり危険だ。
――さてどうするか。
あまり意味のない豆知識
機械系の「エネルギー」同様に、「魔力」も消費した分は時間経過で回復するようになっています。回復速度は設定とステータスに準じます。




