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ユニオン!  作者: 南野海風
中学生篇
52/60

50.「ヤバイ」とあいつは呟いた!





「――おい見ろイッキ! ここ端末があるぞ!」

「――マジで!? じゃあわざわざコート行かなくていいってことか!」


 そんな会話から悪ガキ四人が電脳部の部室に入り浸るようになり、早一週間が過ぎようとしていた。

 通常授業が始まり、ぼちぼち新生活にも慣れ始めてきた今日この頃。


 電脳部を追い出してゲットした部室には、小学生の頃は毎日のように通い詰めた、カード取扱店にある【ユニオン】専用の端末が設置されていた。

 【ユニオン】本体の価格が下がりぐっと購入しやくなった昨今でも、この端末はかなり値が張るので、個人で所有している者は少ない。


 バトルするだけなら、場所は選ばない。

 だがバトル以上のことをするためには端末が必要になる。

 特に、遠距離にいるプレイヤーと遊ぶには、端末の通信機能が必要だ。イッキらが苦戦した【百人組手】のソフトや怪獣狩り(モンスターハント)のソフトも、端末がないとプレイできない。


 【ユニオン】を余すことなく遊ぶのなら、端末は絶対不可欠である。

 そして、そんな端末が部室にあることを知った以上、利用しない手はない。





「ヤバイと思うんだけど」


 そう思いながらも、ずるずる付き合ってきてしまった相川レンは、隣を歩く萩野ナトリに漏らした。

 日曜日を跨いだ、月曜日である。

 身近に端末があることと、新しい友達と遊ぶ誘惑に勝てず、誘われるまま電脳部に入り浸っていたのだが。


 やはり、色々ヤバイと思う。

 どう考えても、色々このままではいけないだろう、と思う。


 今日も放課後になって、誘いに来たナトリと一緒に電脳部へと向かっている最中、昨日の学校に来ない日に考えたもやもやした胸の内を吐露した。

 ――走るようにして先に行ったバカ二人は、話すだけ無駄だとして。


 あの二人と比べるべくもなく、ナトリはちゃんと話を聞いてくれる。……まあやはり少し変ではあるような気がするが。


「ヤバイ?」

「うん。ヤバイと思うんだけどさ……ナトリどう思ってるの? このままじゃまずくない?」

「レンちゃん考えすぎやで」


 ちなみにこの二人、早々に名前で呼び合う仲になった。


「考えすぎ……かな?」

「うん、まあ、というか、考える必要がないっちゅーかね。心配いらんよ」

「え?」


 思わずナトリを振り返るレン。ナトリはまっすぐ前を向いていた。


「そのうちリベンジ来るから。なんなら今週中にでも取り返しに来るんちゃうかな」





 電脳部に到着すると、すでに三人の少年が遊んでいた。

 山本イッキと新山カイジ、そして服部はっとり兼続かねつぐといういつものメンツだ。


 ――電脳部を乗っ取るにあたり、悩んだのが入部希望だった一年生の存在である。


 色々話し合ったものの、部員ではないしこの先も部員になる予定がないイッキらは、一年生たちが来ることを拒否した。

 「自分たちはいずれここを電脳部に返すつもりだから、電脳部に入るなら今は来るな」と。今出入りしたら、電脳部が帰ってきた時に居場所がなくなるから、と。


 どっちにしろ正規部員が一人もおらず、部外者が好き勝手遊んでいるという図は、どう見てもレンが思い悩む通り「色々ヤバイ」ようにしか見えない。なので一年生たちは状況を見守ることに納得した。今は行き場のなくなった一年生だけで集まって遊んでいるらしい。


 ちなみにレンは、あの雰囲気が悪い電脳部に入る気がなくなったので、とりあえずイッキたち……というよりナトリと一緒にいたいと思い、ここにいる。


 一年生の多くが絶賛揉め事中の電脳部から距離を置く中、服部カネツグは、電脳部ではなくイッキたちと一緒にいることを選んだ一年生だ。

 戦国武将と同じ名前を持つが、勇ましい名前によらず本人は線が細い小柄な男子だ。


「僕は、下手だから」


 少数精鋭を狙うと言った電脳部には入れないだろうから、と。

 下手だけどこの部に入れば上手くなれると信じ、勇気を出して部室まで来たはいいが、あの面接で「ここにはいられないな」と悟ってしまった。

 小学校で遊んでいた仲間からは「下手すぎるから」とちょくちょく除け者扱いされ、遊ぶ相手もおらず一人で訓練ばかりしていたカネツグは、あの日戦ったイッキを見て、イッキたちに付くことを決めたという。


「――どうやったらあんなに強くなれるの?」

「――遊んでりゃ自然と強くなるだろ。暇ならおまえも来いよ」


 などという、とんでもなく簡単なやりとりを経て、カネツグは部室に連れてこられて今日もここに通っている。


「おせーぞおまえら! 今日こそ動物園クリアしようぜ!」


 女子二人が顔を出すなり、【ユニオン】を装着しているイッキが今日のプランを言い渡した。


 レンはこのバカたちに色々聞きたいこともあるが、ここ一週間のイッキを見て、どうしてあんなに強いのか、そしてあんなに負けこんだのか、なんとなく答えが見えてきた。


 要するに、イッキは強い相手を攻略するのが好きなのだ。

 倒せるまで諦めないから負けの数が多いのだ。


 小学生時代、よっぽど勝ちたい相手がいたのだろう。


「お、今日もやるか!? 今日こそガゼルに投げっぱなしジャーマン食らわせたるわ!」

「……ナトリも好きだねえ」

「レンちゃんも好きやろ?」


 まあ、確かに嫌いではないが。


「チーターは私の獲物だからね」


 動物園――怪獣狩り(モンスターハント)のクエストの一つである。現在【ユニオン】に登録されている動物が園から逃げ出そうとしている、というシナリオで、プレイヤーたちは最終防衛ラインに立って動物たちが逃げないように倒し続ける、というゲームだ。

 恐竜から創作モンスターまで千差万別で、防衛ラインを突破されることなく全303種の動物を倒すとクリアである。

 最大20人での参加が可能という難易度なだけに、5人でクリアを目指すとなると、かなり厳しいのだが。


 だが、難しいから面白い。

 特に巨大な「象」を倒す時、打ち合わせなしで5人が連携した時は、少し感動したくらいだ。


 回を追うごとに倒せる動物の数も着実に増えているので、このまま続ければ、そう遠くない未来にはクリアできそうだ。


 こうして、今日も遊びの誘惑に負けて、もやもやを抱えたまま今日もレンはゲームに興じる。





 ちょうど二戦目が終わり、ナトリの「ちょい休憩しよ」の声に従い全員が【ユニオン】を外す。

 やはり20人用のクエストだけに、難しい。


「やっぱ飛び道具が使える奴がいないとキツいんじゃね?」

「そうだな。ネズミにしてやられたもんな」

「いや、あれたぶんフェレットやで」

「え? カワウソじゃないの?」

「……あれ? フェレットとカワウソって同じじゃないの? 和名と洋名的な感じで」


 まあとにかく、ネズミだかフェレットだかカワウソだかが、イッキらが大物や肉食獣と戦っている間に、ささっと防衛ラインを突破してしまったのだ。

 動物園は防衛戦なので、一匹でも動物を逃がしたら即ゲームオーバーになる。


 肉食動物はプレイヤーに向かってきて、草食動物はプレイヤーを避けて逃げようとする。この対比にどう対応するかでクリアできるかどうかが――


「おい」


 トゲのある声に、「なんだ?」と全員が振り返り……


「「うわっ!?」」


 いつからそこにいたのか、知らない間に部室にいた電脳部副部長・鮫島ヤエに驚きの声を上げた。


「なんだよ! 一声かけて入ってこいよ!」

「掛けた。ノックもした」


 ゲームに夢中で気づかなかったのだ。――ナトリの言う通り、リベンジに来たのだろう。


「……よくもまあ我が物顔で遊べるものだ」


 苛立たしげな声、不愉快そうな顔で口屋速の不法占拠を続けている悪ガキどもを見回す。……でもあんな顔をしておいて律儀にゲームが終わるのを待っていた人なんだよな、とレンは思った。なんというか、彼女もやはりゲーマーなのだ。


「でもちょうどいいところに来たな! 今動物園攻略中なんだ! あんたがいりゃずいぶん楽になりそうだ! 一緒にやろうぜ!」


 さすがバカ、一週間前の因縁を忘れたかのようなセリフである。


「断る」


 そりゃそうだ。


「それより部室を返せ」

「お、リベンジマッチか。いいぜ。いつ来るかずっと待ってたんだ」

「いや、今はやらない。団体戦を所望する」


 団体戦。というと、勝ち抜き戦だ。


「電脳部は代表三人を出す。おまえたちは公式通り最大5人でいい」

「ああ、いいぜ。いつやる?」

「明日の放課後」

「わかった。――おいカイジ、忘れないように黒板に書いといてくれ」

「おう」


 明日のことなのだが。さすがに忘れようもないと思うのだが。……まあイッキなら納得できなくもないが。


「ところで、一つ聞きたい」

「俺も聞きたいことがある」

「……なんだ?」

「フェレットとカワウソってなんか違うのか?」

「検索しろバカ」


 確かにその通りである。


「……確か同じイタチ科で、川獺は日本の特別天然記念物。フェレットはポールキャットと言われる外国の動物だったと思うが。実際見たことはないから外見は知らない」


 だが律儀に答えた。初対面での電脳部の印象がすごく悪かっただけに、レンはなんだか意外なものを見たような気がしないでもない。


「おまえはあの日、『こんな部(・・・・)に入るつもりはない』と言ったが、どんな部(・・・・)だと思ってここに来た?」

「……? 言ったっけ?」

「言うたやん。……それはうちから答えときます」


 どうやらイッキが忘れているようなので、ナトリが代わりに返答する。


「噂を聞いとったからです」

「噂?」

「第九中学校の電脳部は、【ユニオン】強い人しか入れへんって。ほなどんだけ強いんやろなって思って。それでケンカ売りに来たっちゅーわけです。もちろん噂のランカーも気になってましたし」

「そうか……」


 鮫島ヤエは考え込むように腕を組むと、「また明日」と言い残して部室を出て行った。



 


 レンは出て行った副部長の後ろ姿を見送ると、黒板に目を向けた。


  明日試合


 汚い字で書き殴られたそれを見て、どこかほっとしていた。

 イッキらのことだから「わざと負ける」なんて選択肢は絶対ないだろうが、それこそ噂のランカーの力で堂々蹴散らしてくれればいい。


 ただ、心配があるとすれば。


 イッキ、カイジ、ナトリは、本当に強いということだ。

 幸か不幸か、端末があるおかげでまだ三人とは直接的なバトルをしたことがないのだが、もしかしたらランカー候補の自分より強いかもしれない。


 もしも噂のランカーに勝ってしまったら、部室を返す機会がなくなってしまうのではないか、と。


 抱えていたもやもやが若干晴れたと思えば、そのもやもやの先には心配事が転がっていた。


「なんかヤバイ気がするなぁ……」


 このまま部室を返せず、不法占拠状態が続くことになると、かなりヤバイことになる気がする。












あまり意味のない豆知識

 『動物園』で最後に出てくる最強の獣は、皇龍と帝龍です。




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