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ユニオン!  作者: 南野海風
WFUB篇
47/60

45.世界戦、終わり!





 記録から言うと、第二小学校高学年の面々は、全員が何らかの形で本戦出場して一回戦で負けたことになる。

 唯一の例外は、チーム戦で出場したGF――「Gun Field」というチームの一員としてダイサクが参加し、本戦決勝まで行ったことだが、こちらは違うチームに所属している、ということであまり仲間意識を感じられなかった。


 午後の最後に残っていたもう一試合、イッキのサバイバル二回戦目が終了すると、これでこのチームでのWFUBは無事終了した。


「じゃーな!」

「ばいばい」

「また明日な!」

「またな」

「……」


 イッキ、ケイイチ、カイジ、ダイサク、そして黙って手を振るシキ。


 今日も5時まで遊んで帰途につく。この時代には防犯意識が高まり、小学生の6時以降の外出は補導の対象となってしまうのだ。

 まだ明るい空の下、店の前で5人は別れた。


 チーム【第二小学校高学年】は、これで解散だ。

 いつも通り遊んだあとのように。

 大会なんてなかったかのように。


 今日も楽しかった、ただそれだけの思い出を残して。



 


 少年たちが何気なく別れたその頃、方々では噂が飛び交っていた。


 団体戦一回戦目で100番以内(ハンドレッド)ランカーのチームと当たり、大方の予想通りに負けた無名の小学生チーム。


 事実だけ聞けば、何のことはない星の数ほどある三流チームの顛末である。

 だが彼らが魅せた団体戦の内容は、多くのプレイヤーの目に、そして通り過ぎることなくその意識に止まることになる。





 とある図書館で夏休みの宿題をしていた少女は、ふいに顔を上げた。

 途端、彼女の横顔に見とれていた周囲の男たちが動き出す。

 だが少女の目にはそんなものは入っていない。陽が傾いているのを確認して、ポケットから携帯電話を出した。

 

 時間を確認し、随分長居していたことに気づく。

 シャープペンと消しゴムをペンケースに収め、少女は今着信したメールを開いた。――これが震えたおかげで集中が途切れたのだ。


『おもしろい動画がある。』


 遠い友人からだった。直接会ったことはないが、ネットを介してちょくちょく顔を合わせている。

 内容は本当に短い一文のみで、あとは有名動画サイトのリンクがあるだけ。


 少女は音量を調整して、リンクを辿った。


 ――そして、総毛立つほど驚いた。


「…………」


 無言のまま見入る。

 ほんの2、3分の動画が終わり、もう一度繰り返す。今度は3D動画のカメラの角度を変えて見る。


 食い入るように観察し、知らず携帯を強く握り締めた。


「……私だ」


 そっくりな型も、間の取り方も、攻撃のかわし方と反撃のやり方も、非常によく似ている。

 小さい画面の中に躍動する白いヒーローは、驚かないはずがないというレベルで、自分の【ヴィジョン】と同じ動きをしていた。

 「似ている者」ならたくさん見てきたが、ここまで自分のスタイルとして、付け焼刃の跡さえ見せないほど物にしている【ヴィジョン】を見るのは、さすがに初めてだった。完成度の高さに少し感動さえ覚えたくらいだ。


 ――少女の名前は、今里いまさとえい

 【ユニオン】では「佐藤天伊」を名乗り、【天草弥勒】という【ヴィジョン】を操作する100番以内ハンドレッドプレイヤーである。


 面識のない師匠が、面識のない弟子を初めて認識した瞬間だった。





 【ドラゴンキラー】という優勝候補チームの試合ということで注目を集めていた矢先、眼中になかったその相手チームがまさかの敗北宣言とランカー殺し宣言をし、誰も笑い半分で期待しない中、見事それをやり遂げた。

 普通にやれば一人で五人抜きくらいたやすいほどの力量差を、作戦で覆した。

 メンバーの特技と特徴を生かして攻略を果たしたその一連の試合は、よくできた物語のように鮮やかなものだった。誰が欠けてもきっと攻略はできなかっただろう。


 ――なぜこんな連中が無名のままなのか。


 経験不足なのは否めないが、動きだけならランカー候補だと言われても不思議ではない。というかそれくらいの実力がないと、作戦どころの話ですらないだろう。


 滅多に使わない切り札を出させた先鋒の騎士。

 詰め将棋のように無駄なく追い詰め片腕を奪ったガスマスクの男。

 小細工なしでガチで殴り合った白いヒーロー。


 特に話題に上ったのは、実際にランカーを仕留めた銀狼と――


 ランカー殺しはおろか、誰も予想していなかった英雄殺しをやってのけた、大将・狐面の巫女だ。





 時が止まった。

 明らかに格下の、無名の小学生チームが、100番以内(ハンドレッド)ランカーである半竜人ドラゴンハーフ【アルファ】を瞬殺した直後。

 あまりにも簡単に、そっけなく、だが確かにそれは起こったことである。


 誰もが眼前にある試合結果に目を疑う。

 だが疑いようのない真実とわかった時、会場は爆発したかのような声に溢れた。


 宣言通りに、実績のないガキどもがランカー殺しを果たした。

 それに対する報酬は、歓声だったり、ただただ驚きの声だったり、悲鳴だったりした。あるいは少しは罵倒も入っているかもしれない。しかしそれすらも、普通なら声さえ上げられない一プレイヤーにはないことである。


「やりやがった!」

「やったな!」


 イッキとカイジが声を上げ、自分がしでかした大業に呆然としているリアルのケイイチを揺する。


「あとはおまえ次第だな」

「うん」


 浮かれていないのは、これから何が起こるかを知っているダイサクと、大将戦を控えている早乙女シキこと【斬斬御前きりきりごぜん】だ。


 四人でのランカー殺しは達成した。

 あとは、大将として最後に残ったシキが、相手に勝つだけだ。


 降ってくる大声の雨の中、シキはゆっくりとフィールドへ歩む。


「吉田くん」


 呆然としている【風塵丸ふうじんまる】に声を掛ける。


「約束通りに」

「うん……うん、わかってる……うん……いてててっ! やめろよ!」


 反応がいまいちアクティブじゃなかったケイイチが、突然生きた声を上げた。どうやらリアルでバカどもに何かされたらしい。

 そしてケイイチは我に返ると、「棄権します」と宣言してフィールドから離れた。


 ざわめきが止まない中、チーム【第二小学校高学年】最後の一人を倒すため、英雄【エルク・ドグマ】が歩み出た。


「――もうすっかり終わった雰囲気だが」


 英雄の言葉に、シキは「確かに」とうなずいた。

 これからシキと【エルク・ドグマ】の試合が行われるのだが、いまいち注目されている気がしない。それほどまでに前の試合が衝撃的だったということだ。


「なんなら不戦敗でも構わないけれど」

「心にもないことを言わないでくれ。君は『刀娘』のメンバーだろう?」

「知っているとは光栄ね」


 研究熱心なことである。【エルク・ドグマ】は、先日の「刀娘」のチーム戦を観戦したようだ。


「君はランカーじゃないのか?」

「ええ」

「そこらのランカーより良い腕をしているのに?」

「実際そうだもの」


 カウントダウンが始まった。


 シキは左手に下げた白木柄の刀(・・・・・)を少し抜き、光る刀身を見て、また納めた。

 愛刀【四音蝶しおんちょう】ではなく、神代かみしろヨーカから譲り受けた【くずれ】だ。

 根本に、総合的な実力差があるのだ。長引けばシキに勝ち目はない。


 だから、必殺技というものを使おうと決めた。


 こんな大舞台は早々ない。

 切り札は、普段遊びで魅せるようなものでもない。

 こういう機会でもなければ、初心者たちに教える機会もない。

 必殺技とは、初見の相手を必ず殺す技のことだ。格上だろうがなんだろうが関係なく。


 それを証明して、ランカーの首二つを取り、それを手土産にチーム【第二小学校高学年】は解散だ。


 シキは己の必殺技に絶対の自信を持っている。二度目なら対抗策を考える暇があるが、初見なら必ず殺せる。だからこその切り札で、だからこその必殺技だ。

 ただ心配なのは、すこぶる機嫌の悪い【ヴィジョン(あいぼう)】が、動いてくれるかどうかだ。


 ただ一刀、ただ一振りの渾身に応えてくれるかどうか。

 それだけが不安だった。


   5 4 3 2 1 ――開幕!


 開戦の合図が出た瞬間、【斬斬御前きりきりごぜん】は英雄の眼前にいた。


 速い。だが速いだけでは意味がない。

 【エルク・ドグマ】もその速度に合わせ、居合の軌道にぶつけるようにショートソードを抜いた。それは咄嗟にして、だが完璧な防御だった。

 自力の差だ。

 並のプレイヤーなら対処できない速度領域と攻撃速度だが、ランカーは難なく付いてくる。先の四人掛かりで魔法を掛けた【アルファ】とは違うのだ。


 肉薄し、二人の身体が密着するほど近くなると、動きが止まった。


 【エルク・ドグマ】が防御に構えるショートソードと、【斬斬御前きりきりごぜん】の抜いた刃は、一ミリほどの間隔を残して停止していた。

 ぶつけていれば、強度を強くしていない刀なら一発で折れただろう。日本刀は繊細な武器だ。


「あの速度で止めたか」


 止めた?

 違う。

 防御することを想定して、最初から止める気だったのだ。


「――二手遅い」


 英雄が言葉の意味を理解する前に、【斬斬御前きりきりごぜん】は刃を抜き払い、【エルク・ドグマ】を切り裂いていた。


 【ユニオン】は本当によく出来ている。

 ぶつければ刃は欠け折れるが、斬れば(・・・)鋼鉄でも難なく裂ける。

 寸分狂わぬ刀の使い方で、斬鉄は可能なのだ。


 これが、ショートソードごと――防御ごとぶった斬る、密着してかわせない状態から放つシキの必殺技「一音・歌蝶」だ。

 いつかの学校の屋上で、迫る左の機甲拳を斬ろうとして失敗した時は、腕の衰えを痛感したものだ。……その証拠に、今回も愛刀ではなく、切れ味に特化した【くずれ】を持ち込んだくらいに。


 しかしどうやらこの大舞台に、やっと【ヴィジョン(あいぼう)】の機嫌が直った――


「……?」


 鞘に納めようとして、ふと刃を見る。


「…………」


 刀身にヒビが入っていた。


 シキの最速の攻撃にさえ、【エルク・ドグマ】が反応したという証拠だ。数ミリ狙いが逸れただけで刀には相当な不可が掛かる。きっと急所だけでも守ろうと回避しようとしたのだろう。その結果だ。

 さすがは英雄とまで言われるプレイヤーである。恐ろしい反射速度だ。


 だが、それよりも。


「……やっぱり機嫌悪い」


 一年前ならもっと速く鋭く、反応なんてさせなかっただろう。刀に傷をつけるなんて最悪だ。


 ――随分遅れて、先程の比ではない大騒ぎとなった。

 一対一で、優勝候補の英雄殺しをやってのけた無名プレイヤーの登場に、会場も、ネットTVで観戦している者も、誰もが驚きの声を上げていた。


 そんな中、狐面の巫女は堂々と試合放棄を宣言し、仲間とともに会場から消えた。





 こうしてチーム【第二小学校高学年】の試合は終わった。


 様々な意気込み、思想、信念が渦巻く世界大会だが、少年たちにとっては「楽しかった」の一言で終わるイベントでしかない。


 全力で遊んだ子供たちは、しかしまだ物足りないと感じ、明日も明後日も遊び倒す。


 今日も楽しかった。

 そんな言葉を毎日繰り返しながら、少しずつ日は短くなっていった。










あまり意味のない豆知識

 シキの「一音・歌蝶」は、ショートソードを斬ったところで成立しています。鎧を装備している相手なら本体ごと斬れますが、今回は剣と本体の間に隙間があったので、正確には二回攻撃を繰り出しています。刀にヒビが入ったのは本体を斬った時でした。

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