41.反骨精神に則って団体戦開始! 討!
「――以上、優勝候補プレイヤーの試合が予定されていまーす!」
「――すごいねー! マジすごいねー! どれだけすごいかっつーと…………まあとにかくすごいよねー! 古い言葉でゴイスーだよねー! 超ゴイスーだよねー!」
滝川ショーリと同じく、有名なプレイヤーもしくは【ヴィジョン】がインタビュアーやレポーターや実況などを担当している。
ユニオンアイドルとか呼ばれている、これから売り出す【ユニオン】が得意なアイドルが多いのだが。しかし下手なアイドルより有名なアマチュアもたくさんいるので、過去も現代もアイドル業界はいつだって戦乱時代だ。
大画面で実況を移す内部モニターを横目に、イッキらの試合会場では、ショーリが「よろしくお願いします」と挨拶した。
これからカメラがこっちに回ってくる。インタビューもそこからだ。
「あいつすごいしか言わねーけどいいのか?」
「芸風じゃね?」
さすがはバカである。あの【ドラゴンキラー】を目の前にしても、イッキとカイジは余裕だ。……まあ実際過度に緊張しているのは、ケイイチだけだったりするのだが。
「いいか小僧ども。女はかわいければなんでもいいんだよ」
「女バカにしてるとしか思えんコメントだな、生臭坊主」
「……あれ!? なんで私見てんの!? おい、なんで私見てんだよ!」
「バカでかわいいとか最強だよなと思って」
「…? ……? ……っ! バカ野郎! いきなりかわいいとか言うな!」
「「バカはいいのか?」」
しかも【ドラゴンキラー】の 破壊の癒し手【タイラー】、半竜人【アルファ】、鉄の要塞【カルカナホルン】と一緒になってモニターを観ている始末だ。……特に「鉄の要塞」とは気が合いそうだ。もう早速ツッコミ入れてるし。
「先日はサインありがとうございました。兄がとても喜んでいました」
「え? ……あっ、君、あの時御膳と一緒にいた」
ダイサクなんて、堂々とショーリに声を掛けるその姿は、実際は違うがチャラい外国人の傭兵がうら若き日本人をナンパしているようにしか見えないくらいだ。
「大丈夫?」
「……うん」
どうにも大丈夫そうではないケイイチこと【風塵丸】だが、シキの言葉にちゃんと反応はするので、ギリギリで大丈夫そうではある。
「うん……大丈夫……最悪意識がない方が本能で操作できるし……」
いや、ダメそうだ。ギリギリでダメそうだ。
「飴なめた?」
問うと、うつむき加減だった顔がはじかれたように上がる。どうやらそれすら失念していたようだ。
ケイイチは、試合前に飴を食べると気分が落ち着く、と前に言っていた。
シキとしては「ショーリさんみたいだね」とよっぽど言ってやりたかったが、緊張をほぐす方法なんて人それぞれだ。ケチをつける必要もない。
「――それでは、10分後に試合の予定が組まれている、【ユニオン】でもっとも有名なあのチームの試合会場に繋ぎまーす!」
「――超すごいからちゃんと観てね! 時子さーん!」
ついにカメラがこっちに回ってきた。
「山本くん、お願いね」
「おう」
作戦、というほどのものでもないが、とにかく作戦が動き出した。
こちら側のインタビューの受け答えは、度胸もあるし礼儀も弁えているダイサクこと【迷彩男】が務める。立ち位置もそう調整した。
「【第二小学校高学年】は、同じ小学生に通う五人のチームなんですよね?」
「はい。俺たちのチームには今年WFUB初出場が三人もいますが、運良く本戦まで勝ち抜けました」
さすがダイサク、この大舞台でマイクを向けられても、キャラ的に偉そうに腕組したまま冷静沈着なトークである。
「本戦一回戦目の相手には、ちょっと厳しいかもしれませんね?」
「そうですね。【ユニオン】プレイヤーとしては、憧れのランカーたちですから。でも相手が誰であれ全力で戦いたいと思います」
――まあ、添え物の紹介なんてそこそこである。
誰もが注目しているのは、向こうだ。
「それでは、今度は【ドラゴンキラー】にインタビューを行いたいと思います!」
カメラが有名人たちを映すと、ざわついていた観客の声が、途端に大きくなった。
「……紹介も派手だな」
「……おう」
この扱いの差に、さすがのバカたちも閉口気味だ。
こっちはインタビューが流れるだけだったのに対し、相手チームの紹介は実況モニターが二面現れ、インタビューと並行して、【ドラゴンキラー】が勝ち抜いた予選の映像が大迫力で流れるという始末だ。
時間配分からして、10分のインタビュー時間の中、無名の小学生たちは2、3分。向こうは半分以上を使う構成なのだろう。
まあ実力的に優勝候補で、注目しているプレイヤーも多いので、こんな扱いになるのも当然か。
こっちにはなかった個人インタビューに移った時、シキからイッキにGOサインが出た。
「じゃあ行ってくるぜ」
小さく謙虚にまとまる礼儀正しい小学生たちが、ようやく悪ガキの本性を牙をむき出しにする。
イッキこと【無色のレイト】は、英雄【エルク・ドグマ】が面白味のない優等生みたいなコメントを発する中、堂々と歩み寄った。
当然正面に立つ形になった【エルク・ドグマ】が真っ先に気づき、すぐ傍まで迫ると、インタビューしていたショーリも気づく。
1メートルどころか50センチの間もない至近距離まで寄ると、ようやく「何かやらかす気だ」と気づいた観客がざわめき、英雄を映していたカメラが引いてイッキもフレームインさせた。
「マイク貸してくれ」
「え? いや、そういうのは」
「――時子さん、お願い」
フレ登録者からフレ登録者へのボイスチャット、シキから内密に発せられたその声に、ショーリは逆らえなかった。
さすがに差し出すことは立場上できないショーリから、無理やりにマイクを奪うと、イッキは竜殺しの英雄に勝気に笑いかける。
「――俺たちは負ける! 大方の予想通りにな!」
大業に、行儀悪くインタビューに割り込んだ小学生が何を言い出すかと思えば、まさかの敗北宣言である。
静まり返った会場は、その直後、建物を割らんばかりの爆笑に満たされた。
笑っていないのは、ケンカを売っている【第二小学校高学年】と。
ケンカを売られていることを理解している【ドラゴンキラー】だ。
さすがは熟練のプレイヤー、小学生相手でも容赦する気がないところが期待通りだ。たとえガキ相手でもケンカを売られたら本気で買う気構えこそが、強者の証だ。
強い目で睨み合う、白いヒーローと英雄。
周囲の動向にまったく見向きもしない堂々たるその態度に、笑ったプレイヤーたちが笑いながら期待する。
このガキどもは何か面白いことをやってくれそうだ、と。
結果の見えているつまらない試合を、少しは面白くしてくれそうだ、と。
場が静まり返る。
予想より早く。
モニター越しに観ている者も、自宅で観ている者も、本戦会場で観ている者も、忙しく立ち回っている運営側も、そして【ドラゴンキラー】も。
誰もがヒーローの次の言葉を期待していた。
「――俺たちは負ける。だが簡単には負けてやんねえ。俺たち五人でおまえらの一人を叩き潰してやる。……まさかあの【ドラゴンキラー】が小学生相手に逃げたりしねえよな?」
【エルク・ドグマ】の目付きが細くなる。ただの映像なのにその鋭い眼光は歴戦の戦士を思わせるほど迫力があった。
――別にムカついているわけではない。【エルク・ドグマ】は笑うのを必死でこらえているのだ。
おかしいからではなく、嬉しいから。
トーナメント表を貰った時から、全国大会までは消化試合になることを悟った。
運悪く1000番以内から上のランカーがいるチームと当たらないことがわかったのだ。
別に他プレイヤーをナメているわけではない。
ただ、事実として、1000番以内と100番以内では、やはり実力差があるのだ。
一プレイヤーとしては、やはり強い相手と戦いたい。
全国に行けば【エルク・ドグマ】より強いプレイヤーもいる。一試合でも多く実力の均衡したバトルをすれば、それだけでも伸びるものだ。
100番以内まで行ってしまうと、どうしても対戦相手に困る。
だから嬉しかった。
従来の団体戦の形とは言えないが、黒星一つを付けてやると宣言した。そこまで言う奴らが何もしでかさないはずがない。
この小学生チームとの試合も、消化試合として何も期待していなかったが、すでに期待以上に楽しくなってきた。
当然、【エルク・ドグマ】だけではなく。
【ドラゴンキラー】の全員がそう思っていた。
憧れの眼差しでサインをねだる小学生もかわいいが、敵わないまでも必死であがいて爪を立てようとする小学生も、生意気でかわいい。
当然、負けてやるつもりなんて毛頭あるわけがないが。
「……」
【エルク・ドグマ】が手を差し出すと、イッキは英雄の目を見ながらマイクを渡した。
「――その挑戦、受けよう」
英雄の答えに、本戦会場は今日一番の盛り上がりを見せた。
あまり意味のない豆知識
この時ネットでは、イッキと英雄のやりとりで湧きました。そして裏では「マイク取られた時の心細そうな表情の時子ちゃんマジ天使」と話題になっていました。




