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ユニオン!  作者: 南野海風
WFUB篇
42/60

40.反骨精神に則って団体戦開始!  竜!





 今回、イッキたちは本戦会場へ行っていない。

 なので、サバイバル戦やチーム戦の時のように、全員が【ヴィジョン】としてバトルフィールドに降り立つことになる。


 例の白いちゃぶ台のような仮想バトルフィールドに入ったイッキらを出迎えたのは、滝川ショーリ――に少しだけ似ているヴィジョン【カスミ時子トキコ】だ。

 藍色の袴に手甲という、胸当てを付けていない弓道の稽古着のような格好で、いつもはこれに刀を帯びているのだが。

 今回はインタビュアーとしての参加なので、武器は装備していない。


「「うわ、【カスミ時子トキコ】だ」」


 ケイイチ、ダイサク、カイジまでもが声を揃えて驚く。

 イッキとカイジ以外は奇しくも一週間前の予選で会ったことのある人物なだけに、驚きも大きかった――ちなみにカイジはファンでもなんでもなく、ただ単に有名人として知っているだけである。


「あ? 誰? 有名人?」


 一人だけ知らないイッキは、隣の二足狼に顔を向ける。


「ランカーでモデルの人だよ」

「マジで!? ランカーなのかよ!」


 どうやら「モデル」の方はどうでもいいらしい。実にイッキらしい反応だ。


「何?――何なの?」


 ショーリこと【カスミ時子トキコ】は、まず狐面の巫女の肩を抱くと、少し離れた。


「仕事だから邪魔しないでね。マジで」

「…? どうして? 私があなたの意に従う理由がどこに? あなたが仕事でここにいることと、私があなたの仕事にわざわざ付き合うことと、何か関係が?」


 さすがはかわいげのない小学生にしてライバルだ、とショーリは思った。そして自分の判断は間違ってはいなかった、とも。

 この早乙女シキは、多くの者が注目し、ネットTVに公開および録画されるこの大舞台で、ショーリにとって不名誉極まりない発言をしかねないと判断したのは、考えすぎなどではなかった。


「何が望みだ。瓶コーラか? キャラメルか? キノ○の山か?」

「私はたけのこ派だけど」

「どっちでもいいわよっ。なんならどっちも買ってやるわよっ」

「きのこたけのこを買ってもらうよりは、ショーリさんいじめた方が私は楽しいけど」

「そんなことないでしょ! きのことたけのこという古来より戦争を繰り広げてきた両派閥を最強コンビとして並べるより楽しいことなんて早々あるわけないじゃない! ……た、頼むよ……あんまりおねえさんいじめないでよ……」


 ショーリ個人の問題ならまだいいが、彼女はとあるチームの一員として名を馳せている。ショーリほど有名なら、彼女の恥はチームの恥になる。それだけはなんとしても避けたい。


「まあ、別にいいけど」


 ――というか、最初からシキにそのつもりはなかったが。さすがに抵抗できない状態の相手に攻撃を仕掛けるほど、性格は悪くない。


「ほんと!? 今の録音して証拠物件として確保するけどいいのね!?」

「別に。好きにすればいいよ」


 ――というか、今シキは……いや、この【第二小学校高学年チーム】は、よそ事にかまけている暇も余裕もない。

 これから戦うことになる相手は、あの【ドラゴンキラー】である。

 実力差で自分たちの負けは確定している。

 このメンバーで一番強いであろうシキやダイサクでも、勝算は低い。まともにやりあえばほぼ0パーセントだ。 


 ただし、それでもゲーマーとしての意地がある。

 たとえランカーチームが相手でも、おとなしく五人抜きされて「やっぱり負けちゃったーあはは」と笑って済ませられるほど、普段ぬるい遊び方(・・・・・・)はしていない。


 作戦会議を始めてから、今も高く保っているイッキたちの意気込みも相当なものだが、シキも静かに燃えている。

 正直、ショーリのことを考える余裕がないほど、集中力を高めている。


「絶対だよ!? 絶対だからね!? 余計なこと言うとおねえさん泣くからね!?」


 何度も念を押して、ようやくショーリはシキから離れた。


 ――直後、ようやくチーム【ドラゴンキラー】が降臨した。





 何もなかった世界が切り替わる。

 降ってくるような証明と、歓声と、そこら中を飛んでいる無数の虫型カメラ。本戦スタジアムの周囲はたくさんの観客がいて、それこそ本物の格闘技戦のような様相を呈する。


 ――ちなみにこの溢れんばかりの観客や声は、半分くらいがCGでの水増しである。

 昨今どんなイベントでもだいたい自宅で観ることができるので、客がその場に足を運ぶこと自体が少なくなってしまった。往年に比べれば舞台や映画館は元より、野球場なども減ってしまった。

 しかし出来の良いCGは、本物さながらの迫力があった。


 かつて見たことのない光景に、少年たちは驚いた。テレビで観るのと、中央で観る(・・・・・)のとでは、全てがまるっきり違う。


「落ち着いて、まず相手を確認」


 ボイスチャットをこの場のフレンドのみに切り替え、シキはただでさえやや浮き足立っているメンバーに声を掛けた。

 周囲を見回して呆然としていた少年たちは、我に返ったように、降臨した相手チームを見た。





 英雄【エルク・ドグマ】。

 チーム【ドラゴンキラー】のリーダーで、精悍な顔立ちの青年だ。ロングソードとショートソード、金属製の胸当てやブーツを装備した、見た目の装備も軽いシンプルな戦士である。ファンタジー世界でよくいそうな、あまり特徴らしい特徴のない【ヴィジョン】だ。

 ただし、こいつが異常に強い。伊達に英雄などと呼ばれていない。ステータスの全てを高い水準で保っているせいか、瀬戸際での粘り強さは相当なものである。

 現在63位の100番以内(ハンドレッド)だ。


 半竜人ドラゴンハーフ【アルファ】。

 短いコバルトの髪に、サンライトを連想させる黄金の瞳の女性。そして赤いチャイナドレスから覗く足がセクシーである。

 特徴的なのは頭に突き出した二本の角と、縦に長い瞳孔、そして要所要所に生えた緑色の鱗の皮膚。半竜人ドラゴンハーフはドラゴンと人間の混合種として作成された【ヴィジョン】である。ドラゴンはスピード型にあたるケイイチの【風塵丸ふうじんまる】とは違い、パワー型の種族だ。

 比率やパーツによっては翼をつけた「飛行も可能」という形にもできるが、【アルファ】は人間比率が高めであるため、動き自体は人間型ヒューマンタイプとあまり変わらない。

 身軽さを保つ軽装に、武器は165センチという身の丈と同じ大剣。現在89位のランカーである。


 鉄の要塞【カルカナホルン】。

 見た目は、重装備の小柄な女の子。背は150前後で、顔の見えないフルアーマー。左手には少し屈めば自分を覆い隠すほどのタワーシールドを着けている。

 彼女が【ドラゴンキラー】の盾役にして、「受け流せない攻撃はない」と言い切る不落の要塞である。

 体格的にもステータス的にも盾役には不向きではあるが、あまり力を必要としない「受け流す防御」という盾役の新しいスタイルを確立した第一人者で、防御テクニックだけなら10番以内(テンナンバー)にも匹敵する。

 ただし彼女は個人戦向きのプレイヤーではないので、1000番以内(サウザンド)止まりである。それでも充分強いのだが。


 破壊の癒し手(ヒーラー)【タイラー】。

 一応「僧侶」という設定になっている、本名「平」さん。

 190を超える長身、筋肉ムキムキで浅黒い肌、スキンヘッドにサングラスで、袖のやぶれた腕むき出しの僧の格好で、腰帯に酒瓶とメイスを吊るした生臭坊主だ。

 「背教徒に死の鉄槌を!」だの「俺の神は貴様を滅しろと命じている!」だの「異教徒弾圧賛成!」だの言いながら容赦なくメイスを振り下ろす不良僧の姿が話題となり、【タイラー】がよく使っていた「死んで悔い改めよ」が第一回【ユニオン】流行語大賞にノミネートされた。

 ちなみに、見た目も言動もアレなので誤解されがちだが、癒し手(ヒーラー)の仕事はきっちりやる。

 彼は対人戦はほとんどやらないのでランカーではないが、普通にそこそこの1000番以内(サウザンド)クラスは余裕で勝てるので、実力は1000番以内(サウザンド)前半か100番以内(ハンドレッド)だと言われている。


 以上の四名が、今回【ドラゴンキラー】として登録しているメンツである。

 このチームは普段遊ぶメンバーというだけであって、何かしらのギルドだのなんだのという括りではない。他にも仲の良い、よく遊んでいるプレイヤーもいるので、今回はたまたまこの四人が都合が合ったというだけだ。





 さて。

 トーナメント表が配信された直後から、イッキらは今回のメンバーのことを、短い時間でできるかぎり調べた。あの有名な【ドラゴンキラー】ということでだいぶ焦りと緊張に襲われたものの、やるべきことはやってきた。

 普通に考えれば、絶対に勝てない相手だ。誰と勝負しようと五人抜きされて終わりだ。

 下馬評もそのように囁かれていることだろう。


 それを覆す準備をしてきた。


 たとえ勝てなくても、一矢報いるために。

 この中の一名を、五人掛かりで確実に潰すために。


 チーム【第二小学校高学年】の戦いが始まる。









あまり意味のない豆知識

 平さんは普段はとても温厚でいい人です。社会のストレスが彼を狂気に駆り立てているだけなのです。





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