39.反骨精神に則って団体戦開始! 画!
【ユニオン】には有名人がいる。
ランカーは順位変動が激しいので、基本的に有名人としては扱われない。1000番以内だろうと100番以内だろうと。
プラスアルファがついて、初めて有名人として扱われる。
モデルという側面を持つ早乙女シキのライバルである滝川ショーリ。
少数精鋭の女性刀使い専門ギルド「刀娘」リーダー・格上との勝負には負けたことがない凶兆の女武士【大凶】。
魔法使い型の先駆者にして始祖と呼ばれる山本リュウセイ。
個人ではないがミリタリーチーム「Gun Field」、最近では先のチャレンジイベントで名前が売れたしょぼい誤射エルフ【エーテルウィンド】などだ。
100番以内から更に上、20番以内から10番以内ともなると、情報漏えいを恐れてほとんど表には出てこなくなり、ランキング表での明記も多くが「匿名希望」となる。
もはやWFUBの世界戦くらいでしか見られない、と言っても過言ではない。
「「ん?」」
昼食を終えて店に戻ったチーム【第二小学校高学年】は、メールを受信した音に反応した。
「もしかしてトーナメント表かな」
これから団体戦があるので、運営からトーナメントの組み合わせと指示が届くはずだ。食後のガリガ○くんに夢中なシキを除いて、少年たちはメールをチェックする。
「……なんだこりゃ?」
イッキが漏らした言葉は、少年たち全員に共通するものだった。
「えっと……書いてる通りなんだろうけど」
ベテランの意見を求めるように、ケイイチはダイサクを見るが、
「俺もこういうのは初めてだ。よくわからん」
こうなると、頼みの綱は同じくベテランのシキだけになる。だがイッキらの視線を受けてもシキは○リガリくんに夢中である。
こういう時はなんとなく声をかけづらいのだが、イッキは特に気にしなかった。
「早乙女、メールチェックしてみろ」
「……どうかした?」
「なんかわけわかんねーメール来てるから、どういうことか教えてくれよ」
「……それは私のガリガ○タイムを邪魔するほど重要なの?」
「なんだそれ。それ持っててやるからちょっと見ろよ」
「とけるから嫌」
「おまえ大会とガリ○リくん、どっちが大事なんだよ!」
「そんなの決まってる」
シキは堂々と言った。
「どっちも」
ここまではっきり意思表明してしまうと、もう無理だ。食べ終わるまでは絶対に何があろうと動くことはないだろう。
「あ、じゃあさ、読み上げるから聞いてくれる?」
ケイイチは違う解決法を提示した。イッキが目に見えて不機嫌になってしまったので、下手をすればシキに襲いかかってガ○ガリくんを強奪しかねない。試合前に揉め事なんて最悪だ。
「そんなに重要なの?」
「うん、とにかく内容が気になるし」
――そしてシキも驚くことになる。
「ああ……要するにね」
ガ○ガリくんを食べ終わり、残った棒の裏表を確認する。――無印だ。やはりなかなか当たらない。
「試合前に早めにフィールドに入って、相手の【ヴィジョン】と挨拶するところを撮影したいってことだよ。言い換えると、」
シキはわざわざ近くのゴミ箱まで行くと、丁寧に袋と棒を入れ、戻ってきた。
「私たちの対戦相手が、結構な大物なんだろうね。優勝候補の有名人だったりするんじゃない?」
シキの予想は当たっている。
優勝候補、あるいはランカーの中でも特に強いと言われるプレイヤーは、予選から注目を集めている。
本戦ともなれば、注目する目の数は世界規模となる。インタビューも入れて、客寄せパンダの魅力を最大限利用して大会を盛り上げるのだ。
今回、チーム【第二小学校高学年】に届いたメールは、率直に言えば客寄せパンダに食わせる笹として紹介したいから早めに試合の準備をしてくれ、という話だ。
相手チームの、優勝への道の踏み台の一つとして記録に残したいから、と。
まあ仕方ないだろう。
相手はランカー……それも100番以内クラスだとして、こっちは無名で初出場が三人もいる小学生チームだ。実績も実力も勝てる要素など一つもない。
「ああ……やっぱりそうなんだね」
トーナメント表はまだ来ていないが、ケイイチは先のメールで、かなりキツイ相手が当たるんだろうとは予想できていた。
「一勝くらいはしたかったね……」
四人掛かりで元1000番以内にも勝てない実力である。
ランカーチーム、それも優勝候補クラスと当たれば、あっという間に五人抜きされてしまうだろう。――シキはあくまでも元ランカーで、まだ腕が戻っていない。普通に考えて勝つのは厳しそうだ。
「だからよ」
やれやれと首を振ったのは、イッキだ。
「ケーチは諦めるのが早いんだよ。なんでやる前から負ける心配してんだよ。なあカイジ?」
「そうだぞ。逆に勝った時の心配でもしろ。俺はしてる」
「それは気が早すぎるよ。だってランカーだよ? 100番以内とか、どう考えても勝てないって」
確かにそうだ。隣の元1000番以内にも未だ勝てない現状、負ける根拠は山盛りあっても勝てる根拠が皆無である。
だが、イッキは胸を張って言い切った。
「【ユニオン】は思考で操作すんだろ? 気持ちで負けてりゃ勝てるもんも勝てねーよ。負ける心配じゃなくて勝ってからの心配でもしとけ」
さすがバカである。驚くほど単純だ。
しかし、意外と言っていることは間違っていないのだ。イッキの言う通り、最初から気持ちで負けていたら、まともに操作なんてできない。
「そうだぞ。俺なんてすでに頭の中で勝者インタビューのコメントを考えつつある」
カイジは気が早すぎる。というか、勝ち負けの気持ちの先まで行ってしまっている。
「――じゃあ、仮に相手が100番以内数人のチームだと想定する」
ダイサクは腕を組み、思案する。
「総合的に、俺たちには絶対に勝ち目はない。だができることはある」
「できることって?」
「なんだよダイサクのくせに。もったいぶらずに言えよ」
バカ二人に急かされ、ダイサクは……ものすごく意地の悪い笑みを浮かべた。
「ご立派な経歴に傷をつけてやるんだよ。無名の小学生チームに一人でもやられれば、そいつらのランカーとしての地位と信頼は地に落ちる。当然人気もガタ落ちだ。たとえ世界戦で優勝しても『でもあいつら本戦一回戦で小学生に負けたよね』と言われ続ける。下手に記録を残したせいで、一生な」
「……ほう?」
「……へえ?」
イッキとカイジの表情も、あくどい笑みに歪んだ。
「あたりまえに勝てると思い上がってやがるランカーどもに一泡吹かせてやろうってわけだな?」
「ダイサクのくせにおもしれーこと言うじゃねーか。――褒美だ、とっとけ」
カイジは無理やり、ダイサクのポケットに五円○ョコをねじ込んだ。
「バカだね」
「うん」
シキが呟き、ケイイチはうなずく。
だが、どうしてだろう。
この時ケイイチの中には、「負ける」という気持ちが、ほとんどなくなっていた。
たった一人でいい。
団体戦としての負けは確定でいい、ただ相手ランカーを一人だけ潰してやろう。
そんな覚悟を決めて、少年たちは作戦会議を開いた。
大まかな流れができた頃、トーナメント表が届く。
そして驚愕した。
自分たちが何に牙を突き立てようとしているのかを知って、気持ちが、芯がぶれた。
チーム【ドラゴンキラー】。
優勝候補の一角。【ユニオン】初のチャレンジクエスト・怪獣狩り【ドラゴンを狩る者】のタイムアタックで総合一位を取った、ランキングにあまり興味のないイッキでも知っているくらいの有名なチームだ。
もちろんキャリアも実績も折り紙つきのランカー集団だ。
【第二小学校高学年】と【ドラゴンキラー】。
実力も経験も実績も負けていながら、更に名前の「いかにも強そうな感じ」でも完敗である。
チーム名を並べただけで、字面的に圧倒的敗北感が漂っていた。普通に。
あまり意味のない豆知識
この時代の子供も、やはり「ドラゴンを狩る」というフレーズにはテンションが上がります。




