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ユニオン!  作者: 南野海風
WFUB篇
32/60

30.斬斬御前VS!  光!



 なんだかんだで、シキが実戦で自分の刀を帯びるのも、一年ぶりだ。

 シキが自分で作った愛刀【四音蝶しおんちょう】は、小柄な【斬斬御前きりきりごぜん】に併せてある。


 通常見る刀よりやや長めの二尺五寸ほどの刃渡りで、特徴は波紋がなんとなく複数の蝶が飛んでいるかのような模様に見えること。漆塗り風の漆黒の木製鞘と柄で、鍔はない。

 そう、師匠たるヨーカに譲り受けた修行用の刀【くずれ】と、色が違うだけでほとんど見た目は変わらない。

 見た目は変わらないが、性能が違う。

 軽さと切れ味に特化した武器強度ほぼ0の玄人好みの【くずれ】と違い、【四音蝶しおんちょう】はやや強度を削って軽くしてある以外、標準的な機能を施してある。


 もうすぐ準備時間が終わるという頃、シキはツケを清算するために、最後の準備を行っていた。刀を変更したのもその一つだ。

 大会に併せて馴染ませてきたので、【くずれ】と同じように振るえる。ちゃんと仕上げてきた。


「おや。【くずれ】は使わないの?」


 武器を持ち替えたのを見て、三島ミドリ――【笹雪ささゆき】が声を掛けてきた。

 この一戦が終わるまでは、と思っているのだろう。リーダー【大凶だいきょう】を筆頭に、誰もシキには声を掛けなかった。さっきリアルで会った【菖蒲しょうぶ】も、ヨーカ扮する【白猫はくびょう】も。


「話していいんですか?」


 他のメンバーは、遠巻きに見ているだけだ。なのに【笹雪ささゆき】はまったく気にしていないようだ。


「うん。私、当時いなかったし。御前とギルドの揉め事も知らないし」

「知らないなら黙ってろ、新入り」


 言ったのは、ふいと顔を背けたままの【乱麻らんま】である。


「そう言われて『はい黙ってます』なんて言うメンバーいないっしょ?」


 さすが「刀娘」に入るだけの逸材だ、とシキは思った。そう、新入りだからとか相手が自分より強いから、という理由で黙るような輩は、まずこのギルドにはいない。

 むしろ軽く揉めるくらいなら刃を交わす理由ができたと喜ぶような連中ばかり――やはりこのチームの本質は変わっていない。


 【乱麻らんま】は「フン」と鼻を鳴らし、背を向けた。さすがに今揉める気はないのだろう。


「で、話を戻すけど。【くずれ】は使わないの?」

「使わない、というより、使えないんですよ。折らずに済ませられる自信がないので」


 耐久度がほとんどない【くずれ】では、自分の腕ではこの死合を突破できないと判断した。たぶん一年前の自分でも不可能だろう。それくらいあの刀は扱いが難しい。


「そっか。……やっぱブランクはあっても経験は生きてるね」


 ミドリには、ヨーカとの特訓の姿を見せている。鈍りきって錆び付いた醜態を見せてしまっている。その辺を踏まえた発言だろう。

 きっとミドリも無理だと思っていたのだろう。


 リアルで再会したあの時からしばらく経つ。だいぶ訓練したし、腕も戻った。今ならランカー候補のミドリと勝負しても面白いかもしれない。


「これ終わったら勝負しましょうか? 約束通り(・・・・)

「お、マジで? やろうやろう」

「――ちょい待ち」


 瞳を輝かせてテンションの上がったミドリの発言に、横から割り込んできたのは、刀狩りの【けい】だった。


「やるなら私が先だし。約束・・も私が先だし」


 ――シキの参入試験の相手が【けい】だったのだ。そういう意味では確かにこっちが先約ではあるが。


「えー? 【けい】ちゃん、もう何度も御前と戦ってるんでしょ? 譲ってよー」

「ダメ。絶対。腕が落ちてる御前いじめたいし」


 ――一年前の当時、シキは一度も【けい】に負けていないのだ。そこから「試験は必ず通る」と言われていた。


「うわ、小学生相手にちっちゃい……」

「予言する。【笹雪ささゆき】は御前に負ける。絶対負ける」


 ――この予言は当たることになる。


「緊張感ねえな。……まあそういうのうち向きじゃねーか」


 やれやれと首を振り、【大凶だいきょう】はタバコを咥えた。





 予告のカウントダウンが0になり、瞬時に景色が変わる。

 準備時間が終わったので、「刀娘」や散らばっていたのだろう相手チームは自陣へと転送されたのだ。


 5分間の作戦タイムの後、いよいよ戦争が始まる。


 「刀娘」が送られたのは最南端で、大地にそそり立つ5メートルほどの赤いフラッグが風になびいている。体感はできないが、今日は風が強いようだ。強く吹かれて波のように木々がざわめき、時折り深緑が陽光を反射して輝く。

 相手陣は北側だ。マップ外の西から続く川が、近くを通っている。近くに木々がないので、川方面は敵jんから丸見えだろう。やや向こうの方が地形的には有利かもしれない。


 このチーム戦が勝敗を決する条件は、三つ。

 一、旗を攻撃される。

 二、相手チームのメンバー全員をリタイアさせる。

 最後に、タイムオーバーでの諸々のポイント換算だ。


(相手は確か十九人か……全員倒すのはちょっと無理そうだな)


 個別に叩いていければ全滅も狙えるが、相手はそれなりに有名なチームだ。容易にそれをさせるほど未熟とは思えない。

 向こうはミリタリーチームだ。トラップ、潜伏、戦術、そして奥の手までちゃんと用意してあることだろう。開始早々フィールドに展開し、要所で待ち伏せする。攻略戦より防衛戦の方が楽なのだ。

 対する「刀娘」は、今回を除いても、基本ノープランだ。適当に散らばって敵を探しながら敵陣フラッグを目指す、という個々の戦力頼みの戦い方しかしない。

 相手は「対戦相手が『刀娘』である」ということも加味して、作戦を練っているに違いない。


 縮小されたマップを展開し、シキは考える。


(そもそもこちら側が問題か)


 「一人でやれ」と言われた以上、「刀娘」のメンバーは防御もしない、ということだ。

 相手はそのことを知らないが、制限時間があることを考えると、隠密にこちらの陣に這いよる伏兵を仕込む可能性は高い。いわゆる奇襲狙いで。基本でもある。どんなに戦局が傾こうと、フラッグに攻撃が成立した時点で問答無用で決着がついてしまう。

 ――ちなみにフラッグには半径10メートル以内からの攻撃しか成立しないので、遠距離からの攻撃では決着をつけられない。


 要約すると、こうだ。


(伏兵も戦略も無効化するよう立ち回る……か。となると、特攻くらいしかないか)


 相手の全兵士の銃口を、シキ自身に向けさせるのだ。

 本陣が危険となれば伏兵だって防衛に戻る確率は高いし、何かしらの作戦を行おうとしている兵士も動揺するだろう。


(本陣……)


 まあ、当然のように防御を固めているだろう。よほどの未熟者でなければ、防衛線の形で個々戦力の差を、時間を使って埋めてくるだろう。

 相手本陣は、激戦区だ。

 プレイヤー19人が集中攻撃を仕掛けてくる。それ危険度は【百人組手】など比べ物にならない。サバイバル戦でランカーが潰される現象とまったく同じ構図だ。

 いや、「周囲に敵がいるけど一時的に協力体制を取る」のと「最初から的が一つしかない」のでは、後者の方が更にキツイかもしれない。隣人が急に敵になることがない。アタッカーが周囲を警戒する必要がまったくないのだから。


(……なら、ここだ)


 敵陣に近いやや開けた場所。近くに川が流れ、向こう岸はかなり高い崖になっている。

 森からの狙撃はあるだろう。だがここなら川向こうからの狙撃はまずない。シキが最速で敵陣付近まで切り込み、逃げるようにしてこのポイントに誘い込む。高いところからのスナイプは基本ポジションではあるが、シキがここに辿り付く時間は相当短い。崖を登り切る時間はない。……と思う。もし上にスナイパーがいたら、まあ、面倒だが仕方ない。


 どうせ周囲は敵だらけだ。

 そして潜伏や奇襲が、少なくともシキよりは得意な連中だ。

 ならば開けた場所で一人一人着実に消して行き、だいたいのところで敵陣のフラッグを狙う。必ず狙われるのであれば、木々の中で己の視界を邪魔されるより、野ざらしでいて飛んできた弾丸をかわす方が、シキには若干楽だ。


 かなりアバウトで無茶ではあるが、これ以外一人で攻略する方法が思いつかない。


「……よし」


 戦略だなんて口が裂けても言えないようなゆるい策を考え、結論を出し、シキの覚悟は決まった。




 眼前に浮かぶ数字が、いよいよ10秒を切る。

 

  5 4 3 2 1 開戦!


 感情を鼓舞するような法螺貝の音が鳴り響くと同時に、シキは駆け出した。








あまり意味のない豆知識

 実はチーム戦用の道具一式が陣地にあります。「刀娘」メンバーはサバゲー経験と知識がないので触りませんが、テント、土嚢、地図、トランシーバー(別になくても仲間と通信はできる)と、サバゲー的な雰囲気の出るアイテムが備え付けで存在します。





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