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ユニオン!  作者: 南野海風
WFUB篇
30/60

28.団体戦の翌日!



 イッキらはすっかり予選が終わった気になっていたが、個人戦・団体戦・サバイバル戦が行われた翌日、チーム戦の予選が組まれていた。


「見事に忘れてるみたいだね」

「まあ出番もないし、別にいいだろう」


 恐らくこれくらいは予想していたのだろうダイサクは、律儀に応援にやってきたケイイチに「吉田も帰っていいぞ」と声を掛けた。


 昨日予選を戦った翌日も、【第二小学校高学年】の三人は、行きつけのカード販売店に再びやってきていた。入店はせず、ちょうど昨日ダイサクとシキが観戦していた辺り、店の外にいる。

 ダイサクとシキは、今日出番があるのだ。


 そう、出番のないイッキとカイジは、本日来ていない。知っていればさすがに応援には来るだろうから、本気で失念しているのだろう。

 初めてのWFUB参加で張り詰めていたものが、昨日の時点で切れたのかもしれない。大会前に平常心でいられるような二人じゃないだけに充分考えられる。今頃気が抜けてぼんやりしているか、それともまだ寝ているか。おおよそどっちかだろう。


「うーん……でもせっかく来たし、観戦はしていきたいかな。今日は部外者がいても邪魔にならないだろうし」


 チーム戦は、最大20人が1チームとして認められる。

 ゆえに、離れた場所にいるプレイヤー同士が参加することを、最初から想定されている。


 チーム戦――いわゆる戦争に参加するプレイヤーは、とにかく数が多いことが特徴だ。1チーム最大20名までである。一試合最大40名が投入されることもままある。

 つまり、地元あるいは周囲だけでは、人員を確保することさえ難しい。いくら【ユニオン】が世界的に売れている玩具であっても、全人類が持っているわけではない。


 そこで普通に考えられたのが、「世界規模でチームを作る」という方法である。


 己の隣に【ユニオン】を持っている者がいなくても、世界のどこかで【ユニオン】を持っている者がいれば、そのプレイヤーを誘えばいい。

 ネット環境の進歩と一緒に国際化が進んだ現在、普通に海外からもメンバーは集められる。日本全国どころか、全世界から集められる。


 要するに、同じ場所に集まる必要がないということだ。メンバーが同時刻に専用端末周辺に集まっていれば、それでOKだ。

 戦争は一試合に掛かる時間も少し長いし、強いチームほどバトル自体が起こりづらいので、本当に玄人好みの種目なのである。なので参加者や見学者はそんなに多くない。店の客は普段より少し多い程度である。


 第一に、観戦したいだけなら、ネットTVで見た方が自由度は高かったりする。カメラを切り替えるだけで色々な場所がチェックできるのだから。


「観戦するんだったら、早乙女の方だな。こっちは地味だ」

「私の?」


 黙って●リガリくんをかじっていたシキは、氷をガリガリ咀嚼する口を止めた。


「何せ『刀娘』の一員だ」


 その名前は、【ユニオンバトル】に興じる者なら、誰もが一度くらいは聞いたことがある有名な名前である。


 ギルド「刀娘」。

 十名にも満たない少数メンバーながら、半数以上がランカーという精鋭揃いだ。全員が刀を愛用している女性のみで構成されているチーム、ということで有名である。


「……そりゃ強いよね。あのチームの一員なら」


 最近それを聞かされたケイイチとしては、驚いた。だが驚きはしたものの、早乙女シキがあの有名なチームの一員だったと聞かされて納得もしてしまった。

 それはもう、何度戦っても勝機さえ見せてくれないはずだ、と。強さの桁が違いすぎる、と。


「候補だよ。メンバー候補(・・)。参入試験をすっぽかしたから」

「それでも、試験を受ければ必ず受かったんでしょ? だったら一員みたいなものじゃない」

「実力の問題じゃなくて、受けなかったことが問題なんだよ」


 そこにはこだわりたいシキだが、ケイイチはよくわからなかったようだ。まあいちいち説明するようなことでもない。


 親しい人に不義理を働いた。

 実力だのギルド参入だのより、シキにとってはそっちの方が重要なのだ。だから「候補・・」にこだわる。決して一員ではない、一員にはなれない、と。


「そういえばショーリさんは、『刀娘』の試験受けたのか?」


 ダイサクはふと、昨日会った刀を抜かない刀使い・瀧川翔利のことを思い出し、何気なく訊いてみた。


「宮田くん、時間だからそろそろ行くね」

「お? おう」


 その質問に、シキは答えなかった。





 ――ショーリは「刀娘」ギルド参入試験を受けている。


 いや、正確には、女性であれば誰もが受けられる試験を、受けることさえできなかった不運なプレイヤーだ。


 実力はあったし、何より刀が好きで、本人の強いこだわりでなかなか刀を抜かないことも、ギルドメンバーには好意的に受け止められていた。シキも例外なく。

 だが、「刀娘」は参入条件が厳しい。リーダーの物臭のせいで、最初から新メンバーを歓迎していない。


 参入条件は、ギルドメンバーを何人か倒すこと。

 ランカーもしくはランカーに近い実力の者に勝て、という無茶な条件だ。


 約一年前、ショーリのギルド参入試験の相手の前座・・を遊び半分で任されたシキは、ショーリに勝ってしまった。

 試験の前座に負けるという最悪の結果を受けたショーリは、もはや試験を受けることさえできなかった。


 そしてシキとショーリとの因縁が生まれ、ライバル関係はそこから始まった。


 勝負は無常である。シキは手加減はしない主義だ。師匠にもそう教えられた。

 だが、後味は悪い。すごく悪い。


 あの一件を吹聴する気はないので、シキがこれを誰かに話すことはないだろう。もし漏れたら、現ランカーでモデルという有名になってしまったネット上の瀧川ショーリのプロフィール関係が「w」で埋まってしまう。

 試験を受けられなかったばかりか、さすがにそんな追い討ちまで掛ける必要はない。





 迷ったものの、結局ケイイチは「刀娘」という有名すぎるギルドの観戦をすることにした。

 店に入り、階段を登る。三階のコートでやるらしい。


「ここでは誰かに会えるの?」

「一人来るよ」


 残りのメンバーは、違う場所の端末から参加する。

 ――ちなみに先日再会した、シキの師匠のような存在である神代かみしろ陽花ようかと、一緒に来た川島三鳥は、ここらは地元ではないので今日会う予定はない。先日は一年間も連絡が取れなかった不肖の弟子の顔を見るために、わざわざ遠くから会いに来たのだ。頭が下がる。


「高校生……あ、もう大学生か。私の弟子」

「え?」

「……を、自称してた。認めてないよ」


 あのひよっこが今やランカー候補だ。一年とは長いものである。

 そんなことを思いながら、三階フロアへ到着した。ひと気はまばらで、10人くらいしかいない。


「1フロアでやるんだよね?」

「うん。確か縦5、横3キロの巨大自然フィールドだったはず」


 幾つかある端末を全部借り切って、巨大な一つのゲームを形成するのだ。場所も広いし参加人数も多く容量も使うので、1フロアに一試合ずつしか消化できない。

 だからこの種目だけ別日なのだ。

 時間制限が最長30分で、本戦では一時間ものリミットを設けられる。舞台が個人戦や団体戦、サバイバル戦と違って味気ない平面ではなく、いつもなら怪獣狩り(モンスターハント)などで使用される大自然を再現したフィールドに放り込まれる。

 そこでは自然のもの……木々や水、地形をも現実さながらに道具として使え、それこそトラップ潜伏何でもありの、戦略が勝敗を左右する戦争を繰り広げることになる。


「あっ、シキさん」


 フロアの片隅にいた女性が、シキを見て声を上げた。


 途端に緊張がこみ上げた人見知りの強いケイイチは、相手の姿を見て目を見開いた。


(なんで和装……? いや、てゆーか……あのおじさんは?)


 ウェーブがかった艶やかな長い黒髪に、柔和さを感じさせる黒い瞳。顔立ちにも所作にも品の良さが現れているが、何より目を引くのが服装――和服である。今やお祭りか成人式くらいでしか見ない日本伝統の服だ。ピンク色の小紋だが、ケイイチにはそこまではわからない。

 この暑い日に、襟をきっちりと合わせ、帯まで締めて。

 今や奇抜なファッションを見かける機会も少なくないが、なんというか、ここまできっちり着こなしていると、すごいとしか言いようがない。

 あと、後ろにぴったり付いてくる、大柄でブラックスーツに身を包むおっさんも気になる。


「お久しぶりです、アヤメさん。山沢さんも」


 軽く頭を下げるシキ。返礼するように向こうの女性もおっさんも頭を下げた。


 ――涼前りょうぜん菖蒲あやめ

 見た目通りのお金持ちのお嬢様だ。そしてこれまた見た目通り世間ズレしているが、見た目によらずそこそこの負けず嫌いでもある。元々運動も勉強もかなりできるだけに、簡単には勝たせてもらえない【ユニオン】にどっぷりハマッてしまった。もちろん刀好きである。


 「刀娘」が「少数精鋭のランカーの集まり」になる以前からの創設初期メンバーで、シキが知り合った頃は本当に初心者だった。

 多少の縁があって一から戦い方を教えたシキをいつからか師匠と呼び、メキメキと腕を上げ、昨今ではランカー間近までランクを上げてきている。


「ヨーカさんから話は聞いたわ。色々大変だったのね」

「……そうですね」


 シキが【ユニオン】から離れたのは、両親の離婚が原因である。

 まあ、本当に大変だったのは両親だろうな、と思いつつシキはうなずく。


「山沢さん、しばらく外して」

「かしこまりました。二時間後にお迎えに参ります。――早乙女さま、何かありましたら」

「はい」


 一礼し、「山沢さん」と呼ばれた、アヤメの後ろに控えていたおっさんが階段を下りていく。


(え? まさか……執事的な?)


 去る山沢を目で追うケイイチは、「こちらの子は?」という声に我に返る。きっと自分のことだ、と。


「あなたのお兄さん?」

「似てないでしょ。同じ学校の上級生で、吉田ケイイチくんです」

「は、はじめまして。吉田です」

「はじめまして。涼前アヤメです」


 ケイイチは思った。緊張しながら思った。


 時代に揉まれ、絶滅したと思われていた大和撫子が生きていた、と。

 




 




あまり意味のない豆知識

 ギルド「刀娘」は、物臭で有名なリーダーの「『タラタ●してんじゃねーよ』よりうまいお菓子なんて存在しないよな」発言が原因でメンバーと大論争を起こし、一時解散の危機に晒されたことがあります。何が一番おいしいのか? その答えはあなたの心の中にあるのです。





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