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ユニオン!  作者: 南野海風
WFUB篇
29/60

27.団体戦!



 少し早めに、試合予定の端末付近に移動していて正解だった。

 午前中に引けていた人たちが、昼を過ぎて店に再来してきている。まあそれでも午前中の混雑よりはマシのようだが。


 団体戦は、個人戦と同じくらい人気のある種目だ。

 普段は絶対に手を組もうなんて思わないようなライバルだったり、意外な巡り合わせで意外な人物とエントリーすることもあるのが面白い。

 特に顕著なのは、ランカー同士の繋がりである。


 大まかにだが、強い者は二通りの傾向に分けられる。


 強い者同士、自分が認めるプレイヤー、つまりランカー同士で集まるのと。

 弱いチームに一人だけランカーがいる、といった助っ人パターンだ。一人だけ突出している、という意味ではイッキらと同じ構成である。表向きは。


「3回勝てば本戦出場だね」


 【ユニオン】を装着しているケイイチは、対戦相手のチェックに余念がない。まだ戦いたくないランカーの名前がないことを祈りながら、ざっとトーナメント表を見ていく。


 ちなみに団体戦やチーム戦では、【ヴィジョン】の名前のほか、団体名というものが必要になる。

 イッキらは【第二小学校高学年】という、そのまま過ぎるストレートな名前で登録されていた。


「――別にいいと思うけれど」


 いざ名前を決めるという段で、「第二小でいいだろ。いいから早くやろうぜ」と非常にカイジらしい頭脳未使用感がたまらないネームの提案から、シキのまさかの賛同が得られて決まってしまった。

 シキとしては「小学生を売りにして相手の気の緩みを狙う算段か。考えたな」と思っての賛成だったのだが、当然提案者はそこまで考えていない。


 ランカーか、それに近い者か、境界線を越えるくらい強い者は、相手が小学生であることで軽視なんてしない。ゲームが強い弱いに歳なんて関係ないのだから。

 むしろ「絶対に負けられない」とプレッシャーを感じるくらいだろう。無名の小学生に負けたランカーは、それはもう指差して笑われてしまうことになる。ネット上でも「w」で埋まる勢いで笑われてしまうことになる。


 なので、小学生であることで油断するような相手は、


「あ、おまえ!」

「ん? ああ、もしかして俺らの相手? よろしくお願いしまーす」


 ――小学生が相手だからと油断するような連中なら、それこそこちらの相手にならない。


 やってきた五人組の一人、憎らしげな顔をしてカイジを見ている金髪の兄ちゃんは、仲間内に「リベンジのチャンスじゃん」だの「また負けるなよー」と冷やかされている。


「なんだよカイジ。知り合いか?」

「予選で当たった」


 個人戦予選第一試合でカイジと当たった大学生たちが、初戦相手のようだ。


「【玉端たまはし大学ユニオンサークル】だね。ランカーはいないみたい」


 見た目通り大学生のようだ。無名でも強いプレイヤーは多いので、やはりケイイチはチェックに余念がない。


 ――チェックするまでもないな、とイッキとケイイチ以外の三人は思っていたが。





「暇だぞダイサクー! ちょっと負けてみろってー!」

「負けろ負けろー! ダイサクのくせに!」


 味方に野次られるという最悪のホームで。

 ジャンケンで勝ち抜き先鋒を取ったダイサクは、あっと言う間に大学サークルを五人抜きした。


「やかましい!」


 【ユニオン】を外し戻ってきたダイサクも、さすがに怒った。

 ダイサクとしては、二、三人倒して適当に負けるつもりだったのだ。イッキ、ケイイチ、カイジは団体戦初出場だ。わずかでも経験を積ませ、場に慣れさせたいと思っていた、のだが……

 野次られたおかげで、意地になって勝ち抜いてしまった。


 そんな初戦を皮切りに、【第二小学校高学年】は特に問題も起こらず二回戦目も突破し。


 三回戦目も、普通に勝ち抜いた。


「え? 終わり?」


 不運にもジャンケンに勝てず一人だけ一試合もできなかったイッキは、早々に届けられた「予選突破! 本戦出場おめでとう!」というタイトルの本戦案内メールを、なんの感動もなく見ていた。

 サバイバルの本戦出場メールは感動したのに、なんの貢献もしていないだけに、こっちはまったく感情が動かない。


「予選はこんなものだよ」


 シキは特殊ルール使用なので、一試合だけ出た。あとはダイサク、ケイイチ、カイジが派手に勝ち星を稼ぎ、ついには食らい尽くしてしまった。


「でも本戦は面白いよ。ランカーが多いから見応えもあるし」


 シキの言うことはもっともだろうが、イッキは観戦したいんじゃなくて出場したいのだ。見て勉強するというのもわかるが、とにかく出場したかったのだ。


「俺だけ大会で一対一やってねーんだぞ。おまえら少しは遠慮しろよ」


 イッキは「おまえら」たる仲間に抗議したが、誰も聞いてくれなかった。個人戦に出られなかったのは自業自得だし、ジャンケンに負けたのも自業自得だ。


「本戦は一週間後だね。えーと、この予選が地区大会で、一週間後の本戦が県大会。その次が全国で、最後に世界大会だ」

「世界大会とか遠いなー。何試合くらいやんだ?」

「大会一つで四回か五回戦うとするなら、十五、六回くらいか?」

「……そういう風に言われるとあんまり遠い気がしねえな」

「まあ、一戦勝つために必要な実力の壁はキツイだろうがな」

「そうだね。……僕らはどれくらいまで行けるのかな」


 ガン無視である。まさかのガン無視である。


「――あ、そうだイッキ」


 まるで世界に一人きりになってしまったかのような妙な物悲しさを感じていたその時、ケイイチが振り返った。


「もうすぐ【天草ミロク】の試合があるみたいだよ。チェックしてる?」

「天草…………佐藤アマイか!」




 佐藤天伊。

 現在47位の100番以内(ハンドレッド)ランカーで、イッキの戦闘スタイルの手本となっている近接格闘型のプレイヤーだ。

 何度も何度もアマイの動き、戦い方をチェックし、模倣してきたイッキにとっては、ある意味では師匠と呼べる存在である。まあ、一方的にだが。


 100番以内(ハンドレッド)の通称が証明するように、佐藤アマイは非常に強い。

 特に力が強いわけでも、スピードが極端に出るわけでもない、ほとんど標準的な能力しかない彼女の【天草ミロク】は、派手ではないが癖のない華麗な戦い方をする。投げや間接技も得意だが、やはり手足の打撃技が特徴だろうか。


「砂糖甘い? 何あたりまえのこと言ってんだ?」


 そんなカイジの寝言を聞き流し、イッキは慌てて【ユニオン】を操作する。

 まあ別に今慌てて見なくても、自分たちが帰る頃には、録画しているプレイヤーがネットにアップしていそうなものだが。

 1000番以内(サウザンド)どころではない、100番以内(ハンドレッド)である。雑兵も多い地区予選ながら、それでも注目度は段違いだ。


 こんなところで実力を出すとも思えないが、片鱗だけでも見えないものかと期待し、イッキはケイイチの言うチャンネルの試合を検索した。


 ちなみに佐藤アマイは、違う地区の個人戦に出場している。

 場所によって試合消化時間も順番もまちまちだ。なので、こちらではそろそろ団体戦が全部終了するという今頃になって、アマイのところは個人戦の終わりが近付いていた。


 果たして本戦出場を賭けた予選最後の第四試合に、【天草ミロク】はコートに立った。





 左サイドをピンで留めた明るい茶髪のショートカットに、動画で見たものとは違う制服を着た、どこからどう見ても普通の女子高生。それが【天草ミロク】だ。

 まるで本物の女子のように動きに併せて髪が揺れ、歩き、コート中央に立つ。


 対戦相手には悪いが、イッキはカメラを操作して【天草ミロク】に注視する。

 動画で何度も見てきた顔だ。余裕のある笑みも、プレイヤーの意思を反映しているかのような鳶色の強い相貌も、もう目に焼きついている。それほど何度も何度も飽きるほど見てきたのだ。


 カウントダウンが始まり、【天草ミロク】が構える。

 隙間ほどの隙も見せない半身、左足を前にしたしなやかな型で、即座に動けるよう腰に引いた右拳と防御にも攻撃にも使えるようゆるく上げた左手。だが力みを感じない自然体のような臨戦態勢である。

 それは驚くほど、もはや瓜二つというレベルで【無色のレイト(フリーレイト)】のそれと重なる。呼吸や鼓動さえも同じに見えるほどに。……まあ厳密に言うと呼吸も鼓動も存在しないのだが。

 明確な違いは指摘できないが、強いて違う点を上げるとすれば、【無色のレイト(フリーレイト)】よりもっと柔らかい感じがする、ということだ。


 試合開始の合図が出ると、【天草ミロク】の上げた左手が、ブレたように見えた。


「……っ!」


 イッキは息を呑んだ。


 【天草ミロク】の左手には、いつの間にか数十本の投げナイフが挟まっていた。

 対戦相手が投げたものだ。

 開戦から1秒足らずであれだけの攻撃を繰り出し、かつ届かせるスピードからして、今【天草ミロク】が戦っているプレイヤーは境界線を越えるほど強い可能性がある。


 ――今の俺にあれができるか?


 自問自答し、即座に否の答えを出す。

 両手ならできるかもしれないが、片手では無理だ。しかも足は一切動かしていない。視線も相手を見たまま。左手以外は攻撃態勢のまま。


 【天草ミロク】が左手を開くと、ナイフがこぼれ――消えた。


  ゴッ!


 消えたと思えば衝撃音が走る。【天草ミロク】の膝蹴り……シャイニングウィザードのような膝が、対戦相手の顔面を打ち抜いていた。空を打つ螺旋の視覚エフェクトがその破壊力を物語る。


 カランカランとナイフが鳴る。

 捨てたナイフが床に着く前に、決着がついていた。





「……やっぱすげえわ」


 ほんの数秒の試合が終わる頃には、知らず握り締めていたイッキの両手は汗でびっしょり濡れていた。


「うーん……言うほど強いか?」


 イッキやケイイチや、シキや、ついでにダイサクもチェックするので、なんとなく自分もしてみたカイジだが、そんな感想を抱いたようだ。


「バーカ! おまえバーカ! 帰れ!」

「なんだとコラ!」


 イッキは憤慨した。

 カイジにはわからなかったのだろう。いや、戦闘スタイルが違うと案外そんなものかもしれない。


 きっと、今のと同じことができる必要がないからだ。

 カイジの【断罪の騎士(ウル・ナイト)】なら、投げナイフくらい避ける必要はないし、接近からの膝蹴りなんて格好のカウンター対象だ。速度だって【風塵丸ふうじんまる】と比べるなら全然遅いし、攻撃速度ならシキの【斬斬御前きりきりごぜん】が圧倒する。


 要するに、大したプレイヤーには見えなかったのだ。


「……いや、大したものだよ」


 シキにはわかったようだ。


「だよな!? あいつ微調整したよな!?」

「したね」


 今はギクシャクを忘れ、イッキとシキはうなずき合う。


「あ? 微調整?」

「おまえには教えねーよバーカ! 失せろ!」

「なんだとコラ!」


 ――微調整とは、膝蹴りを避けようとした対戦相手に対応したこと、だ。


 あの速度から攻撃方向を変更するというのは、至難の業だ。

 「直線」で速いものはケイイチとシキを含めてたくさんいるが、「曲線」あるいは「円」で速い者は少ない。


 ある程度速度が出せる【ヴィジョン】を操作する者ならすぐわかる。

 あまりに速度が出ていると、慣性の法則で曲がりきれない。

 ましてや、速度で威力を上乗せした攻撃を放つとなれば、移動速度さえ攻撃に含まれる。スピードがある放たれた攻撃なのに、それで狙う的を変更するなんて不可能に近い。


 偏ったステータスのない標準型だからこそ可能な、バランス感覚と柔軟性。もちろんプレイヤーのテクニックだ。きっとコンマ1秒以下の繊細な操作を必要とされる高等テクニックである。


「いい師匠見つけたね」


 動きに変な癖がないところと、あくまでも素手にこだわっているのだろう動きが、シキも気に入った。


「だろ! いずれ俺が倒すけどな!」


 イッキは自分のことのように誇らしげだった。……まだ面識もないはずなのだが。






 こうして予選が終了した。


 吉田ケイイチ、新山カイジは個人戦本戦出場。

 山本イッキ、サバイバル戦本戦出場。


 そして団体戦、【第二小学校高学年】本戦出場。


 WFUB初出場にして、なかなかの好成績だった。








あまり意味のない豆知識

 佐藤アマイのヴィジョン【天草ミロク】は、もちろん、当然、断固として、乙女のたしなみを忘れずスカートの下にスパッツを着用しております。佐藤アマイは「履く・履け・見せない」を応援しています。




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