表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユニオン!  作者: 南野海風
WFUB篇
24/60

22.断罪の剣!




「――私は、新山くんが一番戦いづらいけれど」


 その一言が、カイジの成長の基盤になったことを知っているのは、本人だけである。






(四回勝ちゃ本戦出場か……ケイイチとは当たんねえよな? あれ? ケイイチどこだ?)


 先程届いたメールにあった予選トーナメント表を見ているのは、そろそろ出番が近付いている新山カイジである。

 店の中に入れば空調がそこそこ利いているので外に居るよりはマシだが、やはり人込みの方は気になった。


 特に、普段はこの辺で見かけない人たち。

 男も女もおっさんも子供も、近隣の顔も知らないユーザーの多さに驚いていた。いつも同じ時間帯にこの店に通っている連中なら、話したことはなくてもうっすら顔くらいは覚えているのだが。

 それくらい通い詰めているにも関わらず、世代が違うだけで、こうも知らない連中がわらわらと出てくるのだから、この大会を重要視しているプレイヤーは多いということだろう。


 ――大会。


 ここ一週間くらいずっとそわそわしっぱなしだったので疲れた。

 だから逆にもう今更焦ることもなくなったが、ここに来て気にしていなかったトラウマが、突き刺さったままの棘が心に痛みを感じさせる。


 カイジにとっての大会は、トラウマだ。


 よくある話で、初心者の通過儀礼である「初バトルは負ける」を、とある小さな大会で経験しただけだ。

 その時は、正確には初バトルじゃなかったが、対外試合――ダイサクを始め学校の知っている奴とは遊んでいたものの、まったく知らないプレイヤーとやるのは初めてだった。


 そこでボロ負けした。

 しかも対戦相手が「楽勝楽勝」とツレに言うのが聞こえ、落ち込んだ。


 それ以来、知らない者とバトルすることがどうにも苦手になってしまった。以降大会は出ていないし、知らない相手とバトルすることも意図的に避けていた。


 そもそも、疑問が生じていたのだ。


 ――俺の【ヴィジョン】は強いのか、と。


 ケイイチが【ユニオン】を始めてから、色々なゲームで遊んだ。イッキが参入してからは浸るかのように毎日遊んできた。

 その中で、カイジに求められる役割である。

 完全防備の防御型であることを買われ、囮役やら盾役やら、そういう「攻撃役じゃない役割」を任された。


 別に不満はなかった。

 むしろ自分にしかできないと言われれば、嬉しかったくらいだ。


 だが、一対一で戦う時に、嫌でも思い知るのだ。


 ――果たしてどう戦えばいいんだ、と。


 防御は堅い。

 鎧を着ているからだ。

 だから動作が遅く、ケイイチの【風塵丸ふうじんまる】は当然として、イッキの【無色のレイト(フリーレイト)】にさえ付いていけない。


 攻撃が当たらない。

 両手で振るう大剣【断罪の剣】も、バトル以外ではほとんど防御にしか使っていない。

 そもそもどう攻撃したらいいかもわからない。


 いつかケイイチとダイサクが言った通りだと思う。

 【百人組手】は、武器依存で仲間内では最高記録を出したのだ。適当に振り回していれば【NPVノンプレイヤーヴィジョン】くらいならなんとでもなるから。


 そして【百人組手】をクリアしたのは、ほとんど運だ。上手い具合に敵の攻撃を鎧でガードできたからだ。

 実力で勝ち抜いたイッキとケイイチとは、まるで意味が違った。


 そもそも、防御型であるという【断罪の騎士(ウル・ナイト)】を根本から作り直した方がいいんじゃないか――初心者のはずのイッキやケイイチにバトルで負け越し始めた頃から、ずっと思い悩み。


 そんな時に、早乙女シキに会った。





 たまたまだった。

 放課後、イッキが一度家に帰る用事があると言い、ケイイチが図書室に寄っていくと言い、ダイサクが先生に呼ばれて。

 一人、校門前でケイイチとダイサクを待っている時に、早乙女シキに会った。


「こんにちは。新山くん」


 例のがっかりイベントで終わった「ブレイカーズ・ハント」に挑戦した数日後だった。

 ここ数日で元1000番以内(サウザンド)の実力を嫌というほど見せ付けられているカイジは、本当に軽い気持ちで、強い奴に対する妬みや愚痴に近い心境で漏らした。


「――最近戦い方がよくわかんねえ。何やっても勝てる気がしねえ」


 そんな泣き言みたいな言葉を聞いたシキは、いつもと変わらない落ち着いた様子で言った。


「そう? 私は、新山くんが一番戦いづらいけれど」


 ――あなたは弱くない、まだ自分の戦闘スタイルに気づいていないだけだ、と。





 あの時から、「死なないため」の防御型【ヴィジョン】を作ったカイジにとっては、全てが想定外の成長を遂げた。

 弱いと思っていた己の【ヴィジョン】が、むしろ一対一の方が真価を発揮することに気づいた。


 気づいた瞬間、カイジはイッキらに一足遅れて、本当の意味で境界線を超えた。

 【ユニオン】を始めて半年、ようやくカイジは自分の【ヴィジョン】を心の底から信じることができた。


 【風塵丸ふうじんまる】のようなスピードなんて必要ない。

 【無色のレイト(フリーレイト)】のような器用貧乏じゃなくていい。


 やはり自分には【断罪の騎士(ウル・ナイト)】が一番合っているのだ、と。





 耳元でポーンと音がし、【ユニオン(モニター)】にメールアイコンが飛び出した。開くと「新山開児さん、試合時間が来ました」と、ようやく出番が来たことを告げた。


「よっしゃ」


 大会はトラウマだ。

 心は痛いし、やはり苦手だ。


 だが、今は、今回は一人じゃない。

 ちゃんと信じられる【断罪の騎士(あいぼう)】が一緒なのだ、恐れることなど何もない。





 どうやら対戦相手は、この店に来ていたようだ。


「よろしくな」


 先にコートに来ていたのは、チャラそうな金髪の兄ちゃんだ。大学生くらいだろうか、二、三人の仲間が彼の後ろで野次にも似た声援を送っていた。


「オス。よろしくお願いしまーす」


 カイジはそこそこのバカだが、イッキほど礼儀知らずではないので、軽く頭を下げた。

 対戦相手が小学生とわかり、向こうの応援団が「手加減してやれよー」だの「あんまいじめんなよー」だの笑いながら言っている。そして金髪の兄ちゃんは「おい失礼なこというなよ」と、言葉こそアレだがどう考えても「楽勝だろ」って笑顔で答えている。


 ――ぬるい。


 カイジは思った。

 怒りもなにもなく、ただ「ぬるい」と。


 どんな相手でも全力を尽くすこと、決して油断しないこと、手を抜かないこと――知り合いの元1000番以内(サウザンド)が、毎日毎日容赦なく斬り捨て続けることでそう教えてくれた。それはもう「おまえ大人げなさすぎるって」くらい言いたくなるレベルで。圧倒的な実力差で。


 だが、境界線を越えた後、少しだけシキのプレイスタイルが理解できるようになった。


 一瞬の油断で負けるのだ。

 それはもうあっけなく。防御が堅かろうが速かろうが、本当にあっけなく。

 ぶっちゃけ本人さえ目視できないくらい速い【風塵丸ふうじんまる】を見ていたら、そう思えないはずがない。


(ま、いいや)


 とりあえず楽に一勝できそうだ。 

 こんな気が抜けた相手がランカーとは思えない。これでランカーなら、あの元1000番以内(サウザンド)くらいとっくに一度や二度は倒せているだろう。気構えからして違うのだ。


 端末からの指示に従い、【ヴィジョン】を呼び出す。


 全身に銀色に輝く鎧をまとう【断罪の騎士(ウル・ナイト)】と。


 金髪の兄ちゃんが呼び出したのは、全身黒ずくめの……見るからに忍者という感じの【ヴィジョン】だった。名前は【半蔵ハンゾウ】、やはり忍者か。


 忍者スタイルの【ヴィジョン】を扱う者は多い。実際スピードのパラメータを伸ばせば、初心者でも気軽に「強くなった感じ」でバトルできるので、海外でも人気は高い。

 だが、カイジは知っている。

 本当に強い忍者なんて、そう多くないことに。


 己の【ヴィジョン】が見えないくらいの速度領域にも関わらず、それでも操作できるような境地まで辿りついている奴こそ、本当に怖いのだ。

 そこまで行っていないなら、残念ながら相手になるとさえ思えない。


 ――カイジは今、あの境地にまで到達しているケイイチに、普通に勝てるのだから。……まあ時々は負けるが。





 カウントダウンが始まった。


 【半蔵ハンゾウ】は腰を落として、背負った忍者刀の柄を握り構える。

 対する【断罪の騎士(ウル・ナイト)】は、見るからに重そうな【断罪の剣】を右手で肩に担ぐ。それだけで構えはない。


 忍者相手なら、勝負は一瞬だ。


 カイジは、ケイイチで嫌と言うほど経験している「忍者の仕掛け方」を、何十パターンも頭の中に描く。


  5 4 3 2 1 FIGHT!


 ホログラムが開戦を告げる。

 同時に、案の上忍者が消えた。


(……ワープ系だな)


 「ただ速いだけ」なら、ケイイチの【風塵丸ふうじんまる】やシキの攻撃速度ですっかり慣れている。

 今のカイジがまったく見えないのなら、空間移動系の【移動ムーブカード】をセットしているのだろう。


 来る場所は、だいたい決まっている。

 一撃必殺を狙える頭上か、背後か、そのくらいだ。

 いずれにせよ、【断罪の騎士(ウル・ナイト)】には関係ないが。


 予想に反せず、忍者は【断罪の騎士(ウル・ナイト)】の背後に出現した。


 【断罪の騎士(ウル・ナイト)】は振り返る――が、やはりそこは忍者、相手の方が速かった。


 まあ、わざと遅く振り返ったのだが。

 この辺の瞬間的な判断力は、異様に強く感じられる仲間内とのバトルで鍛えられたものだ。


 抜き払った忍者刀を突き立てようと、刀を構えて身体ごと【断罪の騎士(ウル・ナイト)】に突撃した。


  ガギン!


 鎧に防がれ、忍者刀が見事に折れた。


「はあ!?」


 金髪の兄ちゃんがめちゃくちゃ驚いたような声を上げた頃には、断罪の剣は振り下ろされていた。


 あの様子では、攻撃を誘われたことさえ、攻撃させるだけの隙をわざと作ったことさえ気づいていないようだ。





 ――【断罪の騎士(ウル・ナイト)】は防御型だ。


 それは、突き詰めればカウンター型である。


 急所だけは守り、相打ちのタイミングで剣を振り下ろせばいい。たったそれだけで攻撃手段の見えない防御型が化ける。

 更にカイジは、伊達にいつも盾役だの囮役だのしていたわけではない。

 どこが一番装甲が厚いのか、どこで攻撃を受ければダメージがないのか、鎧の構造まですでに知り尽くしている。


 あの対戦相手の驚き様は、もしかしたら武器強化のカードをセットしていたのかもしれない。そう考えると金属の鎧相手にまともに突っ込んできたことの説明にもなる。


 だが甘い。

 カイジは自分の役割がわかっているだけに、ただでさえ堅い鎧に、更にカードで防御力を上げている。どちらも強化されているなら数値上の上乗せ効果は相殺だ。

 ――そもそも日本刀は武器強度自体が低いのだ。見た目通り細くしなやかな刃は、他の刀剣と比べて折れやすい。いくら強化してあるからってフルアーマーに突っ込むなんて何を考えているのか。もし「刀娘」メンバーが見ていたら大説教ものである。全力で大説教ものである。


 攻撃は相打ち覚悟でいい。

 相手の攻撃でやられなければ、重い断罪の剣は一撃で相手を屠るのだから。





(余裕で一勝目、っと)


 仲間内ではいの一番の戦果である。

 外やら中やらに居る仲間に報告メールを送り、カイジは【ユニオン】を外した。


「あっちいな」


 満足そうに呟く彼に、もはやトラウマの痛みは存在しなかった。









あまり意味のない豆知識

 新山カイジは一度だけお菓子カードを当てたことがあります。お菓子はヨーグ●でした。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ