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BAY  作者: 一真 シン
10/19

10 約束をしよう

「……」

 ――表が騒がしい。なにやら数人、廊下を走り回っている。

 ……そういえば、つい数分前、どこかで爆発音が聞こえたような気がする……。

「……」

 ……。爆発音?

「……」

 ……。爆発――。

 アリスは、ガバッ! と布団を捲って身体を起こした。

 まさかタグー!?

 慌てて上着を羽織って、ベッドの下のスリッパを履いた。

 “爆発”イコール“タグー”。その方程式に頭がパニックになる。

 ヤダ! ひょっとしてまた何か破壊したの!?

 医療服のままだが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。アリスはボサボサの髪の毛もそのままに、部屋のドアを開けた。

「こっちだっ! 急げ!」

「ピンセットと絆創膏も!!」

 バタバタと廊下を白衣姿の医務官たちが走り回る。アリスはオロオロしながら、その中の一人をなんとか呼び止めた。

「あのっ……、どうしたんですか!? また……候補生が!?」

「えっ? ……ああっ、違うよっ。あのエンジニア候補生じゃないよっ」

 “候補生”だけでわかってしまうのは悲しいが、しかし……。

「……候補生じゃない?」

 アリスはキョトンとした。……タグー以外に誰が?

 その答えは、すぐに返ってきた。

「候補生じゃなくって、あの、ここの土地に住んでいたっていうクロスの子だよっ!」

「……」

 ……フローレル!?

 アリスは驚いて目を見開くと、「ど、どこですか!?」と慌てて問い掛けた。






「みゅーっっ」

「動くんじゃない」

「みゅーっ!!」

「動くんじゃない」

 アリスは息を切らして司令塔へと走ってきた。周りの様子を窺うと、なにやら騒々しさはあるものの、タグーの時と比べると焦げは少ない……。

「……アリスっ」

 彼女に気が付いたタグーがすぐに駆け寄ってきて、心配げな表情で顔を覗き込んだ。

「息切らしてどうしたのっ? 苦しいのっ?」

 アリスは数回深呼吸をしながら、小さく首を振った。

「ち、違う……。ど、どうしたの? フローレルが、ば、爆発を起こしたって、聞いたから……」

「大丈夫だよ。……ンほら、ここに座って」

 と、タグーは呼吸の荒いアリスに近場にあったイスを勧めた。

 アリスは大人しくそこに座ると、息を整え、顔をしかめつつタグーを見上げた。

「……で、……どうしたの?」

「ああ……」

 タグーは、人だかりができている方を振り返った。

「フローレルが何か作ってたらしいんだけど、それが途中で爆発起こしたみたいだね。機材が細かいものばっかりだったから、爆発音に比べたら被害は少ないみたいだけど、散弾銃みたいにさ、細かい部材があちこちに飛んじゃったらしくって、ここにいたみんな、ちょっと怪我したみたい」

「……大怪我じゃないのね?」

「まぁ……フローレルの場合、いっぱい突き刺さってるけどね」

「……。突き刺さってる?」

「うん。今、ロックとガイが取り押さえて、クリスがピンセットで抜いていってるけど」

 アリスの顔から血が引いた。突き刺さったものを引き抜く、って……――。思わず想像しそうになって、慌てて頭を左右に大きく振る。そんな彼女の様子などお構いなしに、タグーは「あっ」と何かを思い出して、笑顔で身を乗り出した。

「あのさっ、クロスを探すことになったんだよっ」

「……え?」

 アリスは小さく首を傾げ、笑顔のタグーを見上げた。

「ひょっとしたらね、キッドたち、クロスたちに助けてもらってるかも知れないんだっ。……可能性はわからないけど。……でもっ、その可能性を信じようかって、さっきもロックと話してたんだよっ」

 昨日まで落ち込んでいた姿とは裏腹。今日はいつものタグーらしくなっている。

 アリスは安堵のため息を漏らして視線を落とした。

「……そう。……そうなんだ……」

「どうなるかわかんないけどさ、……今は、進むしかないよねっ」

「……。うん」

 アリスは少し微笑み頷くと、改めて、人混みの方を訝しげに見た。

「それで……フローレルは何を作ろうとしていたの? 知ってる?」

「ああ、それが……通信機みたいなものだったらしくってさ」

「……。通信機?」

 言葉を繰り返して更に訝しげな表情をすると、タグーは「うん」と頷いた。

「クロスの仲間たちと連絡を取ろうとしてたみたい」

「……けど、通信機ならここにいくらだって……」

「そう。……でもみんな……バタバタしてたから。……気を遣ったんだろうね」

 苦笑して少し視線を落としたタグーにアリスも俯いて目を細めたが、すぐに気持ちを切り替え、顔を上げてか細く笑った。

「これで、フローレルもタグーと一緒だってコトがわかったね」

「……。それって、どうゆう意味?」

 と、不愉快そうに目を据わらせると、アリスは少し笑って、肩の力を抜くと同時に一息吐いた。

「そっか。じゃあ……問題はないんだね」

「うん。まあ、ないけど……」

「……あたし、部屋に戻るよ」

「……、うん。……あ、送ろうか?」

「ううん。いいよ。大丈夫」

 立ち上がったアリスへと手を伸ばしたタグーに小さく首を振った。

「フローレルに気を付けてね、って、伝えて置いて。……あと……ありがとう、って」

「……うん」

 アリスは少し微笑むと、そこからゆっくり歩いていく。タグーはそんな彼女の背中を見つめて、首を傾げた。

 ――窓から少しずつ、太陽の光が射し込んでくる。

 アリスは壁伝いに歩きながら、窓があると外の様子を見つめた。

 昨夜見た限りじゃ、ただ地面がデコボコしているだけのような気がした。けれど今ははっきりとわかる。デコボコどころじゃない。爆撃の跡と、機体が滑ったような跡と……原因を探ればいくらだって出てくる。それだけ戦闘が激しかったんだ、と思い知らされる。

 ……そう。フライとセシル、ダグラスの戦いが……――。

 窓の向こうを見つめていたアリスは目を逸らすと、逃げるように足早に病室へと向かった。






「やっぱりキミの機械工学の知識って、大したことなかったんだね」

「……みゅー」

 絆創膏だらけのフローレルは、呆れるタグーを拗ねながらも睨み付けた。

 ケイティ内の休憩室――。

「大体、無謀だよ。あれだけの機材で通信機を作ろうなんて」

「……。作れるんだもんっ」

「作れなかったじゃん」

 フローレルはムスっと口を尖らせた。

 司令塔の被害は思ったより少なかった。数人のエンジニアたちによって調査が行われたが、数枚のパネルにヒビが入った程度で、後は内部までの異常は発見されなかった。不幸中の幸いとも言える。

 フローレルだけでなく、ロックやタグー、そしてガイも一緒になってクリスや上官たちに怒やされた後、「司令塔立入禁止だ!」と追い出され、ガックリと、休憩室までやってきて隅っこの丸テーブルの一つを陣取った。

 ロックは紙コップに注いだコーヒーを一口飲むと、それをテーブルに置き、フローレルを睨み付けた。

「あんまりクリスたちに迷惑掛けるようなことするんじゃないぞ」

「みゅー……。そんなつもり、なかったみゅー……」

 注意されたフローレルは、しょぼん……と俯いた。

「早くみんなと連絡取りたかったみゅー……」

「そりゃ、わかるけど……」

 ロックは目を反らし、気を落ち着かせるように小さくため息を吐いた。

 フローレルの気持ちはありがたい。本当なら優しい言葉の一つでも掛けてやりたい所だが、しかし……現状が現状なのだ。

 反省しきって俯きっ放しのフローレルに、タグーは首を傾げた。

「けど、どうして交信機なんか造ろうと思ったの?」

「みゅー。フローレル、ちょっと気になることがあるみゅー」

「気になること?」

「あの機動兵器のことですか?」

 訝しげに繰り返すタグーの隣の椅子に座っていたガイが口を挟むと、「みゅ」と、フローレルは頷いた。

 通じ合っている風の二人に、意味がわからず、ロックとタグーは顔をしかめた。

「なんだよ? あの機動兵器、……って?」

 軽く首を傾げて怪訝そうに問う、そんなロックにガイは顔を向けた。

「あなた方がエバーに向かっている間に起こったことについてです。クロスの方々にお会いできたなら確認をしたかったのですが……」

「何を?」

「あなた方の上官、フライス総督とセシル教官、とおっしゃいましたね? ひょっとしたら、彼らは生きているかも知れません」

「なんだって!?」

「本当!?」

 ロックとタグーが愕然とした表情で同時に詰め寄った。

「どういうこった!?」

「なになに!! どーして!?」

 グイグイと二人に詰め寄られたガイは、少し身体を後ろに反らした。

「可能性がある、ということです。実際、本当に生きていらっしゃるかはわかりませんが、それを確かめたいんです」

「みゅー。フローレルも同じみゅー」

 と、フローレルも手を挙げてガイの言葉に同意し、ロックは焦りの色を浮かべた。

「なんでっ? 何か根拠があるのか!?」

「確かなものではありません。……ただ、あの時の戦闘模様を見ていて、敵機の様子が不可解だったものですから」

「みゅ。そうそう。それにもっとおかしいのは、血痕が少ないってコトみゅ」

「……血痕?」

「ロックたち、見てなかったからわからないみゅ。あの勢いで潰されたワリには、機体に残っていた血痕が少な過ぎるみゅ。肉片もないみたいだし……。ひょっとしたら、タイムゲートが開いたんじゃないかって、そう思うみゅ」

「……タイムゲート?」

「あなた方がここに落ちてきた時に遭遇した、という光の柱です。ひょっとしたらお二方は、あの敵機によってタイムゲートにてワープされたのではないかと」

「け、けど、それをどうやってクロスに確認を……?」

「みゅ。フローレルたち、たくさん研究してるみゅー。生物のみのタイムゲート使う時、生命形態を分子レベルで一時分散するみゅ。その時の放射反応が残ってるモノだみゅ。それを調べる装置、フローレルたち、持ってるみゅ」

「……それじゃ……」

 言葉を詰まらせるロックに、ガイは頷いた。

「可能性はゼロではありません。キッドたちのことも。そして、あなたたちの上官の方々のことも」

 ロックはポカンとしていたが、気が抜けてしまったのか、ガクッと身体の力を抜いて椅子に深くもたれた。

 フライも、セシル教官も……そしてキッドたちも。みんな、生きてるかも知れない。そう思うと同時に深呼吸をした。なんとなく、身体から重い物がなくなった。

 タグーは嬉しそうに、笑顔でロックを振り返った。

「クリスに話そうよ! で、早くクロスの人たちが見つかるように協力してもらってさ!!」

「……そうだな」

 ロックは安堵のため息にも似た吐息を吐くと、ガイを見上て窺った。

「……すぐ見つかると思うか?」

「もしかしたら、彼らもわたしたちを捜しているかも知れません。出会うのも時間の問題かと思われます」

「……。よし」

「みゅーっ。やっとみんなに会えるみゅーっ。みんなに会えたら、ちゃんと紹介するみゅーっ。仲良しになるみゅーっ」

「……。みんなフローレルみたいだったら、ヤだな」

 楽しそうに飛び跳ねていたフローレルは、ムカッと、顔を逸らして呟いたタグーを睨み付けた。タグーは素早く背を向け、「……あ」と、何かを思い出してロックを振り返った。

「このこと、アリスに話さなくていいの?」

「え? ああっ、そうだなっ。あいつも気になってるだろうし……話しておくかっ」

「……と、それと……」

「ん?」

 タグーは視線を逸らし気味に、少し言葉を濁した。

「アリスさ、なんか……様子がおかしい感じがするんだよね。だからさ、その……ケンカ腰にはならないようにね」

「また何か考え込んでンのかよっ、あいつ!」

 眉をつり上げるロックに、タグーは慌てて首を横に振った。

「だ、だからそういうのがダメだってば!」

「よしっ、行くぞっ!」

「ち、ちょっと待ってよ!!」

 制止を聞き入れることなく、ロックはドスドスっ、と、目くじらを立てて歩いていく。タグーたちは慌ててその後を追い掛けた。そして、ケイティ内の医療施設――。監視の医務員には愛想よく挨拶して点数を稼ぎ、ゾロゾロと足早に病室に向かう。

「アリス!!」

 ノックもなしに突然、ロックは個人病棟の部屋の中に押し入った。だが、ドアを開けた途端、朝日による逆光で視界を奪われ、ロックは「……っ」と、顔を歪めて目を細めた。

 ……目の前が真っ白になって、窓際に立っていたアリスの姿が薄く見えた――。

 ロックは焦るように目を見開いて息を飲み、駆け寄ろうと一歩足を踏み出した。

「どうしたの?」

 アリスの声が響くと同時に、シャッとカーテンの閉まる音が聞こえ、目の前が少し暗くなる。ロックは少し胸を高鳴らせながらも、それでも平然を装って部屋の中に入った。

「よ、よぉ」

「……?」

 ぎこちない挨拶にアリスは少し首を傾げていたが、ロックの背後、絆創膏だらけのフローレルを見つけて苦笑した。

「痛くない?」

「みゅー。ちょっとヒリヒリするみゅー。けど、大丈夫っ!」

 笑顔で腰に手を置いて胸を張る、いつも通り元気のいいフローレルに、アリスは微笑んだ。……が、タグーにはその笑顔がなぜか不自然に感じられた。

 アリスはベッドに戻るとそこに座り、何かを確かめるように周りを見て、ドアを閉めたその前で立ち尽くしているみんなへと目を向けた。

「椅子、足りないね。ここに座っていいよ」

 ベッドの片隅を軽く叩くと、フローレルは嬉しそうにバフンっとベッドに飛び込んだ。同時に身体が少し揺れ、アリスは「ふふっ」と笑う。

 ロックは、「ったく……」と、ベッドの上でフワフワ身体を揺らすフローレルを睨み付けて椅子を用意し、タグーとガイは、一緒にベッドの片隅へと腰を下ろした。

「……で、どうだ? 調子は」

 ロックが言葉を切り出すと、アリスはにっこり笑って見せた。

「だいぶいいよ。大人しくしてたからね」

「そうか」

「うん」

「さっき、ガイたちと話してたんだけどな」

「ん?」

「ひょっとしたら……なんだけど、……キッドたちも、フライとセシル教官も、生きてるかも知れないんだ」

 ――一瞬、アリスの表情が消えた。驚きや、躊躇いの類じゃない。だが、誰も彼女の心情には気付かなかった。

「あくまで可能性として、ですが。それを確かめるために、クロスの方々の力が必要なのです」

「だから、すぐクロスの人、探さなくちゃっ!」

 タグーが嬉しそうにガイの言葉に続く。

 アリスはゆっくりと俯いて、か細く微笑んだ。

「……そう。……そうなんだ。みんな……生きてるかも知れないんだ……。……よかった」

 本当に安心しているのか、なにやら微妙な笑みを浮かべる。そんなアリスにロックとタグーは顔を見合わせた。――確かにおかしい。

「……早くみんなに会いたいね……。キッドさんにも、リタにも……」

「みゅーっ。会えるみゅーっ。絶対に会えるみゅーっっ」

 ベッドの上、フローレルは笑顔で腕を広げた。

「フローレルもクロスの仲間に会って、みんなを紹介するんだみゅっ。キッドもリタもっ。みんな、紹介するんだみゅーっ。んで、リタにお返ししたいみゅーっ」

「……お返し?」

 アリスが振り返って首を傾げると、フローレルは頷き、首もとに手をやって、そこから何かを引っ張り出した。

「コレっ。コレのお返しみゅっ」

 フローレルが見せてくれたペンダントにアリスは首を傾げていたが、少し微笑んで彼女に目を戻した。

「綺麗な石。……リタがくれたの?」

「みゅっ。みんなとお揃いっ」

 タグーは「ああ……」と話に割り込んだ。

「リタが作ってくれたんだよ。お守りに、って。僕たちも持ってるんだ」

「……あ。そうなんだ」

 アリスは少し戸惑いがちに笑った。

「あたし、眠ってたから知らないんだね……」

 その言葉にタグーはなぜか胸が締め付けられ、焦るように身を乗り出し身振り素振りで笑みを取り繕った。

「あっ、けどリタっ、アリスの分も作るって言ってたよっ」

「そう……。ふふ。楽しみだなぁ」

 アリスは足下に視線を落として笑った。……と、その時。ロックが突然、椅子から立ち上がってアリスを見下ろした。

「お前、何を隠してるんだ?」

 不愉快げな表情で睨むロックの突然のセリフに、顔を上げたアリスはキョトンとした。

 タグーは“ヤバイ空気”を感じてか、ロックに近寄って彼の袖を引っ張った。

「ち、ちょっとロックっ」

「お前、絶対何か隠してるだろっ!」

 アリスに詰め寄ろうとしたロックの次の行動を予測したタグーは、慌てて背後に回ると脇から肩に掛けて腕を回し彼をグッと引っ張った。そして、横から顔を覗かせて「あ、あはははは」と、顔を引きつらせてアリスに笑い掛けた。

「な、なんでもないんだよアリスー。気にしないでねー」

「バカか! 言え! 何を隠してるんだ!!」

 タグーに取り押さえられて余計に腹が立つのか、ロックは声を荒立てた。

 フローレルはキョトンとした表情で三人を交互に見比べ、ガイは、じ……とアリスを見ている。

 アリスは無表情でロックを見ていたが、しばらく間を置いて微笑んで見せた。

「誰が何を隠してるって?」

「お前だよ! お・ま・え!!」

「あたしが何を隠すって言うのよ? 変な言い掛かりはやめてよね」

 アリスがフンッとそっぽ向くと、タグーは「ははは……」と取り繕うように笑った。

「だ、だよねー。言い掛かりだよねぇー」

「タグー、てめぇ!!」

 ギロッと振り返り睨まれ、タグーは息を詰まらせた。

 アリスは大きくため息を吐き、方眉を上げて腕を組んだ。

「あたしは何も隠してません。……あんまり騒ぐと、医務官を呼んで追い出すわよ?」

 ロックは「……ニャロー!」と、怒りを露わに詰め寄ろうとしたが、一歩遅く、アリスが素早くベッドの枕元にある緊急用ブザーを押した。

 タグーは「ああっ!」と焦ったが、間もなく女性医務官がやって来て、訝しげな表情で彼らを睨んだ。

「どうしたのっ?」

 アリスは「うっ……」と胸を押さえ、前のめりに身体を倒した。

「む、胸が苦しいんです……」

 ロックたちは「はぁっ!?」と、唖然とした表情でアリスを振り返るが、その演技に騙された医務官は「まったく!」と、腰に手を置いてロックたちを睨み付けた。

「あんたたち、負担を掛けたね!?」

「えっ!? ち、ちがっ……」

「言い訳は無用!! 出て行きなさい!!」

 焦って弁解しようとしたロックたちを、医務官は押しやるように容赦なく部屋から追い出した。

 通路から説教をする医務官の声が聞こえ出し、アリスはサッとベッドから降りてドアに鍵を掛け、小棚からフォークを取って椅子を運び、換気ダクトの下にやってくると、椅子に乗って手を伸ばして蓋に小細工をした。

 その後、換気ダクトの向こうから「クソ女っ」「バカ女っ」という声が聞こえてきていたが、全て無視。

 ――それからどのくらいの時間が過ぎただろう。

 昼食と薬剤の点滴を終える頃には、窓からオレンジ色の光が差し込んでいた。

 外の様子を眺めていると、時々インペンドの影が見え、その度に心のどこかが怖くなって布団の中に隠れた。そんなことを、一人繰り返していた。

 アリスは布団の中で身体を丸め、頭を抱え込んだ。

 ……この感じは何かに似ている。……何に似ているンだろう……。

『ワシゃ、こいつが嫌いだった』

『私も。バカなことしかしないんだもの』

『俺はセシルが嫌いだった。生意気だったんだ、すごく』

『私はそういうあなたが嫌いだったわ。女の子と見ればすぐにちょっかい出して』

『俺はみんなのことが好きだったよ』

『嘘吐け!』

 ……やめて! ……もう黙ってて……!!

 耳を塞いで、ギュッ……! と目を閉じるが、コンコンと、不意にドアがノックされ、アリスはハッ……と顔を上げて潜り込んでいた布団の中から顔を覗かせると、躊躇いつつも小さく声を出した。

「……はい……?」

「アリス・バートン? あなたに会いたいって人がいるんだけど」

 ドアの向こうからの女性医務官の言葉にロックたちの顔が浮かび、アリスはため息を吐いて、「……もうっ」と言葉を吐きながらベッドから起き上がった。

「……誰ですか?」

 少し不愉快げなアリスの問い掛けに、しばらくして返事が返ってきた。

「ライフリンクのメリッサ・ギルバートって人よ。どうする? 会いたくないなら帰ってもらうけど?」

 ――心臓が一瞬、激しく鼓動した。

 メリッサというと、そう、サブレット軍艦で一緒にいた、あの……。

 アリスは目を見開くと、医療服の上からカーディガンを羽織って、ドアへと足早に近寄った。そこを開けるかどうか、躊躇ったが、しかし、身体が勝手に動いてそこを開けていた。

 女性医務官に「長居しないようにね」と忠告されたメリッサは「はい、ありがとうございます」と礼を言い、歩いて行く背中を見送ってからアリスの方へと向いた。

 アリスは目を見合わせることはなく、俯いたまま、ドアを大きく開けた。

「……、どうぞ……」

 か細く言って道を空け、メリッサを中に通す。

「突然ごめんね。やっとサブレットから出られるようになったの。……あ、コレ、お見舞い」

 メリッサはそう言って、果物の入ったカゴを見せ、「ここに置いておくわね」と、小棚の上に静かに置いた。

 アリスは部屋のドアを閉めると、彼女に椅子を勧め、そして、目が合うと恥ずかしそうにカーディガンを引っ張って医療服を隠そうとした。

「……すみません……、こんな格好で……」

「ううん、いいよ。……気にしないで」

 ベッドの片隅に腰を下ろしたアリスを見て、メリッサは小さく微笑み、椅子に腰掛けた。

「……どう? 調子は」

「あ、はい。……大丈夫です……」

「そう。……いろいろ話は聞いてるの。遠回り、だけど……。すごく大変だったみたいね」

「……いえ……。そんな……」

 アリスは伏せ目がちにして首を振った。

 ――どうして彼女を部屋に通したのか、わからない。……そう。あんなにひどいことがあったのに。

 俯きっ放しのアリスに、メリッサはしばらく間を置き、話を切り出した。

「……あの時……」

「……」

「……。……ごめん」

 アリスは少し顔を上げた。メリッサの目はアリスではなく、床の方へと向けられている。

「今更だけど……どうしてもちゃんと謝りたくって……」

「……」

「……。ごめんね……。……。ごめん……」

 頭を深々と下げられ、アリスは慌てて彼女の腕に手を触れた。その時、感じた。

 ……本当に、この人は心から詫びている。心から、すまないって、そう思ってる――。

 メリッサはゆっくり顔を上げると、困惑した表情でウロたえているアリスを真っ直ぐに見た。

「……あなたをたくさん傷付けた。……その罪は消えない。……けど、どうしても謝っておきたかったの。……。あの時……あなたの傷を押さえてた時、私、心の中で謝ってたの、気付いたでしょ? ……あなた、うん、って……。……私……自分がどれだけ愚かだったか、気が付いた……。……遅いけど……」

「……」

「……馬鹿よね。……恐怖を感じて初めて罪に気付くなんて。……、痛かったよね」

 メリッサは少し息を乱した。眼が赤くなって潤んでいくが、キョロキョロと辺りを見て誤魔化し、気持ちを整えるように数回深呼吸をして、最後に深く息を吐いて真っ直ぐアリスに目を向けた。

「……私にさ、力になれることがあったら言って。私、力になるから。……こんなことで許されるとは思ってないけど……でも、何かしなくちゃ、落ち着かなくって。……ずっと気になって。……、ごめん。やっぱりこういうのも自分勝手よね……」

 メリッサは視線を逸らして弱々しく微笑んだ。

 アリスは俯いていたが、ゆっくりと目を上げて彼女を見た。

 ……この人は、怖がっている――。

 サブレット軍艦に行く際、セシルの手から離れ、メリッサに触れて感じた“憎憎しいもの”、あれは、彼女自身が作り出した“偽りの空気”だと知ったのは、耳の裏を怪我したとき。

 ――先輩たちからいじめられた。でも、メリッサは一切手を出さなかった。ただ、離れたところから見ていた。それでも、先輩たちと同じだと思っていた。しかし、耳の裏を怪我した時、メリッサ以外の誰かが足を退けてアリスの怪我に気が付いた時。心が折れそうだったアリスが見たのは、霞んだ視線の向こう、恐ろしさと、後悔に満ちたメリッサの顔だった。

 血が溢れる耳を、躊躇うことなく押さえて止血しようとし、医務室まで抱えて運んだのはメリッサ一人だけだった――。

 その時、感じた。

 メリッサも、自分同様の体験をしていたんだ、と。それでもなんとか“輪に溶け込んだ”成功者なのだ、と。だから、空気を作っていたのだと。誰にも悟られないように、仲間に見捨てられないために……。その糸が、あの時に切れた――。

 アリスは間を置いて小さく首を振った。

「……あたし、もう……、そんな昔のこと……忘れました」

 そう言うことしかできなかった。それ以上の言葉も見つからない。それ以外の言葉も。

 アリスは、顔を上げたメリッサに少し微笑んだ。

「会いに来てくれて、ありがとうございます。……嬉しいです。……ここに来てくれたの、……会いに来てくれたの、ライフリンクでは先輩が初めてだから……」

 アリスのその言葉にメリッサは何か気が付いたのか、少し間を置いて誤魔化すように、

「……あ、皮、剥いてあげようか」

と笑って、持ってきた果物に手を伸ばした。

「病院食ってまずいでしょ? 私も何度か経験があるんだよね。点滴とかさ、アレやった後、なんか変な味がするよね」

 アリスは笑顔で頷いた。

「します。すごく口の中が気持ち悪くって」

「でしょ? けど、あなた程の力を持ってる人でも入院するのね。どれだけパワーを使っちゃったの?」

「はは……、たぶん……極限まで」

「……、呆れた子」

 そんな会話をしながら、メリッサは慣れた手つきで綺麗に果物の皮を剥いていく。小皿を用意して、小さく切り分けそこに乗せると、フォークと一緒にアリスに差し出した。

「はい。……おいしいといいんだけど」

「……ありがとうございます。いただきます」

 アリスは小さく頭を下げ、早速口へ果物を運ぶ。シャクッと、みずみずしい音と同時に、数回口を動かし、にっこり笑って見せた。

「甘くておいしいですっ。あーなんか……生き返ります」

 ホッと肩の力を抜くアリスにメリッサは少し笑った。

「でも……元気そうでよかった。……落ち込んでるんじゃないか、って思ってさ。……セシル教官のこともあったし」

 アリスは不意に表情を消し、視線を落とした。空気を感じ取ったメリッサは、「……あ」と小さく言葉を漏らす。だが、アリスはそんな彼女に小さく微笑んで、「心配ない」と言うように首を振った。

「大丈夫です。ひょっとしたら……なんですけど、生きてるかも知れないんですって。……フライと一緒に」

「……そうなのっ?」

「はい。……まだわからないですけど」

 曖昧な情報だが、メリッサは安堵のため息を吐いた。

「そうなんだ……。“アレ”を見てたから絶望的だったの……。……そう。生きてるかも知れないのね。……よかった」

「……はい」

 アリスは同意するように頷くが、メリッサはそんな彼女を見て、少し首を傾げた。

「……どうかした?」

「え?」

「なんだか、ちょっと……おかしいよね?」

 心配そうな視線を向けるメリッサに、アリスは何も答えず、少し視線を逸らした。

 何も語ろうとはしないアリスをじっと見ていたメリッサは、躊躇いがちに微笑んで顔を覗き込んだ。

「あの、さ、私たちって……ちょっと特殊じゃない? 普通の人にはわからないことがわかっちゃったり……。……けど、ホントは普通の人も同じだと思うの。……感じることはできなくても、目に見えるもので判断できるのよね……。……私たち、そういう感覚には鈍いのかもしれない」

「……」

「……感情を感じ取る力はあっても……何か足りない。……空気のようなものだからかもしれない。人の感情なんて、手を伸ばしたところで触れられないから。……でも、目の前で辛いこととか、悲しいこととか言われたら……、それを相手から伝えられたら、もう、それは空気じゃないんだよ。……手を伸ばせば、そこには相手がいるの」

 アリスは目を細めて俯いた。

 メリッサは少し間を置いて視線を落としたが、笑顔でアリスの腕を撫でた。

「いいんだよ、言っても」

「……」

「怖がらないで。……あなたには仲間がいるでしょ? ……噂の問題児たちがさ」

 アリスは目を見開いた。

『じゃあ、なんのために俺やタグーっているんだ?』

 ――……なんの……ため……?

 メリッサは少し目を見開いた。

 アリスは大粒の涙を零して、口を押さえて身体を丸めた。

 肩を震わせ、微かに泣き声を漏らす。そんなアリスを見てメリッサは悲しげに目を細めると、そ……と彼女の身体を抱き、包み込んだ。

「……もう、我慢しなくていいのよ。……あなたは一人じゃない。……愛してもらいたいなら、怖がらずに腕を広げて」

「……っ」

「……求めてばかりじゃいけない。あなたも愛さなくちゃ……ね? アリス……」






「ムカツク!! あのクソ女!!」

「……そういう言い方ってないと思うけど?」

「ムカツク!!」

 開発研究室、第一室――。

 フローレルに「そこそこ」「その部品はそこ」と指示を出されながらタグーが何かを作っている傍、ロックは、机の片隅に座って足を組み、苛立ちを露わにしている。

 医療施設を追い出されてからずっと、彼の愚痴は止まらない。一旦姿が消えて静かになったと思ったら、また戻ってきて愚痴り出す。タグーもいい加減、呆れていた。

「大体なんだよ! あの態度!!」

「ロックのその喧嘩腰の態度もどうだかね」

 タグーはサラリと言うものの、ギロッと睨まれ、「……ぼ、僕何も言ってないよ」と言わんばかりにわざと背を向けた。

 ロックは「……くそっ」と一言、大きくため息を吐いた。

 そんな二人の様子を見ていたガイが、少し間を置いて言葉を発する。

「アリスの様子には異変が見られます。彼女のことですから、あなた方に悟られまいとしているのでしょうが」

「だろっ? あいつはそういうトコがあるんだよっ。……ったく! 何遠慮してんだっ」

 苛つき気味に吐き捨てる、そんなロックに、タグーは少し視線を落とした。

「遠慮……じゃ、ないんじゃない……かな?」

 躊躇うように言う、その言葉にロックは表向き反応しなかったが、心の中では舌を打っていた。

 イライラが募り、居ても立ってもいられず、「……あぁーっ、くそ!」と、ロックはガシガシッと頭を掻いてキョトンとしているタグーを見た。

「ちょっと行ってくる!!」

 不愉快そうに告げて、そのまま出て行ったロックの背中を見送り、タグーは苦笑した。

 ……くそっ。絶対に隙を狙ってやるっ……。

 辺りを見回しながら、人に気付かれないように個人病棟へと忍び込む。時々、医務官に見つかりそうになると咄嗟に隠れた。

 ……あいつ……絶対に白状させてやるぞ!!

 アリスの病室に近付いて、ロックはコソコソと周囲を窺った。

 誰かが出入りしたら、その後、鍵を閉める前に入り込む! よし!! バッチシだ!!

 頭の中でシミュレーションをして、グッと拳を作る。……と。

「……!!」

 アリスの病室のドアが開いた。

「それじゃ……また来るわね」

「……はい。……ありがとうございました」

「ううん。……じゃあね。ゆっくり休むのよ?」

「はい」

 そんな会話が聞こえてくる。

 ――……あいつ、誰だ? 見たことねぇ顔だな……。

 影から覗いていたロックは、出てきたメリッサをじっと見て顔をしかめた。

 メリッサは静かにドアを閉めると、一息吐いてこちらに歩いてきた。ロックは見つからないようにと咄嗟に物陰に潜んだが、

「あんた、バレバレなんだけど?」

「……!」

 横切ると思っていたメリッサが立ち止まり、じ……と横目で窺っている。ロックは、「うっ……」と躊躇って身動いだ。

「あ、いや……。そのっ……」

「アリスに用事?」

「……あっ……いやっ……」

「あんた、アリスの仲間よね?」

「お、おおっ。そうだっ。仲間だっ。文句あンのかっ?」

「……。ないけどさ」

 メリッサは、なぜか大威張りするロックを見てため息を吐いた。

「はぁ……。あんたが相手じゃ……ねぇ……」

「……?」

「……はぁ」

 メリッサは再度ため息を吐き、気を取り直して、片眉を上げつつロックを見た。

「アリスに会いに来たの?」

「……お、おぅ」

「そう。じゃあ、会うといいわ」

「……お、……おぅ」

 メリッサは、「じゃあね」と軽く手を挙げてその場から歩いて行った。

 ロックは顔をしかめながら首を傾げ、アリスの部屋の前に立った。

 ……じゃあ会えば、って……――

 口を尖らしながら部屋のドアをノックした。

 ……どーせ入れてもらえねーんだって。

「……開いてます」

 中から静かな返事が返ってきて、ロックはピタ……と動きを止めた。

 ……あれ?

 再びノックする。

「……開いてます」

 ロックは顔をしかめ、「……コホン」と一つ、咳払いをした。

「あー……俺だ。ロック」

「……。開いてます」

 ロックは少し視線を斜め上に向けた。

 素直に「開いてます」って言われると……なんか入り辛いな……。

 うーん……、と、ドアの前で考え込んでいると、その間にガチャンと鍵が掛かった。

 ロックはハッ……!! と顔を上げた。

「お、おいっ」

「……時間オーバー」

「ち、ちょっと待てよ! 入れろ! 入れろったら!!」

 少し間を置いて鍵が解除される音が聞こえ、ドアが開く。そこから出てきたアリスに、まずは一言、文句をぶつけてやろうとしたロックは息を詰まらせた。

「どう……した?」

「……」

「……なんか……目が……」

 アリスは真っ赤になった目を見合わすことなく、何も言わずにドアから遠離った。

 ロックは言葉に詰まって、それでも中に入ると開けっ放しのドアを閉め、だが、そこから動けず、背を向けるようにベッドに座ったアリスの背中を見つめた。

 彼女の目の前、窓の向こうはもう日が沈んで、ケイティから発せられている外灯の明かりがボンヤリと外の景色を浮かび上がらせている――。

 ロックは間を置いてベッドの傍にある椅子に近寄り腰掛けたが、何を切り出したらいいのかわからず、少し目を泳がした。

「……あ。そういや……さっき、女のヤツとすれ違ったけど……」

「……うん。……ライフリンクの先輩……」

「そっか。……その……そいつと、なんかあったのか?」

「……何もないよ……」

「……そっか」

 って、納得してどーすんだよ俺はっ。

「んじゃあなんで、……、……泣いてるんだよ?」

 アリスの背中が微かに震えている――。

「……。なんで、だろ……」

 掠れた声に、ロックは少し不愉快そうに視線を斜め下に向けた。

「……そんなの、俺が知るか」

「……だよね……。……だよね……」

「……わかンねぇっての」

「……うん……」

 ロックはポリポリと鼻の頭を掻いた。

 ……こういうときって……どうするんだっけ? どうすりゃいいんだ?

「……あたし……」

 突然、アリスが言葉を切り出し、ロックは顔を上げた。

 背後からの動きでしかわからないが、涙を拭っているのはわかる。

「……試験に落ちた時にね、フライたちとご飯を食べたんだ。……フライとセシル教官と、クリスにアーニーに……ダグラス教官……」

 ロックは、アリスの背中を見つめている。

「……すごく仲がよくってね、……けどみんな、あいつが嫌いだ、とか、こいつが嫌いだ、とか……言いながら笑ってるの。……楽しそうに」

「……」

「あたし、そういうの、よくわかんなかった。……わかんなかったんだ。……けど……」

 アリスの顔が段々と下に傾いていく。

「怖くなった……。フライたちが戦った跡、見たら……。……怖く、なった……」

「……」

「あたし……ロックのこと、嫌い。……タグーのことも、嫌い。……でもね……離れたくない……」

「……」

「……どうして、だろ……。どうしてだろ……」

 グス……と鼻をすすって肩を震わせる。

 ロックは間を置いてゆっくり立ち上がると、背後からクシャ、とアリスの頭を撫でた。

「仲間だから、だろ」

 ロックの言葉にアリスは小さく頷くが、

「……なく……ったら……しよ……」

 小さな声に、ロックは眉を寄せた。

「え?」

「……いなくなったら……どうしよう……」

「……」

「……どうして仲間が戦ってたの? ……そういう時が来たら……どうしよう」

「……」

「あたし……そんなのヤだよ……。……ロックたちと戦いたくないよ……。嫌いだけど、戦いたくない……。……戦いたくない……」

 すすり泣くアリスの背後、ロックは少し視線を落としたが、それでも顔を上げた。

「……みんなそうだろ。仲のいいヤツとは戦いたくねぇさ。……フライたちだってそうだったんだ。けどさ……仲がいいから戦える、ってことも……あるんじゃないのか? 仲間同士でも戦わなくちゃいけない時って……あるんじゃないのか? ……護らなくちゃいけないモノがあるなら……それは同時に戦う時……なんじゃないかと思う」

「……わかんないよ……そんなの……」

「じゃあさ、……もし、俺がノアの手先になったら、お前はどうする?」

「……。やめて。そんなこと言わないで……」

「誰が俺をやっつけるんだ? ……誰が俺と戦えるんだ?」

「やめてよ。そんなこと言わないでよ……」

「俺だったらお前に倒して欲しいさ。お前やタグーに。……お前たち、仲間に倒されるンなら俺、……悔いはない」

「やめてよそんなの!!」

 怒鳴るように拒んで、耳を塞いで身体を丸める、そんなアリスの背中に、ロックはベッドに軽く乗って手を付けた。

「……聞けよ」

「出ていって!! もう出ていって!!」

「聞けって」

「あんたなんか知らない!! もう知らない!!」

「騒ぐな。人が来るだろ」

 ロックはため息混じりに言うと、アリスの肩を掴んで、強引に自分の方を向かせた。

「……なあアリス」

 耳を両手で塞いだまま、力一杯に目を閉じて顔を上げないアリスに、ロックは、躊躇うように少し視線を泳がせながら言葉を切り出した。

「上手く言えないけど……、こう……目に見えるモノ……それが遠離るから離れるってのはさ、ちょっと……違うんじゃないのか?」

「……」

「その……さ。例えば……俺が今ここからいなくなるとするだろ。自分の部屋に戻るとして。けど離れてないよな。距離じゃなくってさ……。俺がお前のこと心配したりする。タグーも心配する。そういうのに距離ってないだろ? それをさ……信じろよ」

 どこか穏やかで静かな口調に、アリスは、ぐすっ……と鼻をすすった。力一杯閉じていたはずの目が緩み、そこから一粒、一粒と涙が零れ落ちる。

 ロックは何かしら、自分の中で頷くと、強くアリスの肩を掴み、元気よく笑顔で言った。

「それよりも! 俺やタグーがどっか行くと思うか!? どっか行くんだったらお前も連れて行くってーの! ……いや、ンそりゃまぁ……セシル教官の鞄を取りに行った時はお前のことを残したけど。……それはそれだっ。うんっ!」

「……」

「怖がるなよっ。俺たち、簡単には切れねぇってっ! 仲間なんだぜ!? ここでの戦いを終えるまでさっ! 試験を終えるまでっ……。……それからも、ずっと……さ」

「……」

「よしっ。んじゃあ……約束だ約束っ! ……えーと……。なんか印は……と……」

 “印”を探そうと辺りを見回したその時、息を詰まらせ顔を歪めたアリスが泣き声を上げながら胸にしがみ付いてきた。突然のことにロックは大きく目を見開いたが、アリスはただ大きく泣き声を上げて、しがみ付く腕に力を入れるだけ――。

 ロックは、身体の力を抜いてベッドに座り込み、目を伏せると、胸に顔を埋めて泣くアリスの背中にそっと腕を回した。

 ――……わかるよ。……みんなが本当は怖くて……苦しいんだ……。

「……大丈夫だって。俺を……俺とタグーを信じろよ。……俺たちは仲間だ。……ずっと仲間だから。……約束する。……約束するよ――」











    ――何のために戦っているか、考えたことはある?

    僕の意志は君に引き継がれた……はずだった。

    君はその通りに動いていたのに……どうしていつから……。


    約束なんかするんじゃない。

    約束は叶えるためにあるんだよ。

    けど、君の場合……その約束は君を苦しめるだけなんだ。


    ……そろそろ、気が付いているだろう?

    君は、生き地獄の一歩手前まで、もう……来ているんだよ。

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