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序章
彼が、自分の前にいるものを、何なのか認識できたことに理由はなかった。
彼は、そこに立っているものから、根源的な恐怖の塊を、苦しみを、全身で感じとったのだ。
そして、恐怖に打ちのめされる、ほんの一瞬の時さえも流れる前に、
「それ」は、彼のこれまでの人生の記憶を奪い取って行った。
彼の記憶で一番新しいもの。
それよりも、現在唯一の記憶 と言った方が正しい。
それは、
自分の前に『悪魔』が立っている。
そんな記憶だ。
悪魔に記憶を奪われたことは、彼の運命の歯車を大きく動かすことになった。
いや、歯車はもともとそう動くように決められていたのかもしれない。
その答えは他の何者でもなく、本人が明らかにしていくしかない。
彼がこれから大きな冒険をしなければならないことに、変わりは無いのだ・・・