星空ロジック
星空が良く見える丘で、二人で並んで座って空を見上げた。
「ほら、」
夜空を指差しながら、彼は言った。
「僕らの頭上で光ってるあの星は、光でさえ数年―――時には数百年、数万年かかる程に遠い所に存在しているんだ」
私にとってはもはや当然のことを、悲しそうに。
「急にどうしたの? そんなこと」
「いや、その事に意味はあるのかなって」
立ち上がって、真上にある星を見上げながら。
「もしかしたら、誰にも見上げられないままに消えていってしまう星があるのかもしれない。そうなったら、消えてしまった星が存在していた事に、意味はあったのかな」
「……」
あぁ、まただ。
時々彼は、不必要なまでに悲観的になる。私にとって良く分からないことで悩んで、良く分からないことで悲しんで、良く分からないまま自分の胸に溜め込んでいる。
「―――意味は、必要?」
「……分からない。でも、無かったら、悲しいじゃないか」
そこに存在していた事に、何の意味も無いなんて。
私からすれば、彼のロジックはとても理解できない。
でも、それはきっと皆同じなんだ。彼のことが分からない様に、きっと彼も私のことを分からない。自分のロジックを侵されない様に、相手のロジックを侵さない様に距離をとって、分かりあったフリをする。
でも彼は、自分のロジックを、私に理解してもらおうとする。彼曰く、本当に分かり合う為に。
だから私も、私のロジックを彼に突き付ける。
「意味は、無くても良いんじゃないかな」
「……どうして?」
私も立ち上がり、彼と同じ星を見上げる。
「例えば、あの星が自分の存在に意味を求めてたら別だよ?
でも、求めもしないのに意味を与えようとするのは、押し付けだよ。意味は、欲しい人だけ持っていれば良いと思うよ。
……どうしても意味が必要なら、君がつけて、君の中にしまっておけば良いんじゃないかな」
驚いた顔で私を見る。
「そっか……そんな簡単な事だったんだ。馬鹿みたいだな。一人で勝手に難しく考えて」
「良いんじゃない? 簡単に考えすぎるより」
また星を見上げて、笑いながら言う。
「じゃあ、あの星の意味も、僕がここにいる意味も、君がここにいる意味も、僕がつけて、僕の中にしまっておいて良いんだね?」
「うん。そうだね。あ、でも僕に会う為にとかそんなのは駄目よ」
「えー。じゃあ、僕に今の話をしてくれる為に、っていうのは?」
「うーん。まぁ、それで良いか」
指を絡めて、二人で同じ星を見上げる。
そのことに、そこにいることに、意味は無くても構わない。
そこにあるものが、全てだから。