9.デート?
──トントン
「お待たせ。ごゆっくり~」
御神 貴志が、ポテトサラダ食べた!
嘘だ……
神が空気以外を口にしている。
「あ?」
「あ、空気以外をお口にされるのですね。神が」
「はあ? お前阿呆か?」
「すいません……」
ヤバイ、絶対危ない子だと思われた。
「今日、昼飯食いそびれたんだって。それどころか朝から何も食ってなかったし。三楽章の時、腹減ってキレそうになったわ」
やめてください。神がそのような俗世界のようなことを言わないでください。
神は食事をされるのですね。驚きました。
「それ、聞きたくなかったです……」
「お前、神格化しすぎだろ」
「神ですから!!」
「怖いから……いいから食え」
無理です。神の御前で、愚民が食事をすることだなんて。出来るわけが御座いません。
「あ? 何?」
「動いている……本物だと思うと。お腹いっぱいです。この世に思い残すことはもう御座いません」
「……怖い」
「あ、ご心配なく。健全なストーカーですので、害は一切与えませんので」
「あのさぁ俺を崇拝するのは良いけれど、自分見失うなよ。俺のコピーじゃない。お前の音を見出すんだ。それが出来ないなら一ヶ月後に切るからな」
「……はい」
「御神 貴志を超えて来い」
先程までの緩やかな雰囲気が一瞬にして消え去った。
先生のリラックスした顔が一変する。
鋭く突き刺すような目で私を直視して言ったその言葉の重さに、私は受け止めることができる自信がなかった。
思わず、その目線から逃げるように俯いてしまう。
「やる気がないなら、この場で去れ」
低く冷たい声で放った神の顔に笑顔は一切なく、氷のような冷たい表情だった。
高科先生に言われた言葉がこだまする。
──気を抜けば他の者に奪われる。そういう世界に足を踏み入れた。
何年も夢に見た世界へ、やっと触れるチャンスをくれた人が目の前に居る。
逃げることなんかできるわけがない!
「いえ。世界を取りに行きます!」
何故だか、自然と言葉にしていた。
先生の顔を見ていたら、出来るような気がしたからだ。
「出世払いにしといてやるよ。有名になったら食わせてくれ俺を」
そう言って笑った先生に、私は胸張って言った。
「任せてください! 養ってみせますから!」
「食え」
「はい……」
神が、唐揚げ食べた! 写真撮ったら怒るかなあ?
黙って撮ったら駄目かなあ?
「門限何時だ?」
「え? 今って何時? ええ? もうこんな時間!」
嘘! あと20分しかない!
「流石に俺の部屋に連れて帰るわけにもなあ。由紀に頼むしかないか」
「……すいません」
「帰るぞ」
「お願いが!」
「あ?」
「写真撮っても良いですか?」
「……外に絶対出すなよ?」
うんうんうんうん。当然です! ロックかけます!
「……お前何枚撮ってるんだよ。帰るぞ」
「だってぇ……明日帰っちゃうんですよねえ……一ヶ月も会えないんですよ?」
先生が私の前に首を少し傾げて、髪を掻き上げた。
「ぇ?」
「やるよ。取っていいぞ」
ピアス? 普段殆ど見せることがない金のループピアス。
これって……
「先生、これって渡米された時に買われた思い出のでは?」
「お前、本当によく知ってるなあ」
「良いんですか?」
「早くしないと気が変わるぞ?」
「欲しいです!! 欲しい!!」
さ、鎖骨がエロい。首筋エロ!!
「し、失礼しますね?」
「痛いって引っ張るなよ」
「すいません……」
キャー!! 御神 貴志のピアスゲット!!
どうしよう。自分でする? それとも大事に取っておく?
悩むわ~~~~落としたら駄目ですしねえ。
「ジロジロ見るな。もう何もないぞ」
バレましたか。コレクターとしたらもう鼻血ものです。
神が身につけていらっしゃった物を、下賜して頂けるだなんて!!
こいつ大丈夫かよ……
「これって、デートですよねえ? 先生!」
「ゲホッ」
「先生?」
「帰るぞ、明日俺早いんだって」
◇
「神って言うわりには寝るかねぇ」
帰りの車の中、隣でスヤスヤ寝ている愛弟子? に呆れ顔を浮かべたが、自然とその頭を撫でていた。
愛や恋ではなく、音で繋がれた二人の距離がほんの少しだけ近くなった瞬間だった。
◇
「嘘。私どうやって帰って来たんだろう。ってここってもしかして……」
急いでスマホを確認する。
『ちゃんと練習しろよ。じゃあな』
やらかした。寝てしまった。そしてどうやってここまで来たんだろう。
まさかとは思うが……
もしかして先生が?
嘘……
あああああーーーーーーーー
何で寝てしまったの私!
もう馬鹿!
あんぽんたん!!
起きていたら、当然玄関で降ろされていたことに、花音は気づいていなかった。
◇
「お、おはようございます。すいませんでした!! 直ぐ帰ります!!」
「あら? 起きたのねぇ。貴志の我儘に付き合わされたんでしょうどうせ。あ、これ貴女にって貴志から預かったものね」
由紀様がテーブルの上に山積みになった、楽譜? を指さした。
『俺が帰国するまでに全曲頭に入れとけ』
とてもとてもお優しい神からの、とても嬉しい置き土産だった。
無理です。一ヶ月でこの量……
悪魔の意味が分かった気がする。
「あ、ストレッチしながら譜読みしたり、お風呂入る時とかねぇ? 常に持ち歩くと良いわよ? 私が貴志に教えた方法なの。寝ている時以外ずっと見ていると早く覚えるからオススメよ? 1日20曲覚えたら、1ヶ月で大丈夫よ。簡単よ~~CD聴きながらやるのが良いわね」
妖精様が楽しそうにさらっと凄いことを言いながら、美しく微笑まれた。
魔王を育てた姉である。
普通の人のわけがないですね。
はい。
この姉にしてあの神か……
この姉弟やっぱり普通じゃなかった……
ダンボール箱一杯の有難い魔王様の置き土産を抱えて、御神家をあとにした。
あのスケジュールの中、どうやってこの楽譜読む時間を入れることが可能か教えて欲しいです。
凡人の私でも出来る方法を、凡人の人誰か教えて下さい!!
第一章完結
第一章完結となります。
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