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御神先生の秘蔵っ子  作者: 蒼良美月
第一楽章 天国への階段

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8.嫉妬

 ──その時だった。


「由紀様もご一緒に。高科先生でいらっしゃいますよねえ? どうぞご一緒に」


 関係者の一人が、学長と高科先生に声を掛け、半ば強引に連れ去った。

 集合写真の撮影だ。


 真ん中に御神姉弟が座り、花束を抱えた世界の御神がとても凛として見えた。

 その横に、彼のフィルメンバーが数名並ぶ。第一バイオリンを担当した綺麗な女性の姿に、何となくモヤモヤした気持ちになる。


 その煌びやかで晴れやかな皆の姿に、私は思わず視線を伏せていた。


 御神 由紀。御神 貴志の姉だから有名になったのではない。寧ろ御神 貴志より先にプロとして活躍していた。高科 和樹、現在は音楽学校の先生をしているが、先生同様、海外の大きなフィルで第一線として活躍経験ある有名バイオリニストの一人だ。


 そんな人達と一緒のわけがない。

 頭では分かっていたつもりだった。



 心の何処かで期待していた?

 御神先生の弟子として?

 淡い期待をしていた。

 呼ばれるかもと……


 帝王に視線を移す。


 ──とても美しい笑顔は、私ではないところを見ていた。



 愚かな自分の足元を見る。上品で素敵なワンピースには不釣り合いな黒い通学用革靴。

 それが現実だった。


 溢れてくる涙を拭い、会場の出口付近に移動した。

 居場所を失くし、言い表せないこの気持ちに、会場を出ようとしたその時だった。


『十分後、裏口駐車場出口に来い』


 え?

 どういう意味? これって?


 画面の送信者の名前を再確認する。


「神様」


 高科先生に言われ本名での登録は避けた。が、これ以外の名前は思いつかなかった。

 神からの連絡。まさにそれしかないからだ。


 私は、急いで走って会場を出る。フロントに行き場所を確認し「指定場所」へ向かった。





 ◇




 低いエンジン音と共に真っ白なオープンカーが目の前に突然停車したかと思うと、サングラスをした帝王がいきなり放った。


「乗れ」


「え?」


「早くしろよ」

「あ、はい……」


「シートベルト」

「あ! すいません……え? 何方へ??」


 ええええ?

 祝賀会は?

 主役ですよねえ? 

  って今私、神の車に乗ってる? しかも助手席に?  二つしか席ないですけどまぁこの車。


「あ、あの? せんせい? 祝賀会は?」

「由紀に任せてきた」


「ええ?? で? 何方へ?」

「腹減った。飯食いに行く」


「は?」


「来年、あそこに座るのはお前だ」


「へ?」


 先生がサングラスを外し、笑った。


 見られた? 悔し涙を流してしまったことを?

 それ以上何も言わなかった先生の優しさに私は胸が締め付けられる思いがした。



「え? タバコ?」


「あーーたまに一人の時だけな」


 初めて見たかも。先生がタバコ吸うの知らなかった……

 私は人数に入ってないのか……





 ◇




「着いた。降りろ」


「ここ?」


 倉庫のような建物の地下に、先生の後ろをそそくさと追いかける。


「お? 珍しいなぁ。お前が人連れてくるなんて」


 がっちりした体型で髭面の40歳過ぎ? ぐらいの男性が驚いた表情をしながら先生に話し掛けた。


「何か食わせて。あ、酒パスな車で来たから」


 スタスタ歩いて行く先生の後を小走りに追いかけた。


 この人って説明とか本当にしないわねぇ。

 いつもインタビューとかもあまり喋らないイメージあったけれど、普段もこんな感じなんだ。



「ん? 座れよ」

「あ、はい……」

「何?」


「いえ。その……神が息している。喋っている。座っていると思うとそれだけで死にそうです」


「……最初に聴いたのいくつの時だ?」


「5歳? 昔、音楽堂でパッフェルベルしませんでしたか? あれが初めてです! あれ聴いてからずっと、玩具(おもちゃ)は貴方でした!!」


「……玩具って。最後の日本のか」


 玩具って言ってしまった。気持ち悪い女って思われてないですよねぇ……

 大丈夫です。健全なストーカーですから! 害は与えません、ご安心下さい。神様!


「レッスンも大事だけれど、多くの作品に触れろ。俺を聴くのが駄目とは言わないが、それ以外をちゃんと吸収しろ」


 ですよねえ。御神 貴志作品しか触れて来なかった極端なストーカーですしね。

 でも、神は毎日聴いて良いですか?


「あと、これパスワード俺の誕生日な。どうせ知ってるんだろ?」


 そう言って神が目の前にスマホを置いた。


 当然知ってますよ? 9月15日、血液型A型ですよね! 182センチ、65キロ~67キロを推移の理想モデル体型で御座いますよね?


「ぇ?」

「海外通話してみろ、お前の金じゃ数日で払えなくなるぞ?」


 先生が笑う。


「え? 電話しても?」

「あーー困った時だけな。オケ中は出れないぞ」


「……勿論承知で御座います!!」


 生御神の声聞けるんですか? 本当に良いんですか?

 おやすみなさいとか言ってもいいですか?


「銀行口座登録してあるから、困ったら自分の口座に入れて使え、あ、月上限100までに一応してあるからそれ以上の時は言ってこい」


「ぇえええ?」


「クラコンチケット一枚いくらすると思ってるんだよ。楽譜買ったり教材買ったり。勉強の為に惜しむな。あ、一ヶ月な? とりあえず」


「………頑張ります!」



 絶対合格してやるう!

 見てろ! 御神 貴志!



「お前凄いな……」


「ぇ?」


 スラスラとパスワードを入力する私の指を凝視しながら先生は苦笑いした。


「当然です! 神のお誕生日など朝飯前です!」


「何なら、各所のインタビューで神が答えた御言葉も全てインプットしておりますが? 発表したほうが宜しいでしょうか?」


「い、いや遠慮しとくわ……」


 その辺の新参のファンと一緒にしないで下さいね? 

 人生の全ての時間を貴方に捧げて参りましたから!



 貴志はこの時、背中に寒気が一瞬したが敢えて言葉にはしなかった。




◆◆おまけ◆◆

第一バイオリン:コンサートマスター

オーケストラの花、主役です。指揮者が監督ならコンマスが主演。ソロパートを用意される演目多数。立ち位置も、指揮者の直ぐ近くで皆より目立つ位置。

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