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御神先生の秘蔵っ子  作者: 蒼良美月
第一楽章 天国への階段

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5.鬼が増えた

 ──桜並木を(くぐ)り抜け、緩やかな坂を登ると見えてくる緑に囲まれた庭園の奥から覗く白い洋館。今日もそこから漏れ聴こえてくる心地良い音の調べ。


「おはようございます! 御神先生!」

「御神音楽学校 Mアカデミー学園」の看板の前で、頬ずりをし深く頭を下げた。


 ここの門を潜ったのは今日で二回目。

 たまたま朝のニュースで御神様の帰国を知り、後ろ髪を引かれる思いで通学の為に乗った電車でたまたま見つけた広告。


 あの日以来、私の人生は全く違う色になった。


 学長の由紀先生や、高科先生の反対を押し切り私は通っていた高校を退学した。

 これで逃げる場所は無くなった。


 憧れるだけの存在だった神に、奏でる許可を貰ったのだ。

 他に何が必要だと言うのだ。


 大好きな音楽をこれから目一杯楽しめることに私は嬉しくて、(はや)る気持ちを抑えられず走っていた。






 ◇




『バイオリン科ー高科教室1』


「おはよう御座います! 今日からお世話になる桜井 花音です。よろしくお願いします! うわぁ。綺麗!」


 大きな部屋に美しい漆黒のピアノが鎮座し、黄金色に輝くフレームに寸分の狂いなく収まる美しい木の匂い。ライトを浴びて煌めいていた。


「……」

「誰あの子?」

「編入生?」


 教室の中がざわつく。



 ──ガチャ


「おはよう。って! 桜井! 違う。こっちじゃない。第二で待ってろって昨日言ったろ?」

「え? 第二教室?」



「誰? 第二って個人レッスンよねえ?」

「高科先生の個人レッスンを?」

「あの子何者?」


 再びざわつく。


 高科はこの状況になることを恐れ、学長と相談し敢えて第二に来るように言っていたのだ。

 ()()御神が自ら指南すると知れたら、きっと彼女は学園には居られなくなる。

 高科は頭を抱えた。


 仕方ない。

 預かってしまった以上は……

 昨夜遅くに届いたあいつのメール内容を見て驚愕した。

 本気で一から、あの御神 貴志が育てようとしている少女を、自分の手で潰すわけにはいかない。


 この日を境に、高科 和樹の人生も変わることになる。


「あぁ、すまない何せ身内でなぁ。色々と周りの目もあってな? その辺は多めに見てくれ。姪っ子の桜井 花音だ。皆仲良くしてやってくれ」


 え? 姪っ子? いつから??

 私は思わず先生の顔を見た。


 高科先生は、ほんの少しだけ俯き加減で苦笑いをした。


「桜井、隣の教室で待っていなさい」


 明らかにさっさと出てけと言いたそうな目で私を見たので、私はそそくさと、ろくに挨拶もせずに出て行く。



「桜井、昨日の話ちゃんと聞いていた?」

「あ! 高科先生! ごめんなさい! って姪っ子って?」


「仕方ないだろう。どっちにしろ早かれ遅かれ注目されるさ。貴志が帰って来たらバレる」

「……どうしよう」


「それまでに、皆を黙らせるだけの腕を磨くしかないでしょう? 君に残される道は。まあその前に一ヶ月後のツィゴネルだけどね?」


「そうでした……」


 私はこの学園にずっと卒業するまで通える保証はないのだ。

 御神様との約束。

 一ヶ月でアレをマスターしなければ、私は追い出されてしまう。


「とりあえずカリキュラムね。この通りに毎週行う。あと、こっち練習メニューね。君の敬愛する偉大なる御神 貴志様よりの有り難いラブレターだ。心して受け取りなさい」



「やったー!!」


 私は急いで、その紙を手に取る。

 が。……これって

 此処って確か音楽学校でしたよねえ?


『5:30起床 自己ストレッチ30分 

 6:00~朝のランニング~~

 一日5時間以上弾かないことを厳守。

 独奏練習禁。どうしてもの際は必ず高科に許可を取ること。

 夕方ランニング30分

 ストレッチ、マッサージ30分、読譜、楽典~~』


 そこには起床時間から、入浴時間、就寝時間に至るまでぎっしり書かれた、まるでどこかの収容所のような緻密なスケジュールが分刻みで書かれていた。



「高科先生これって?」


()()()の頃に貴志が毎日こなしていたメニューだよ? あとこれマッサージとストレッチ教室の地図ね。優しい君の敬愛する先生が、明日から通えるようにちゃんと連絡してくれているそうだ。良かったな? 愛されてて」



「あ、10分過ぎてるじゃないか! ほら始めるよ。さっさとスコア出して」


 鬼だ。

 鬼が二人に増えた……


 その日から私の軍隊生活、いや音楽漬けの毎日が始まった。





 ◇





「よし、5分休憩のあと、録音ね?」

「ぜぇ。はぁ。ぜぇ。お、鬼だ……」


「何か言った? 俺のは優しいよ? 貴志に比べたら神に思えるよ?」

「う、嘘ですよねえ?」


「貴志に教わって1ヶ月もった子いないからねぇ? なんせ魔王だから。まあそれまでに頑張ろうや? 姪っ子よ?」


 気に入らなければ、一小節を無言で1時間ひたすら弾かせ続ける男に比べたら俺なんて優しいほうだよ?


「ま、魔王?」


「あーー、5分経った。休憩終わりね」

「最悪……」



「はじめていいよ」


 ツィゴネルワイゼン サラサーテの傑作。

 情熱的なジプシーの世界。


 瞼を閉じ、御神様の音を思いなぞる。

 官能的で悲哀で情熱的な音色。



「そこまで!」

「はぁ、はぁ」


「とりあえずは譜読みだね。解釈はともかくとして、貴志が言っていたように「正確に弾く」を先ず第一優先だ。午後から二時間、天野先生のところでみっちり教えて貰っておいで~~」


「まさか鬼が三人にとかはないですよねえ?」


 高科先生って見た目のイメージと違い過ぎる……

 優しそうな温和な感じだと思ってたのに……鬼だわ。


「さぁねぇ。君次第ではないのか? あ、自分で送る? 貴志のアドレスねこれ」


「あ、失礼します」


 やったー! 先生のアドレス先ゲット!!


「あ、名前変えて登録しときなよ?」

「え?」

「念のためね。流出したら大変なことになるから」

「ですよねぇ……」

「あ、これ俺の連絡先」

「あ? はい。有り難うございます」

「何だその嫌そうな顔は? 貴志の時と違いすぎだろ」


 高科先生が少し不満そうな顔をした。

 うん。ごめん。

 神と一緒には無理です。

 だって神ですよ? あなた?

 分かります?

 寝る間も惜しんで崇拝し続けた神の連絡先ですよ?


「桜井、今日の貴志のコンサート行くんだよね?」

「あ、昨日遅くに佐々木さんから連絡頂いて行けることになりました」

「一応念のために聞くが、まさかとは思うが制服で行くとか考えてないよね?」


「……」

「流石にそれは、由紀姫に頼むか……」

「ぇ? 学長にですか?」

「仕方ないでしょうに。()()()はリハ中、なら代理人の姉に言うしか」


「……」


「お忙しい中、最後までお読み頂き大変ありがとう御座います」

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― 新着の感想 ―
まだ冒頭ですがここまで読ませていただきました。 とても入りやすい出だしで引き込まれます。素人ですがクラシック好きなので、今後も音楽ネタを楽しめそうです。 ところで実際、全くヴァイオリンに触れていなくて…
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