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御神先生の秘蔵っ子─出会い編  作者: 蒼良美月
第五楽章 夜想曲ノクターン

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42/51

42.答え合わせ  

 神はどうして楽しいことは直ぐに取り上げてしまうのでしょうか?

 あんなにも楽しくダラダラと。いや神を満喫出来る充実した時間を過ごした日々が、今日で終わってしまう。


 部屋に散乱する愛読書(御神 貴志教本)と推しグッズ(御神 貴志CD全集)、御神 貴志の直筆サイン達をじっと眺める。


 ぁあーーー行きたくなぁあい!


 やば! 時間!!


 二学期の大半を休んでいた花音にとって、卒業までは一日たりとも休める余裕は無かった。




 ◇




「早く帰って来ないかな~~せんせ」


 あ! つい心の声が……

 急いで周りのキョロキョロ見渡す。


 良かった。人がいなくて。

 でも……

 先生との関係ってこの先もずっと秘密にしておかないと駄目なの?

 誰にも言ってはいけないことなの?

 これって悪いことなの?


 でも、あの御神 貴志が教え子とってなるのは……

 やっぱり先生嫌がるか……



 朝ごはんを食べながらそんなことを考えていたら、オケメンの人達も食堂にやってきた。


「桜井さん。今年も宜しくね?」

「あ、こちらこそ、お世話になりっぱなしで宜しくお願いします」


「ところで、桜井さんて高等部卒業したらアカデミーに進学するの?」


 卒業後? 今まで考えたこともなかった。取り敢えず卒業しなければ。じゃないと先生に認めてもらえないし、今の関係だって……


 春から先生とずっと一緒に居ることが、やっと出来るんだ! ってことしか考えてなかった。

 その後って私どうなるんだろう?


 先生との関係は?

 今は無事卒業することだけを考えろっていつも言うけれど、じゃあ卒業したら? その先は?

 先生が「ちゃんと考えているから」の「ちゃんと」って何?


 未来への約束なんて何もない。


 先生の音楽を、先生の「音」に触れるだけであんなにも幸せで満足だったのに。

 先生に憧れるだけでそれで良かったのに。


 でも、今は……

 触れたいし、触れて欲しい。傍に居たいし、居て欲しい。

 抱きしめたいし、抱きしめて欲しい。


 こんなに私は我儘な子になってしまっていた。


 先生がちゃんと私のことを大事に想ってくれていることは、分かっている。

 でも、そこにある未来は?


 卒業したらどうなるんだろう……


 先生が見ているのは私との未来じゃなくて、私との音楽の世界?


 もし、私が音楽から離れたら?

 先生はもう私のことは……

 要らないの?


「桜井さん?」


 ハッ! いけない。人前で先生のことを考えたりしたら……



「あ、何でもないです白井さん。ごめんなさい、まだ先のことを考る余裕がなくて……卒業出来るかどうかですら」


「あ、あらそうだったのね。ごめんなさいね。でもアカデミーに進学したいなら1月末には内部試験あるから。教科担当の先生にも一度相談したら? 今後のことも含めて?」


「あ、はい。有難うございます」


 教科担当……御神 貴志だ。

 どうしよう……


 こういうのってやっぱり高科先生かなあ?

 以外と天野先生もいいかも?




 ◇




「どうしたの? 何か元気ないねぇ? テストの心配かい?」


「それもありますけど……」


「どうしたの? 貴志とケンカでもした?」


「いえ。先生は優しいままで変わりません」


 そう。優しいままで変わらない。

 何も……変わらない。


「なるほどね」


 高科先生が優しく微笑んだ。



 相変わらず不器用な奴だな。

 教師がとか、教え子だからとか頭で考るより、さっさと(さら)って行けばいいだろうに。

 別に卒業しなくても、なんなら中退だろうと学歴なんて音楽に関係ないだろ。

 何にそんなに拘ってるのかねえ?


 まだまだアイツも餓鬼だねぇ。

 自分の女の性質が読めないなんて。

 桜井は男に溺れるんじゃなくて、男がいたら120%以上の全力出せるタイプなんだよ。


 お前が愛を注ぐと、120%以上の音に変わるってことが分かってないねぇ。

 まぁ、居ない時の姿を見てないから仕方ないのもあるけどな。



「桜井、ちょっとだけさぁ奴から預かっているスマホ借りていいか?」


「ぇ?」


「きっと答えがわかるから」


「ぇ?」


「淋しいかもだけれど、これは君の疑問の答え合わせする為に大事なことだから。多分そんなに長くはかからないと思うよ。ちょっとだけ預かるね」


「え?」


 高科先生はそう言って、先生から預けられているスマホを自分のポケットに入れた。



 ええええええええええ? 

 高科先生???



「さ、お子様のことは置いて、レッスンの時間だ。このあと天野のところでも勉強見て貰うんでしょう?」


「お子様?」




 ◇




「思っていたより早かったねぇ反応が。まぁもう少し待ってみるかね。そろそろ君も気づくべきだと思うよ。抱かないんじゃなくて、怖くて抱けない理由をね」


 高科は、後輩から送られてきた添付動画の音を聴く。


「酷い男だねぇ」



 溺れたのは、桜井じゃないだろ……




 ◇




「どうなってるんだ? 体調でも崩したのか? それなら高科か天野から何か言ってくるはずだが」


「What happened  Takashi?」(何かあった?)


「No, it’s okay」(いや、何も)



 返信が途絶えて数時間。何度も電話もメールもしたが反応がない。


 高科に電話してみるか?

 いや、授業で出れないだけか?


 彼のクールな様相に相反して落ち着きのないその姿は、冷静沈着、常に正解だけを求め生きて来た男の姿は今は無く、愛する女性を心配するただの一人の男の顔だった。


 再度電話を掛けてみる。




 ──ヴヴヴゥーヴヴヴゥー


『随分暇なんだな? マエストロ様』


 スマホの音声をスピーカーにそっと変えた。


『何でその電話にお前が出る?』


『もう遅いんだよ。お前がモタモタしていたせいだからな?』


『どういう意味だ』


『(高科センセ~~これ借りていいですかぁ~~ ああ、使っていいよ? 花音)』


 スマホの向こうから僅かだが確かに聞こえてくる声に固まった。


『そう言うことだ。じゃあな。忙しいんでこっちも()()と』


『ツーツーツー』



「あの野郎、舐めやがって」



 ──ガシャン


 男は持っていたスマホを投げつけ、そのまま部屋を後にした。







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