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御神先生の秘蔵っ子  作者: 蒼良美月
第二楽章 楽興の時

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15/18

15.デート

 ──朝日が昇り清々しい朝の到来に、私は心躍らせた。

 晴れて良かった~~


「おはようございます!」


「……」


「あれ? 先生、疲れてません?」


「……何で半年振りの休みに、こんな早起きさせられるんだ? 俺は」


 眠そうな顔のまま、私を睨む。

 でも、どうしても一緒に居たかったんだもん……


「だってぇ夕方までしか一緒に居られないって言うし、それに次会えるのだってずっと先なんでしょ?」


「中国公演の時かなぁ。あれ次の日何処だ?」

「……イギリスです」


「お前、佐々木以上だなあ……」

「当然です!」


「14時間か。厳しいな。中国の前は?」

「オーストラリア」


「そっちだな。まぁ、なんとか調整するわ。期待はするなよ?」

「期待します!」


「……で、何処行くんだよ。人が多い所は無理だぞ?」

「海行きませんか?」


「は? 何で海に今?」


 昨日、色々考えた結果だった。人が多いところは騒ぎになるし絶対無理だと思って、空港から出来るだけ近いところで、山は先生はちょっと違う感じがしたからだ。


「山のほうが良かったですか? 空港にできるだけ近いほうがいいと思って。

「そういう所だけは、頭回るな。海でいいよなら」


「やったーー!! デート。デート!」 


「……タクシーな移動」

「はい!」


「ぇ? 先生ってそれだけしか荷物ないんですか? ニューヨーク行く? ん?帰るんですよねぇ?」

「パスポートと金以外いるか? 飛行機の中で仕事するからタブレットあるけどな」


 神は着替えとか要らないのか? ってそんなこと心配している場合じゃないか。


「飛行機の中でも仕事してるんですか?」

「誰かさんのせいでな。今日の分、飛ぶしな」

「……す。すいません」





 ◇




「先生~~見てみて~~カニいた!!」

「いるだろそりゃ」


「写真撮ろうよ~」

「あ?」


「笑ってくださーい。早くぅ!」

「……」


「ガキか……」


 まだ夏には早い海辺ではしゃぐ少女の姿を見ながら、持っていたタブレットに音を紡いでいた。



「先生も来てくださーーい!」

「いやだ」


「ん? 何してるんですか? 作曲?」

「見るなよ、未発表だそ?」


「売ったら一生遊んで暮らせますかねえ?」


「さぁな?」


 お前次第だよ。



「座れ」


「え?」


「もう少し向こう」


「ぇ?」


 ええぇぇえぇえええ?


「限界。三十分我慢しろ」


 ひ、膝の上に、み、御神 た、貴志? 神の寝顔だああぁああ!!


 サングラス外したら怒るかなあ?



 そぅーぅと、サングラスに手を伸ばした時だった。


 手首を掴まれ、そのまま先生の長く綺麗な指が私の指に絡んできた。


 い、今、わ、私、もしかして神と手を繋いでる?


 ヤバイ! 息の仕方忘れそう!

 ど、どうしよう! しゃ、写真撮りたい。

 でも動いたら先生起きて逃げちゃうかも!!


 どっちが大事? 冷静に考えて私?


 写真はずっと残る。思い出になる。

 神と手を繋ぎ、神が愚民の膝上で御眠りになる御姿。

 うん、死んでもいいわ。


 でも、その瞬間? いや待て。

 写真撮ろうして、動いた瞬間に神が逃げたら?


 どっちも失うじゃない!


 危険を犯してでも写真?

 それとも、今のこの奇跡をキープ?


 どっちいぃい!


「でも、お疲れのところを無理言って付き合ってくれたんだしね。このままよね」


 睫毛長! それにしても寝顔まで整ってるって反則よねえ。

 顔良し、才能良し、天は二物を与えずって言った人に文句言ってやりたいわ。


 天は二物どころか、三物も四物も持っている人もいるのに!


 あっ、でも、あの量の音楽書と楽譜……

 それに小学生の頃からこなしてたって言うアレ。


 天才と言われた先生ですら、寝る間も惜しんで日々努力していたんだから、凡人の私ならもっと頑張らないと……


 一日休んだら、その分誰かが狙ってくる。そんな世界。

 そう思った瞬間、背中に冷たいものが流れた。


 今日だけ許して下さい神様! 明日からちゃんと頑張るから!



 何分でも見ていられるわ。神の御尊顔!


 さ、触りたい。

 だ、駄目よね?

 流石にそれは。


 バレたら絶対怒られるわよねえ。


 ほんのちょっとだけなら良いかなぁ?

 そっと手を伸ばしてみる。


 頬に手を添えようとした瞬間だった。


「高いぞ」


 瞼を閉じたまま、小さな声で言われた。



「ぇ? 起きてたんですか?」


 ば、バレてた……

 は、恥ずかしい……


 絶対変態だと思われた。


「殺気でな」



「……ぇ、お金払ったら触っても?」


 触って良いなら払いたい!


「どこからその発想が来るんだよ。それに全部俺の金な」


「そうで御座いました。すいません」


 神貯金した方がいいかなぁ。バイトって言っても時間的に。

 寮だと門限あるから夜バイトとか出来ないし……

 でも触りたい!!


「ったく、油断もできやしないな。お前と一緒だと」


 先生が閉じていた瞼を開き、私の顔を見る。


「面目ない……」



「遠い」


「ぇ?」


「もう少し下、とどかない」


「ぇ?」


 先生が手を伸ばすので、それに従うように顔を近づける。



 ぇ?



 突然、首に手を回されそのまま引き寄せられた。

 あまりの出来事に息が止まりそうなぐらい驚いたのと、その力強さにどうして良いのか分からず硬直してしまう。


「早く大人になれ」


 額にそっと口づけされた。

 う、嘘?

 心臓が飛び出るぐらいドキドキしてるんですけど。



「これってクビですか?」


「どうだろな?」


 笑いながらタバコに火をつけて、()()()()()()顔をする先生にちょっとだけ寂しくなった。


「言わなければバレないだろ阿呆」



 二人だけの秘密が出来たようで凄く嬉しかった。



 あ、折角のご褒美タイムが終了してしまった!

 神が愚民の膝の上から、神界に戻られてしまった。



「あ?」


「い、いえ、そ、そのサービスタイムが終わってしまったなと」


「何だそれ。そろそろ帰るぞ」

「……はい」


「電話するから」

「本当に?」

「時差あるから、夜中とかになる時あるぞ?」

「はい」


「お前さぁ、そんなんで明日から大丈夫なのかよ」

「…………」


 今にも泣きそうな顔で(すが)ってくる女に、今抱きしめたらこの後、余計に苦しめることになると思って、わざと触れなかった。


 その時だった。


「先生。私頑張るよ! だから安心して行って来てね」


 波の音に掻き消されそうな声で、震えながら笑った顔がとても綺麗で、海面の煌きより眩しく見えた。

 そして、その瞳は力強く未来を見ている目だった。


 どうして抱きしめることを止めることが、出来ようか。

 どうして手を取ることを止めることが、出来ようか。



 ──気づけば、この腕に強く抱きしめていた。



 ぇ?

 今のって……

 唇に……



「帰るぞ」


 先生が出した手に、指を絡める。

 何もなかったかのように歩くが、繋がれた手を離されることはなかった。


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