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『邪魔っ!』勇者と聖女、キスしようとする度に現れるモンスターを蹴散らしまくった結果。

作者: 間宮芽衣
掲載日:2025/11/03


「…ティアナ、目を閉じて。」


ロマンチックな満天の星の下。夜の森で満月の光を浴びながら私は大好きなカイル様と見つめ合っていました。


「っ、カイル様っ、」


至近距離に飛び込んで来る端正なお顔。


 今まで経験したことがない程心臓がドキドキと暴れ出します。


 私達は魔王討伐の為に旅を共にするうちに惹かれ合っていた勇者と聖女です。


『ほら、髪に世界樹の葉、ついてんぞっ。』


――あの日、命懸けで戦った後、カイル様が私の髪を梳くように撫でてくださって。


トクン…。


 世界樹がまるで祝福するかのように優しく揺れました。

 

 ザアッ!!


 ――その瞬間、私達は恋に落ちたのです。


 …そして、今日。


(ああっ、ついに、ついに私のファーストキスが…!!)


 私の睫毛が期待と緊張で震え、彼の熱い唇がついに私の唇に触れる――


 ――そう思った時でした。


 ガサガサッ。


「グルルルルルル!!」


 ――モンスターが現れた!!


「……は?」

「……え?」


あまりの間の悪さに私達は呆然とします。


「…くそっ、モンスターか。とりあえず倒すか。」

「え、ええ。そうですね。」


 ザシュッ!!


カイル様はすかさず聖剣を抜刀し、目の前から襲いかかってくるワイルドウルフを一刀両断しました。


「…ふぅー…。倒したな。」

「え、ええ。そうですね。」


――私達の間に気まずい沈黙が流れます。


「「……。」」


せっかくいい雰囲気だったのに、なんとなくそんな空気じゃなくなってしまいました。


「…寝るか。」

「え、ええ。」


こうして私達はその日は何事もなく他の仲間達の眠っているテントに戻って眠りにつきました。


(…キス、出来ませんでした。でも…。)


カイル様の唇が触れそうになった時のあの甘い空気と息遣いを思い出して、私はテントの中で一人赤面するのでした。


◇◇


 次の日、街に着いた私達はそれぞれ装備を整えたり、ポーションなどを補充する為に別行動する事になりました。


「私は杖を見て参ります。装備が用意出来次第各自宿に戻りましょう。」


魔法使いのマリス様の言葉に全員が頷きます。


「だなー。じゃ、アタイはナックル見てくんよ。皆っ、あとでなー!」


そう言って武闘家のルカも行ってしまいました。


「よし、じゃあティアナは俺と一緒に回ろうぜ。」


カイル様の爽やかな笑顔に胸がきゅうんと締め付けられます。


「…はい♡」


(ふふっ。今日こそカイル様と…。)


「ほら、手ぇ繋ぐぞっ。」


差し出された手にそっと、指を絡ませます。


(…ドキドキして頭の奥が痺れそうです…。)


二人で手を繋ぎながら歩いていたらあっという間に装備屋についてしまいました。


「ほら、ティアナっ!この炎の羽衣なんてどうだ?!炎魔法も魔力が無くても使えるし、防御力も高い!


 何より――」


「…何ですか?」


すると、勇者様がニカッと笑います。


「――これを着たお前、ぜってぇ可愛いと思う!!」


ドクン!!


 その言葉に身体の体温が一気に上がります。


「じゃ、じゃあ着てきますっ!!」


私は熱くなった頬を誤魔化すように試着室に逃げ込みます。


(――わ、可愛い…。)


確かに炎の羽衣はピンク色のシフォン生地で、これを着るとなんだか妖精にでもなってしまったかのようです。


「おーい、着れたか?」


カイル様の言葉に私は『はーい。』と返事をすると、恐る恐る試着室のカーテンを開けます。


「――っ!?」


すると、カイル様が息を飲んだあと、口元を抑えて下を向いてしまいました。


「…どうしました?」


私が恐る恐る覗き込むと、カイル様のお顔が真っ赤になっていました。


「…ヤッベェ。超可愛い…。え、ティアナこれ着ていつも戦うの?マジで?


 …マリスに見せたくねぇんだけど。」


「っな、」


その言葉に私も思わず赤面してしまいます。


「――あー、もう、その顔反則だろっ。さっさと買ってデートの続き、しようぜ?」


「…はいっ!」


私達は手を繋いで噴水広場に行って屋台でお昼ご飯を買いました。


「カイル様っ、この串焼き、とっても美味しいですっ!」


私が笑顔でカイル様の方を向くと、彼がプッと吹き出しました。


「ティアナ。口元にソースついてる。」


そう言って私の口元を彼のゴツゴツした指がスッと撫でていきます。


「っぁ、」


「…取れた。」


そう言って彼が指に付いたソースを舐めました。


「――っ!!」


思わず私が目を見開くとカイル様がニヤリ笑いました。


「…うま。ご馳走様。」


「っカイル様…。」


私が上目遣いに彼を見つめると、彼がゴクリと生唾を飲み込みます。


「…なぁ。この後、俺の宿の部屋に遊びにこない…?」


その言葉に私は頬をピンク色に染めて頷きます。


「…はいっ、」


宿までの道のりは無言でした。


 ただ、繋いだ手から痛いほどお互いがドキドキしているのが伝わってきました。


 宿の部屋のドアに入った瞬間カイル様がグイッと私の手を引いてギュッと抱きしめてきました。


「――っ!!」


「――もう絶対離さねぇ。」


顔を上げると、真剣な顔のカイル様と視線が交わりました。


「――っぁ、」


徐々に顔が近づき唇が触れそうになった、またもやその時です。


「グルオオオオオオオオオ!!!!」


突然物凄い雄叫びと共に宿の部屋がガタガタと揺れました。


「っ?!な、なんだ?!」


私達が急いで窓を開けると、街中が騒然としておりました。


「ドラゴンが出たぞぉっ!」

「アースドラゴンだっ!」

「傭兵の皆は集まってくれっ!!」


――私達はその光景に唖然とします。


「「……。」」


カイル様が「ふぅーっ。」と座った目で溜息を吐きました。


「なぁ。」

「…はい。」

「…何であいつらこんなにタイミング悪いんだろうな。」

「分かりません…。」

「ぶっ殺してくるわ。」

「…はい。」


私達は怒りに身を任せて宿から飛び出しました。


「うおおおおおおっ!!!」


 ――勇者の攻撃力が2倍になった!!


 ザシュッザシュッ!!!


 カイル様が聖剣でまるで八つ当たりするかのようにドラゴンの肌を切り裂きます。


「はいっ!はいっ!はいっ!はいっ!」


 ――聖女の攻撃力が2倍になった!!


 ドォン!ドォン!ドォン!!


 私がその傷口にトドメを刺すように聖魔法『パニッシュメント』を鬼のように打ち込むます。


「ぐ、グギャ、グギャ…。」


スドオオオオオオン!!


 私達の鬼のような攻撃、そして爆撃に為す術なくドラゴンは倒れました。


「このっ!このっ!」


それでもカイル様は血走った目でドラゴンをバシュバシュと切り刻んでおりました。


「か、カイル様?もう、ドラゴン死にましたよ?」


その声に彼はハッとしたように目を見開きました。


「はっ!!…やっべ。俺としたことが、ついやりすぎちゃった。


 ――さて、じゃ、部屋に戻って続きを…」


カイル様がそう言いかけた、その瞬間でした。


「勇者様ぁあああああ!!!!!ありがとうございますぅううううう!!」


――町長が現れた!!


「あ、はい。俺らは当然の事をしただけで…。」


そう言って笑顔でカイル様は立ち去ろうとしました。しかし…。


「皆のものおおおおお!宴の準備じゃあああああ!!」


――住人達が現れた!!


「わっしょいっ!わっしょい!わっしょい!!」


そう言われて何十人にもわたる男達にカイル様は担ぎ上げられてしまいました。


「え、、いやっ!ちょっと、俺はこれから部屋に戻ってティアナと続きを…。」


「主役が何を言っとるんですかぁー!!ほれっ!今日は飲んでもらいますぞおお!!!!!」


私はおかしな掛け声と共に連れ去られてしまったカイル様を見て呆然としてしまいます。


「ほらっ!聖女様も行きますよー!!」


そう言われて私も担ぎ上げられてしまいました。


「へ?!えええええ?!」


「わっしょいっ!わっしょい!わっしょい!!」


――こうして私達はまたしてもファーストキスの機会を逃してしまいました。


◇◇


 ――その後も、私達がキスをしようとしたタイミングで何故かモンスターが現れます。


「ティアナっ!…キスしていいっ?!」

「カイル様っ!」


ダンジョンのセーブエリアの片隅で他の二人が寝静まっていい雰囲気になりキスしようとした時も…。


「キエエエエエエエエエ!!!」


――キメラが現れた!


「「……。」」


私達は無表情になりモンスターを無言で倒します。


 バシュッ!バシュッ!


 ドォン!!ドォン!!


「倒したな。」

「…ええ。そうですね。」


 ――荒野の砂漠のオアシスで水を飲みながらふと目が合ってこっそり口付けしようとした時も…。


「クルッポー!!クルッポー!!クルッポー!!」


――キラーピジョンが現れた!


「「……。」」


私達は再度無表情になりモンスターを無言で倒します。


 バシュッ!バシュッ!


 ドォン!!ドォン!!


「…なんかコイツら絶対邪魔してきてない?」

「…ええ。そうですね。」


――そんな事を繰り返し、遂に魔王城で魔王の間に入ろうとする前の出来事です。


「ティアナっ!!魔王と戦ったらもう生きて帰れないかもしれない。


 ――だから伝えさせてくれっ!


 俺はお前のことを愛しているっ!!」


「カイル様っ!!私もっ!!私も貴方のことが大好きです。」


――気がつくと、頰に涙が伝っておりました。


 この人と触れ合いたい。


 この人を守りたい。


 ――涙ながらに口付けを交わそうとしたその時です。


「はっはっはっ!!よく来たな!!勇者よ。

 ――よくぞここまで来た。」


――その場が水を打ったように静かになります。


「…なんか、魔王。二人がキスしようとしたら、何故か魔王の間から出てきちゃいましたね。」


「そうだな。」


マリスとルカが苦笑いする横で私とカイル様が唖然としています。


「「……。」」


「私に簡単に勝てると思うなよ?!何故なら私はこの世で最強で最悪の…。」


――魔王が言いかけた、その時でした。


「死ねぇえええええええええええええ!!!!」


――勇者の攻撃力が10倍になった!!


ザシュッ!ザシュザシュザシュザシュザシュザシュ!


 怒りで顔を真っ赤にしたカイル様が物凄いスピードで魔王に向かっていき、目にも止まらぬ速さで何百回も切り付けました。


「空気を!読んでっ!下さいっ!!」


――聖女の攻撃力が10倍になった!!


ドォン!ドォン!!ドォン!!


 私も怒りで聖魔法『パニッシュメント』を鬼のように打ちこみまくりました。


「ぐ、ぐはっ…。」


いつの間にか魔王が倒れておりましたがそんなの関係ありません。


「死ねっ!死ねっ!」

ザシュッ!ザシュッ!


「空気読んでくださいっ!!」

ドォン!ドォン!!


 私達は今までキスを邪魔され続けた鬱憤を晴らすように攻撃し続けました。


「おーい二人ともー。」

「…魔王死んでんぞ?」


マリスとルカの言葉で我に帰った私達はハッとしました。

「…魔王が…死んだ?」

「…私達、勝ったの…?」


――こうして、私達はキスを邪魔された怒りでいつの間にか魔王を倒していたのでした。


◇◇


 ――その日の夜。


 私達は宿に着いた瞬間、部屋に直行しました。


「っ、――やっとお前に触れられる」


そう言ってカイル様の熱い指先が私の両頬を包み込みます。


「――っ、カイル様っ、」


二人の甘い吐息が絡み合い彼の唇が額、頰、首筋に落ちてきます。


「――ここも、キスしてもいい?」

「っはい、」


そして、最後に彼の唇が私の唇に落ちてきました。


「っん、」


(やっと!やっとキス出来ましたっ!!)


感動で思わず私は打ち震えそうになります。


 啄むような口付けが、やがて激しく、深くなっていきます。


「ティアナっ、」

「…っ、カイル様」


やがて彼の熱い指先がどんどん熱を帯びてきました。


「――もう絶対誰にも邪魔させない。」


そう言って彼は私を優しくベッドに押し倒しました。


「……っぁ、」


――私達は頬を寄せ合い、やがて熱が溶け合っていきます。


「ティアナっ、」

「っ、カイル様っ、」


部屋の花瓶の水が見守るようにゆらゆらと優しく揺れておりました。


 ――こうして邪魔者がいなくなった世界で、私達はやっと結ばれることが出来たのでした。


fin.

 


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