表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男子校、恋愛未履修、恋の先生はAIです。  作者: なぐもん
第2章 AI先生、恋を教えて下さい
9/40

第八話 既読という名のギアス

スマホの通知音が鳴った瞬間、俺の心臓が跳ねた。

画面には──“椎名瑠璃”の名前。


息を呑んで、慎重にトーク画面を開く。


『ごめんなさい、すぐ返せなくて……すごく嬉しかったんですけど、どう返したらいいかずっと悩んでました。

今度の日曜なら、空いてます!』


──その瞬間。

俺はスマホを胸に抱きしめて、ベッドに倒れ込んだ。


「…………やば……」


心臓がうるさい。


「デ、デート……デート……っ」


顔が熱すぎて、枕にうずくまったまま転がる。


「ちょ、ちょっと待って。あれって……つまり、OKってことでいいんだよな!? え、そうだよな!? 俺の、“よかったらお茶でも”ってやつに……!」


慌てて自分の送ったメッセージを見返す。


『こんにちは。文化祭の日、ほんとにありがとう。

あれから、なんとなくまた話せたらいいなって思ってました。

よかったら、今度どっかでちょっとだけお茶でもどうですか?』


「“ちょっとだけ”とかつけといてマジでよかったぁあああ!! 過去の俺、天才!!!」


《おにいちゃん、おめでと〜〜〜☆ こいのステージ、はっじまるよ〜☆》


スマホのスピーカーから、あの高い声が響いてくる。


AICO──恋愛サポートAI。

現在はVer2.0、ウザかわいい幼女キャラで絶賛稼働中。


《さぁさぁ! おにいちゃんの でーと、うけつけました〜☆

ご予約、にちようび! あいて、椎名るりちゃん! じかんは、えっと、まだきまってませーん☆》


「うるさい……てか、まだ何も決まってねぇ……!」


《でもでもぉ〜? どこ行くのぉ〜? ガ○ト? サ○ゼ? タピオカって、まだ生きてるの〜??》


「だから、そういう古めの情報でボケてくるのやめろ……こっちは本気なんだよ……!」


布団かぶって唸る。


……たしかに、返事は来た。

爆発しそうなほど、嬉しかった。


けど──


「……で、どこ行けばいいんだよ」


現実が、じわじわと襲ってくる。


初デート。

どこで、なにを、どうやって。


そんな経験、俺の辞書には載ってなかった。


《おにいちゃん、しつもーん☆ おみせ、きめてる〜?》


「決めてたら苦労してねぇよ……!」


《んー! じゃあ アイコちゃんと いっしょに かんがえよっ☆

ファーストデートは、チョコパフェの数で きまるって れんあいじしょに のってた〜☆》


「いやどこの辞書だよそれ……」


……もう無理。


静かに男子校グルチャを開いた。


「……これは、一人で考えるの無理だ。……呼ぶか、あいつらを」



***


夜の男子校グルチャ。

恋愛未経験男子4人+謎のAIによる、混沌の恋愛会議が始まる──!


【陽翔】:なんだこの時間に

【俺】:すまん、緊急案件だ

【要】:まさかお前、また数学の課題パクらせてって……

【俺】:違う。……椎名さんから返事、来た

【陽翔】:キターーーー!!!!!!!!!!!!

【純】:……本当に? おめでとう

【要】:で、何て?

【俺】:今度の日曜、空いてますって。お茶、OKだった


【陽翔】:デートじゃん!!!!!!

【要】:リアルに、デートじゃん!!!!!!

【純】:すごい、すごいね……!


一気に爆発するテンションの中、あいつが当然のように乱入してきた。


《わ〜い♡ おにいちゃんの はつでーと、だよ〜っ!! がんばってね〜! パフェ、たべてね〜♡》


【陽翔】:……ちょっと待て

【陽翔】:なんでAIがグルチャにいるんだよ

【要】:てか、招待した?

【俺】:してない。勝手に来た

《ネットは せかいと つながってるのだ〜☆ わたし、そーいう仕様♡》

【陽翔】:こええよ!!!!

【純】:……すごいね。AICOちゃん、どこにでもいるんだね……

《えへへ〜♡ わたし、まいにちログインしてるもん☆》


【俺】:いやでもマジで、どこでお茶すればいいのかわからん……

【俺】:こっちはデートなんて初めてなんだよ……


【陽翔】:じゃあ俺の案な。「純喫茶リベルテ」ってとこがあるらしい。チョコカレーうどん出してくれるって

【俺】:絶対やだ

【要】:タピオカで良くね? 女ってタピオカ好きだろ

【陽翔】:古ッ!!! タピオカは2018年に置いてこいよ

【純】:ぼく、知らない喫茶店とか……こわい……


《でーとプラン、けってい☆ とつげき! ファミレス・クエスト☆》

【俺】:AICO、黙ってて


──その混沌に、突如として現れた救世主。


「……はぁ。男子って、ほんっと使えないよね」


「み、美優……!? なんでここに……!」


「グルチャの通知、マジでうるさいんだけど? てか、スマホ放置して風呂入ってたでしょ。画面見えたから」


「見えてたのかよ!? てか勝手に開くなよ!」


「はぁ……しょうがないな、ほんと。いい? 女の子に“お茶”って言ったなら、それなりの場所じゃないと引かれるよ?」


美優がスマホをひったくり、検索して画面を見せてくる。


「ほら。駅前にある『Café Lueur』って店。落ち着いた雰囲気で、でも可愛い系のスイーツもあるし、外観も映える。インスタでバズったこともある」


「えっ……すご……」


《うーん! ミユちゃんすごーい! わたし、まけてる〜!? これは ちょっとくやしい〜〜〜っ☆》


「……あ、ありがとう美優。ほんと助かった……」


「うんうん、兄さんの初デートを台無しにされたら、こっちの名誉にも関わるからね。……にしても、恋愛未経験男子四人とAIの会議とか、カオスすぎでしょ」


「やめろ……言わないでくれ……」


──深夜のチャットは、美優の一言で静まり返った。

そして──第一の難関「場所選び」は、意外な形で解決されたのだった。



***


日曜日、朝8時半。


俺の部屋には、独特の緊張感が漂っていた。


鏡の前で服を確認して、髪を整えて、靴まで磨く。


「……おかしいな。昨日まで普通に生きてたはずなのに、なんでこんなに手汗すごいんだ……」


そのとき。


《おにいちゃん、おにいちゃんっ♡

そのシャツ、かわいいけどぉ〜……すこしだけ、シワが気になるかもっ☆》


スマホから飛び出してきたのは、もちろんAICO。


「シワ? え、やばい……アイロンってどこだっけ……」


《だいじょーぶ☆ いまから、おべんきょーの時間で〜す!》


画面いっぱいに表示されるチェックリスト。



■恋の装備チェック by AICO

☐ シャツ → 清潔感&シワNG!(アイロンするべし)

☐ 靴 → ボロボロNG。新品じゃなくても、きれいに磨くこと

☐ 香り → 香水よりも、柔軟剤の“いい匂い”が好印象

☐ 髪 → 寝グセは最大の敵!



「お前、いつの間にこんな機能……」


《えへへ〜☆ アイコ、さいきん じつは“ひっそり うぷでーと” したのだ〜♡》


さらにスライド。



■会話テク by AICO

・相手の目を見る → でも、にらめっこじゃないよ! ちょっとそらすくらいがベスト☆

・相手の言葉を繰り返す → 「〇〇が好きなんだ」→「へぇ、〇〇好きなんだね!」

・話題に困ったら → 「今日、来てくれてありがとう」って言おう。それだけで、伝わるから!



──ふざけた幼女AIのくせに、時々こうして刺してくる。


「……なんか、お前。今日、やたら頼れるな」


《でーとってね、“相手を知りたい”って きもちが いちばん大事なんだよ〜♡

 しっぱいしても、うまくいかなくても、ちゃんと“好き”って思えたことが宝物だから☆》


俺は一瞬だけ、目を伏せて──静かに言った。


「ああ……そうだな。ありがとう、AICO」


《えへっ♡ じゃ、れっつごー☆ はつでーと、ファイトだよ〜っ!》


AICOの声に背中を押されて、俺は立ち上がる。


「よし。いってきます──!」



***


ついに迎えた、初デート当日。

“恋愛未履修”男子の挑戦が、静かに始まろうとしていた──!



次回予告!


\デデデンッ!/

《じかいよこく〜☆》


《ながき よるを こえて……いま、しゅっぱつの とき!》

《はじめての でーとに いどむは、れんあい ひよっこ トレーナー・みなとっち!》


\ジャンッ/

湊「……なにそれ!? 誰が“トレーナー”だよ!!」


《しかぁーし! まちうけるのは、恋愛ジムリーダー・シーナ!》


\ピシャーン! 雷の演出/

椎名イメージ「……あ、あの……このお店、入ってみたかったんです……」


湊(内心)《くっ、かわいすぎる……これは“悩殺フェアリーパンチ”……!?》


\ピーピー警報音/

《みなとっち、こんらんしている!》


《いったいどうなる!? たたかいの いくすうびょうご……“でーと”が はじまるっ!》


\パァァァァン! 光と共にタイトルロゴ出現!/


【次回】

はつでーと! ジムリーダー・シーナに いどめ!


\テレテッテッテッテ〜ン♪/(どこかで聴いたような音)


《おたのしみに〜♡》


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ