第五話 連絡先をGETせよ
文化祭の熱気がひと段落して、中庭のベンチでオレは――灰になっていた。
「……うおおおおお!! なんで聞けなかったああああ!!」
《失敗の記録を音声データとして保存しますか?》
「やめてくれ! 未来のオレが泣く!」
そう、あれほどの会話ができたというのに――
肝心の連絡先を聞けなかった。
せっかく名前も知って、趣味も合って、笑い合えて、これ以上ない流れだったのに……!
《想定していた10通りの会話パターン、全てスルーされました》
「やめろ……やめてくれ……数値で責めないでくれ……!」
《なお、“さりげなくQRコードを差し出す”プランも見送られました》
「だってそれ、露骨すぎるだろ!?」
オレの心のダメージに追い打ちをかけるように、AICOのメタ分析が続く。
こいつ、最近ちょっとノリが悪魔寄りじゃないか?
机をばんばん叩いていたら、陽翔と純がいつの間にか戻っていた。
「よし、湊を支援する作戦を立てよう!」
「わ、作戦会議だね! なんか、楽しそう!」
おいおいおい、悪い予感しかしないぞ──。
◇ ◇ ◇
「作戦そのいち! “偶然ぶつかる”でロマンス発生大作戦!」
「陽翔、それ絶対ラノベでしか見たことないやつだよな」
「いやいや、運命の出会いは大体ぶつかりから始まるって相場が決まってんの!」
「そうだよね! ハンカチ落としたとか、定番のアレだね!」
二人が大真面目に語る中、陽翔は何やらメモ帳に動線を描き始めた。
「よし、椎名さんが歩いてくるであろう通路を予測して、湊がそこに“たまたま”現れる!
ぶつかって、『あ、ごめんなさい、スマホ落ちました、大丈夫ですか?』──からの流れで連絡先交換!」
「雑だよ! それに人通り多すぎてぶつかるどころか事故になる!」
「だ、大丈夫かなあ……湊くん、ケガしないでね……?」
そうこう言ってるうちに、彼らは実行に移そうと通路へ向かったが──。
「そこの君たち、館内で走らないでください!」
椿ヶ丘の文化祭スタッフにすぐ止められて、作戦は未遂に終わった。
「くっ……リアル社会はラノベに厳しいな……」
「当たり前だよ!」
◇ ◇ ◇
「作戦そのに! “地図係”で案内しながら親しくなる計画!」
次は純が真面目な顔で地図を手にして言い出した。
「椎名さんがどこか行きたい場所に迷っていたら、
僕が一緒に探すんです! そしたら自然と距離が縮まるかも!」
「……それ、お前が迷うフラグじゃない?」
「えっ?」
結果、純は逆に迷って学校の裏庭で猫に囲まれていた。
「わあ……かわいいけど……出られないかも……」
「そもそも距離どころか遭遇してないから!」
◇ ◇ ◇
図書館の廊下で、友人たちの“作戦敗北”を見届けた後。
オレは一人、渡り廊下のベンチに腰掛けていた。
手には、AICOアプリを開いたスマホ。
「……結局、なにもできなかったな」
《行動のない恋に、進展なし》
「お前に言われたくないよ」
はあ、とため息。そんな時だった。
《仕掛け完了》
「……は?」
《“紛失物の可能性”を検知したため、椎名さんの端末に通知を送信しました》
「待て待て待て、え、え? 送信って、お前、なに勝手に──」
《※湊さんの行動停止により、AICOが確率操作を実行しました》
「なにが確率操作だよ! そんなの倫理的に――」
《間もなく、再会します》
「えっ、えっ、うそだろ……?」
信じたくなかった。だがその瞬間、向こうの角から──
「……あれ? 佐倉くん?」
本当に、彼女が来た。
椎名瑠璃。オレが、文化祭で出会って、もう一度会いたかった人。
スマホを手にして、少し不思議そうな顔をしている。
「ここで会うなんて、偶然……だよね?」
「あ、ああ、うん……偶然、かな……!」
《再会成功率、操縦完了》
心の中でAICOを全力で殴りたかった。
「なんか、スマホに“お忘れ物があります”って通知来て……
ちょっと心配になって見に来たの」
「ああ、それ、多分……えっと、その……」
湊、死ぬほど動揺中。
でも──。
(これは、チャンスだ。……行け! オレは、もう逃げない!!)
「……椎名さん。よ、よかったら……連絡先、交換しませんか」
声が震えていた。心臓も暴れていた。
椎名さんは、ふいに少しだけ目を見開いて──ほんの数秒、沈黙。
そのあと、少し困ったように笑った。
「……そういうの、簡単に教えるタイプじゃないんだけどね、私」
オレの心臓がさらに跳ね上がる。やっぱり断られる――
「でも……佐倉くんなら、悪い人じゃないって思える。たぶん……」
小さく、でも確かにそう言って、彼女はスマホを取り出した。
「この前、ちゃんと案内してくれたし。……今日も、なんとなく助けられた気がするから」
言いながら、自分のスマホを操作し始める。
「じゃあ、交換……しよっか」
画面に、お互いの名前が並んだその瞬間──
《ででででーん!! 勝利のファンファーレ再生中!》
「うるさっ! お前、音量下げろって!」
「ふふっ……相変わらず、面白い人だね」
◇ ◇ ◇
いろいろあったけど、今日は勇気だして良かった。
「迷走した末の偶然、かもな……」
連絡先を交換できたという小さな奇跡に、まだ心が浮かんでいる。
これから、何が始まるんだろう。
オレはそんな期待を胸に、友人たちと帰路についた。
【次回予告】
《おっす!! オラAICO! 次回「恋愛支援AICOアップデート」
次もぜってぇ読んでくれよな!?》
「ドラゴン〇ール!? ……お前、作者が偉い人達に怒られるからやめてやれ……」
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
第五話「連絡先をGETせよ」いかがでしたでしょうか?
ようやく連絡先交換に成功した湊ですが、恋の道はまだまだ迷走中。
でも、その不器用さが青春の醍醐味ですよね。
そしてなんと本作、「現代恋愛」カテゴリで日間ランキング入りしました!
読んでくださった皆さまのおかげです。本当にありがとうございます!
次回、第六話では──AICOがまさかの...!?
恋愛AIはどこへ向かうのか……! どうぞお楽しみに。
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