第三十八話 繋がる想い、笑顔で届け
──昨日、椎名瑠璃さんと付き合うことになりました」
陽咲男子高等学校の教室の空気が、一瞬で静止する。
数秒の沈黙ののち、陽翔が声を震わせながら口を開いた。
「……マジ、か……?」
「うん。ちゃんと、AICOのことも伝えて──OKもらった」
その瞬間、
「っっしゃあああああああああああ!!!!」
「でたああああああああああああああ!! 佐倉恋神、ついに最終進化ああああああ!!!!」
「デートで勇者! クリスマスで神!! その先はもう、伝説級だろ!!!」
「おい情報班!! 日付残しとけ! “2月×日:恋神、神話となる”って!!」
「学校名改名しようぜ! 陽咲男子高改め、佐倉恋学院!」
「屋上に祠を──いや神殿を──!!!」
「巫女(♂)コス買ってきます!!」
(……あかん。もう止まらん)
俺が冷静に手を上げても、騒ぎはヒートアップする一方だった。
そんな中、ふと純が、静かに口を開いた。
「……あの、僕も……その……」
「ん? どうした純?」
「桐島ひなこさんに、告白されて……それで、付き合ってます」
──静寂。
みんなの時間が、一瞬止まる。
そして。
「「「えええええええええええええええ!!!!???」」」
「純~~~!?!?!?」
「お前も神か!? 天使か!? 人知れず裏ボス倒してたのか!?」
「ひなこって、あの如月贈菓祭でペアだったギャルだろ……!?」
「うそだろ!? もう俺らしか残ってないぞ!!」
陽翔と要は抱き合いながら涙を流していた。
「なあ……恋って……格差社会なんだな……」
陽翔が、遠くを見ながらつぶやいた。
「ごめん、湊。俺、もう笑えねぇよ……」
要が肩を落とす。
「純まで行くなんて……聞いてねえよおおおおお!!」
「このまま、俺たち彼女ゼロで卒業かよ……!? バッドエンド確定か!?」
「ハッピーエンドは神(湊)と精霊(純)だけなんだ……」
「やっぱ俺ら、ラブコメのモブなんだな……!」
──この日、学校は“恋愛強者とその他大勢”に分かれた。
でも、みんな本気で祝ってくれてるのは、伝わってくる。
「おう! 神!!」
「恋愛のご利益、よろしく頼むぞ神!!」
「だから神って言うな!」
(……でも、ほんとに。バカみたいに騒いで、笑ってくれて──ありがとな)
* * *
湊くんが言ってた、“恋愛サポートAI”。
──AICO。
その名前を、私はどこかで聞いたことがあった。
家にある段ボールの山をなんとなくひっくり返していたら、ふと目についた一枚の資料。
《── Project A.I.C.O. Internal Notes》
それを見た瞬間、胸の奥が、少しだけ温かくなった。
お母さんと、お父さんが作ったAI。
そのAIが──湊くんのそばにいてくれたなんて。
きっと私は、知らないうちに支えられていたんだ。
私の家族が……湊くんと、繋がっていたなんて。
「……ありがとう、お父さん」
リビングに戻ると、父が玄関でコートを脱いでいた。
声をかけた私に、父は驚いたように目を丸くして、
それからほんの少し、目元をゆるめて──黙って、頷いた。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!
ついに、佐倉湊と椎名瑠璃、二人の恋がしっかりと結ばれました。
陽咲男子メンバーの大騒ぎも含めて、書いていて本当に楽しかったです。
そして、静かに幸せを掴んでいた純くん……やるねぇ。
今回、瑠璃サイドでは“AICO”と家族の繋がりを改めて感じるシーンを描きました。
目立たなくても、想いはちゃんと届いている。
そんなことを瑠璃自身が知ることで、彼女もまた大きく前に進めたんじゃないかな、と思っています。
次回はいよいよ最終話です!




