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男子校、恋愛未履修、恋の先生はAIです。  作者: なぐもん
第4章 好きを伝えるには、まだ怖くて
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第三十話 あぁ青春よ!

──屋上へ向かう廊下。


椎名さんが「少し話したい」と言った瞬間、AICOの音声が静かに響いた。


《鑑定を使用します──対象:椎名瑠璃》


《分析結果:第三十話でついに!?

チョコを渡される可能性……89%!》


《これは、いよいよ……この作品も完結の可能性が!?読者の皆様、今まで本当に……》


……うるさい。


心拍がバレるからやめてほしい。


 


俺は椎名さんの背中を見ながら、ただ黙ってついていった。


向かった先は、陽咲男子高等学校──誰もいない、屋上。


 


まだほんのり暖かい夕日が、彼女の横顔をオレンジ色に染めていた。


 


「……わぁ!すごい」


 


椎名さんがぽつりとつぶやく。


 


「風が気持ちよくて。空も、広くて。……それに──」


 


ふと、言葉を止めたあと、彼女はポケットから手に持っていた小さな包みを差し出した。


──リボンのついた、手作りのチョコ。


 


「湊くんに……渡したいものがあって」


 


「……えっ」


 


手が伸びかけたその瞬間。


 


椎名さんの動きが、ぴたりと止まった。


 


その瞳が、少しだけ、揺れていた。


 


──そして、彼女は口を開いた。


 


「中一の冬。……バレンタインの日」


 


その声は静かで、でもどこか震えていた。


 


「母が亡くなって……それから、家の空気が変わって必死だったって話をしたよね」


「でも……そんなとき、クラスの男の子が声をかけてくれたの。“大丈夫?”って」


 


「たったそれだけだったけど、それで救われた気がした。……それで、チョコ、作ったんだ。その人に、ありがとうって伝えたくて」


 


「でも──」


 


彼女は、苦笑するように視線を落とした。


 


「次の日、聞こえちゃったんだ。後ろの席で、男の子たちが話してるの」


 


『ちょろかったな〜、ちょっと優しくしただけでホイホイと』


 


「……恥ずかしかった。情けなかった。自分が勝手に期待して、勝手に傷ついたことも」


 


「それから男の子なんて、遠ざけるようになって……女子校も選んで」


 


「でもね、湊くんと出会って、少しずつ変わったの」


 


「カフェでお茶したり、映画を観たり、クリスマス、あの高台……」



「全部、全部、わたしにとって、大切な時間だった」


 


「この人といると、わたし、ちゃんと笑える。……泣かなくても、頑張りすぎなくても、いいんだって思える」


 


ふっと息をついて、彼女はチョコを差し出した。


 


「──これ、湊くんに受け取ってほしい」


 


俺は、そっとチョコを受け取る。


(……うれしい。なのに──声が出ない。)


「……湊くん?」


固まっていた俺に、AICOの声が低く響いた。


《……現在、喜びの感情により思考が停止しています》


《状態名:かたまっちゅう。喜びLv:MAX、脳内処理:凍結中》

《アドバンス予測を強制実行します──》


《『ありがとう。ほんとに、うれしい』と伝えてください》


俺は、かろうじて口を開く。


「……ありがとう。ほんとに、うれしいよ」


椎名さんは、少し照れたように笑った。


 


「ふふっ、やっと言ってくれた」


 


俺は真っ赤になって、チョコを見つめる。


 


「……初めてなんだ、家族以外の女の子から……もらうの」


 


「そ、そっか……そしたら、すごく光栄だな……なんて」


 


「めちゃくちゃ嬉しい!だ、大事にするね!」


 


「ちゃんと、食べてね?」


 


「も、もちろん!」


 


 


椎名さんは、ほっとしたように微笑んだ。


 


◇ ◇ ◇


 


陽が、少しずつ傾いていく。



「うわああああああん!!」



ふたりで並んで校庭を見下ろすと、下のほうが……なにやら騒がしかった。




「ありがとう……公式配布チョコでも……青春をくれて……ありがとう……ッ!!」


 


「えっ……あれ、要くんと陽翔くんじゃ……?」


 


「あいつら、何やってんの……」


 


涙を流して崩れ落ちているふたりの手には、【椿ヶ丘生徒会公式配布チョコ】の袋。


 


どうやら『義理でもいいからチョコください作戦(GGC)』は……


公式配布チョコにより、形式的には成功。


精神的には、完全燃焼。


 


「よかったじゃん。……青春、してるよ」


 


「うん。……あはは、あんなに喜んでくれるんだ。なんだか泣けてきたかも」


 


AICOの声が締めくくる。


 


《GGC作戦──結果:公式に救われた男たち》


《評価:戦場に散った青春の勇者》


《そして──第三十話、終了》


《“恋”と“友情”、どちらも、ちょっとだけ前に進みました》


 《──恋する心に、ほんの少しの勇気を添えて》

《これにて、如月贈菓祭・第二部、終了です》



俺は、さっきもらったチョコをそっと見下ろす。


手の中に残る、ぬくもり。


そして、胸の中に残る──この、うれしいって気持ち。


 


「……これが、青春だな」

こんにちは、三枝純です。


えっと……第三十話、読んでくださってありがとうございました……!


実習のあと、

僕、ちょっとだけ、帰るのが遅れてしまってて。


……GGCのとき僕がいなかったのは、

べつに置いていかれたわけじゃないんです。たぶん。


……実は──

ひなこさんと、連絡先を交換してました。


び、びっくりしました。

だって……なんで、僕なんかと……って思って。


でも、ひなこさん、すごく明るくて優しくて、

お話してる時間、すごく楽しかったんです。


あの……僕なんか、まだまだだけど。

でも、ほんの少しだけ……“こういうのも青春”って、思えた気がします。


 


それと──次回は、どうやらAICOちゃんの様子がちょっと変になるらしくて……!


えっ、AIが変になるって、どうなるんだろう。

Ver.何かになるのかな……?それとも、バグとか……??


僕も出番あるかな……ちょっとドキドキしてます。


また読んでもらえたら、うれしいです!


 


それでは、また──。



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