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男子校、恋愛未履修、恋の先生はAIです。  作者: なぐもん
第4章 好きを伝えるには、まだ怖くて
30/40

第二十九話 大事なのは…

材料がずらりと並ぶ、文化祭用の特設調理ブース。


この実習で作成する共通のテーマは──

『トリュフ』


ただし、アレンジや仕上げはペアの自由。

味、見た目、演出──すべて“ふたりらしさ”が試される。


 


俺と椎名さんも、エプロンを着けて作業台に並んでいた。


 


「アールグレイはこのタイミングで入れて……うん、こんな感じかな」


「ふわっとしてて……すごく良い香りだ」


 


チョコが湯せんで溶けていく音。

ふわりと漂う紅茶の香り。


そのすぐ隣にいる彼女の横顔が、いつもよりやわらかく見えたのは──


香りのせいか、それとも近づいた距離のせいか。


 


そのときだった。


 


器の縁に手を添えた瞬間、彼女の指先に、俺の指がふれた。


 


「あ……」


 


ほんの一瞬のことだった。


でも、ふれた場所から、じんわりと何かが広がっていく。

静かに、確かに。鼓動の奥に届くような“熱”が、そこにあった。


 


「……ご、ごめん!」


 


思わず手を引いた俺に、椎名さんは少しだけ驚いたように目を見開いて──

次の瞬間、やさしく笑った。


 


「ううん。……私こそごめんね」


 


その声が、なんだかくすぐったくて。

二人で顔を赤く染めた。


 


◇ ◇ ◇


 


周囲のブースでは、それぞれのペアがにぎやかに作業を進めていた。


 


「これ、爆発しないかな?」


「チョコが爆発したら、もうそれ料理じゃないよ!」


 


陽翔と橘さんは、やっぱりどこか漫才じみたテンポで会話を続けている。

けど、不思議と息は合っていた。


 


《陽翔 × あかり──進行度:協力型フレンドシップ・安定中》


AICOの記録が、スクリーンの隅に小さく表示されていく。


 


一方──別のブースでは。


 


「これが俺の“男気トリュフ”!」


「男気の前に、分量守って?」


 


美優と要のブースは、開始早々ツッコミと怒号が飛び交っていた。


けど、完成品は意外にも爽やかで、ミントが効いた仕上がりだった。


 


《要 × 美優──ボケと鋼の連携良好・強制協調モード》


AICOが「バトル形式」と誤認しかけたのも納得だった。


 


そして──一番目を引いたのは。


 


「えっ、これ手作り!? お店で売ってそう……」


「い、いや……姉に教えてもらっただけで……」


 


純と桐島ひなこのチームだった。


 


ギャル風の見た目とは裏腹に、彼女はパティシエ志望。

純の几帳面な作業と彼女の感性が、完璧にかみ合っていた。


 


《純 × ひなこ──感性適合度:98.7%、進行中》


 


俺はその完成度に、思わず息をのんだ。


そして、自分たちのトリュフを見下ろす。


──香りは良い。でも、見た目は地味だし、どこか不格好だ。


 


「……地味すぎたかな、俺たちの」


 


つぶやいたその言葉に、椎名さんが顔を上げた。


 


「そうかな?」


 


「……いや、みんな、すごいから。なんか……比べたら、ちょっと自信なくなるっていうか……」


 


彼女は一瞬、俺の顔をじっと見て──それから、ふわっと微笑んだ。


 


「でも、私は──これが一番好き」


 


「え……?」


 


「形とか、見た目とかじゃなくて。

この香りも、味も……湊くんと一緒に作ったから。

なんていうか──ちゃんと、“ふたりの味”がするんだよ」


 


その言葉に、肩の力がふっと抜けた。


 


──そうだ。

誰かと比べるために作ったんじゃない。

この時間を、“彼女と一緒に”過ごせたことが、いちばん大事なんだ。


 


「……ありがとう」


 


俺はそっと息をついて、ココアパウダーをふりかけた。


 


「……できた」


 


「うん。きれいにできたね」


 


見た目は少し不格好かもしれない。

でも、ふんわりと香るアールグレイと優しい甘さは──彼女みたいだった。


 


◇ ◇ ◇


 


試食・プレゼンテーションの時間。


作品名は、『紅茶とチョコの奇跡』と名前をつけて提出した。


 


他のペアの作品と並べられたトリュフを前に、俺たちはそっと見つめ合う。

「……うん。ちゃんと、“わたしたちの味”になったね」

その言葉に、俺も小さくうなずいた。


 


椎名さんは照れたように笑って、俺はその横顔を見ていた。


 


──この“味”を、彼女と一緒に作れたことが、なによりうれしかった。


 


そして、イベント終了のアナウンスが流れる。


 


『如月贈菓祭・第二部、お菓子作り実習を終了します。ありがとうございました!』


 


会場に拍手が響き、緊張の糸がほどける。


 


エプロンを外そうとしたとき──


 


「──湊くん」


 


椎名さんの声。


振り返ると、彼女はほんの少しだけ、不安そうな表情を浮かべていた。


 


「少しだけ……話したいことがあるの。いいかな?」


 


その手元には、ラッピングされた小さな袋がひとつ──

彼女の指先に、そっと握られていた。


 


俺の心臓が、ふっと音を立てて跳ねた。


 


「……うん。行こう」


 


ふたり、静かな廊下へと歩き出す。


 


そこに、なにかが始まる気配があった。



次回予告《AICO Ver.4.0》


《鑑定モード、起動──これは、運命の節目である第三十話の兆候です》

《チョコの甘さ、それは恋の伏線──“告白される確率、89%”いよいよ完結ですか!?》



どーもー、陽翔です。


いやー!純とひなこペアがプロすぎてビビりましたね!?

うち? うちは大爆発しかけたけど……まぁ楽しかったからヨシ!


湊と椎名さん、指ふれて「ドキッ」て、これ、完全に青春じゃん。

作者も読者もニヤけが止まらんやつやん。


そして次回!

第三十話は、ついにアレですアレ。バレンタイン!チョコ!告白未満の告白!


爆発するのは……陽翔のテンションか、それとも恋か!?


お楽しみに!

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