第三話「接触ミッション開始」
──耳元で、AICOの声が囁いた。
《さて。対象:椎名瑠璃さんとの再会確率を最大化するため、本日は『椿ヶ丘女子学院 文化部合同展』への潜入を推奨します》
「“参加”って言え。“潜入”って言い方やめろ! オレ、別にスパイじゃないからな!?」
《安心してください。“潜入”はあくまで比喩的表現です。校門から堂々と入る合法的な戦術です》
合法的戦術って言ってる時点でアウトだと思うんだが。
オレはそっとイヤホンを片耳だけ外して、ため息をついた。
場所は駅前のカフェ。日曜の昼下がり、オレは文化祭に行くべきかどうかをAICOと相談していた。
《偶然の再会演出のための最適行動として、イベント来場は最重要項目です》
「……でも一人で女子校の文化祭って、けっこうハードル高いぞ。男子校生が単騎突入とか……絶対浮くだろ」
そう言いながら、スマホをちらっと見る。
数分前に送ったグループチャットのメッセージ──
「今日ってさ、椿ヶ丘の文化祭行くやついる?」
「……オレ一人だとキツいかも。興味あったら一緒に行かない?」
返事はまだなかったが、既読はついている。陽翔も純も、たぶん気づいてるはずだ。
──と、背後から聞き慣れた声。
オレがそうつぶやいた瞬間、背後から馴染みの声が聞こえてきた。
「お待たせ~!いや~、ポスターの“美術部の本気”ってキャッチに釣られてさ!」
「うん。僕も美術部の展示、興味あって……あと、応援にも」
振り返ると、そこには二人の友人──藤堂陽翔と三枝純がいた。
「いや、そりゃ来るでしょ!文化祭って言ったら青春イベントの宝庫だぞ!? ラブコメ脳的には全力で同行不可避!」
いつものラノベ脳・陽翔は、テンション高く席に座った。ノリが軽すぎて、何が目的かよくわからん。
一方で、ふわっとした髪にやわらかい印象の純が、こっそり隣に腰を下ろして言った。
「ぼ、僕……椿ヶ丘の文化祭、初めてなんだ。ちょっと緊張してるけど、みんなと一緒なら心強いかなって……」
「うん、オレもそのつもりだった。ありがとな」
陽翔と純の存在に、正直助けられてる。オレ一人じゃ、今日ここまで来れてなかったかもしれない。
「それで、湊。椿ヶ丘の文化祭って、具体的にどこ行く予定なんだ?」
「え、あー……その、実は……」
口ごもりながらも、オレは文化祭で出会った“美術館から抜け出してきた”子の話をした。制服の特徴、方向音痴っぽい動き、生徒会長って噂──。
「ん? 制服って……椿ヶ丘の生徒会長って言ったら──」
陽翔の目が急にギラつく。
「まさか……“高嶺の花系女子No.1”こと、椎名瑠璃じゃねぇか!?」
「え、なんで知ってんだよ!?」
「いやむしろ知らない方が難しいだろ!? フォロワーがタイムラインでめっちゃ流してたし、まとめスレにも写真出てたぞ? “圧倒的ヒロインオーラ”ってタグついてた!」
「そんなタグあるの!?」
「文化祭レポの神スレだぞ。“凛とした美人で近寄りがたいけど、実は迷子で誰よりテンパってた”って実況されてたやつ!」
「あ、それたぶん正解」
純がそっとつぶやく。
「すごい……まるでプロの記者さんみたいだね、陽翔くん……」
「いやオタクの情報収集力は時として国家機関を超えるからな」
「それ自分で言うか……」
まぁ、AICOが検索で確認してくれたし、名前は一致してた。陽翔の言ってることも間違いじゃない。
《では、接触ミッションを開始します》
AICOの声が、懲りずに“作戦風”なのが気になるけど……まぁいい。
オレたちは、女子校の門をくぐった。
* * *
「でかっ……!」
校内に入って最初の感想は、シンプルにそれだった。
広い中庭、優雅な装飾の建物、そして整然とした制服姿の生徒たち。
普段男子校にいると、ここが別世界に思える。
「おい、湊。女子の視線が……」
「やめろ、視線じゃなくて警戒だろこれは」
確かに、男子だけで歩いてたら目立つ。でも、今日は一般公開日だ。堂々としていればいい、はず。
と、自分に言い聞かせたそのときだった。
「文化部の展示は、東館の──あれ?」
声がした方向を振り返る。
制服姿で立っていたのは──間違いなく、椎名瑠璃だった。
彼女は一瞬こちらを見て、わずかに驚いたような表情を浮かべた。
けれど、すぐに隣の女子生徒に話しかけられ、足早に別の方向へ歩いていく。
「……今のって、椎名さん……だよな?」
「ま、まさか……! 本当にいたのか……!?」
隣で陽翔が息を呑む。オレも言葉を失っていた。
声をかけようと思えば、きっとできた。だけど、あの一瞬でそんな勇気が出るはずもなくて。
その背中が人混みにまぎれて見えなくなるまで、オレはただ立ち尽くしていた。
《遭遇率:0.47%。低確率の再会イベント、発生しました》
「お、おお……おぉぉ……!」
心の中でガッツポーズを決めてるオレに、AICOが冷静に続ける。
《接触ミッション、条件達成》
《次回、ターゲットとのファースト・コンタクトを実施予定です》
「って、ターゲットって言い方やめろ!」
《では、“彼女”で補正します》
「なんかそれもそれで気恥ずかしいんだけど……!」
気恥ずかしさと、妙な高揚感と、逃したことへの後悔と。
いろんな気持ちがごちゃ混ぜになっていたオレに、AICOが次なる課題を突きつけてきた。
《再会フラグ、成立。接触条件クリア。次のステップは──“会話”です》
「うぅ……高ぇなハードル……」
《ですが、これは“初回対話ミッション”です。補助支援モードを解放します》
「補助支援モード……って、どうすんのさ?」
《会話中、必要に応じて“イヤホン越し台詞送信モード”を起動します》
「なんか戦隊ロボみたいなネーミングだけど……頼もしいな、AICO」
《任せてください。心のナビゲーションは得意分野です》
なんだそれ。
でも──もしまた彼女に会えたら。今度こそ、ちゃんと話してみたい。
そんなことを思いながら、オレは校内マップを見上げた。
椎名さん…どこにいるんだろ?
AICO《次回、「図書室、会話は突然に」》
湊「って、次回予告さらっと挟むなよ!? ていうか、それ……」
AICO《ええ、“ガン〇ム”ではありません。偶然の一致です》
湊「いやパク……インスパイアって言っとけよ!」
AICO《サービス、サービス♪》
湊「そっちはエ〇ァじゃねぇか!!」
第三話、お読み頂きありがとうございます。
AIに恋する小説は見たことあったのですが、恋愛をサポートするAIは見たことないなぁと思い書いたのが始まりでした。
もっとストック作ってから投稿すれば良かったと思っています泣
このお話が**ちょっとでも面白い!**と思っていただけたら、
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ではまた次話でお会いできることを祈ってます。