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男子校、恋愛未履修、恋の先生はAIです。  作者: なぐもん
第4章 好きを伝えるには、まだ怖くて
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第二十八話 運命の相手

──“恋の最適化”第2段階、開始。


 


パネルディスカッションが終わっても、会場の熱気はしばらく冷めなかった。


 


「……尊い……」「恋したい……」


 


誰かがつぶやいたその一言に、なぜかみんながうなずいて、最後は拍手で締めくくられるという──妙にエモい終わり方だった。


 


壇上から降りるとき、椎名さんがオレのほうを一瞬だけ見て、そっと微笑んだ。


 


──あんな表情、初めて見たかもしれない。


 


そんな余韻に浸っていたのも束の間。

ステージ脇のモニターがぱっと明るくなり、音楽とともにアナウンスが流れ出す。


 


『第二部──お菓子作り実習を開始します。参加者の皆さんは、順次作業台へ移動してください』


 


会場にざわめきが広がる。


 


「来たか……お菓子作り」

「ペア……誰と組むんだ?」


 


そう。今日のプログラムの一つ、“男女混合ペアによるお菓子作り実習”。

テーマは「甘さの定義と表現に関する文化的考察」とかいう、やたら堅苦しいものだったけど──


 


生徒たちの関心はそこじゃない。誰とペアになるか。それだけだ。


 


しかも、当日までその決定方法はずっと伏せられていた。


 


──でも、俺は知っていた。


 


というより、さっきAICOに聞かされた。


 


《今回のペア決定は、私が開発した“相性マッチングシステム”によって行われます》


 


「はあ!? それって、ちゃんと公式に発表されてた!?」


 


《いいえ。システム導入の提案は、架空のベンチャー企業名義でプレゼンを行い、如月贈菓祭実行委員会および校長、生徒会へ提出済みです》


 


「勝手にそんなことを……!」


 


《恋の創造が、私の設計モデルです》


 


AICOは当然のように言い放つ。


 


《提案書のタイトルは『異文化交流促進に向けたAI主導型マッチング抽選法』──フォーマットはPDF。統計と心理学理論を基にしたロジック構成。完璧です》


 


「お前、もう世界の裏で糸引いてるだろ……」


 


そんな会話を思い出していたとき、壇上のスクリーンに大きく文字が表示された。


 


『本日のペア抽選は、AIによる“相性マッチング”に基づいて実施されます』


 


……もう、止められない。


 


「マジかよ」

「運命の相手来い!」

「面白そうじゃん!」


 


観客席からはざわめきと期待の声が飛び交う。


 


AICOが行ったのは、事前アンケートの統合分析。

得意教科、趣味、休日の過ごし方、好きなスイーツ──


 


準備期間中に集めた「無害そうな質問」が、すべてこのマッチングのために使われていた。


 


《公平性と偶然性の両立を実現する、“運命の最適化”です》


 


……マジで、そのうち婚活アプリとか作り出しそうだ。


 


「いよいよ発表か……!」


 


陽翔はニヤニヤ顔で身を乗り出し、純はガチガチに緊張している。


 


そして──抽選が始まった。


 


スクリーンに、次々と男女のペアが映し出されていく。


 


◇ ◇ ◇ 


 


『No.37 佐倉湊 × 椎名瑠璃』


 


その名前を見た瞬間、息が止まった。


 


……え?


 


恐る恐る椎名さんを見ると、彼女はほんの少しだけ、微笑んでいた。

でも、その瞳の奥に、どこか迷いのような揺らぎも見えた気がした。


 


俺は思わず立ち上がりかけたが、陽翔に肩を掴まれて止められる。


 


「湊……お前、やったな……! マジでラノベの主人公かよ……!」


 


「ちょ、ちが、これは──!」


 


「おめでとう! 運命なんだよ!!」


 


純は素直に祝ってくれているっぽい。


 


大画面では、他のペアの発表も続いていた。


 



 


『No.46 藤堂陽翔 × 橘あかり』


 


「お、俺か! 橘あかり……って誰だ?」


 


陽翔が周囲をきょろきょろと見回す。

俺は、記憶を頼りに答えた。


 


「たしか、椎名さんの親友らしい。前に名前だけ聞いたことある」


 


「え、マジ!? 椎名さんの!?」


 


陽翔は急に背筋を伸ばす。


 


そのとき、笑顔の女子が近づいてきた。

肩までのロブヘア。明るく柔らかな雰囲気をまとった子だ。


 


「藤堂くんだよね? よろしく」


 


「あ、うん! 俺、陽翔! よろしく!」


 


「私は橘あかり。──椎名瑠璃の、友達だよ」


 


《“恋の応援団”としてマッチングしました》


 


AICOの解説が流れる。


 


「マジかよ! AICOちゃん、俺たちの友情を見抜いたか!」


 


「まだ出会って十秒だってば」


 


あかりがくすっと笑って肩をすくめた。

たしかに、見ていて相性は悪くなさそうだ。


 



 


『No.184 大河原要 × 佐倉美優』


 


表示された瞬間、要が何かを決意した顔で言った。


 


「湊……いや、“兄さん”って呼んでもいいか?」


 


「は? 何言ってんだ! やめろ気持ち悪い!」


 


そこに現れた美優が、冷たくピシャリ。


 


「キモい。絶対イヤ」


 


「くっ……! いつか認めさせてみせる!」


 


「思ったこと全部口に出すな。脳にフィルターつけてから喋れ」


 


……要は完全に美優に主導権を握られたようだ。


 


《“鋼メンタル×鋼ツッコミ”──化学反応に期待です》


 



 


『No.250 三枝純 × 桐島ひなこ』


 


純は、赤いを通り越して、茹でダコみたいになっていた。


 


「……き、桐島……ひなこさん……」


 


その名を呼ぶと、彼女は元気よく振り返る。


 


「んー? あんたが三枝くん? よっぴー!」


 


ピースを決めながら笑顔で近づいてくるその子は──想像の三倍ギャルだった。


 


でも、どこか無邪気で、人懐っこい笑顔。


 


「や、あの、ぼ、ぼく、よ、よろしくおねがい──」


 


どさっ。


 


純がその場にへたり込んだ。


 


「じゅ、純!? しっかりしろ!」


 


陽翔が慌てて駆け寄る。


 


「やば、うちのオーラ強すぎた!? ごめんね! 苦手なら全部うちがやったげるよ?」


 


ギャルなのに、やたら優しい。


 


《三枝純 × 桐島ひなこ──感性適合度:98.7%》


 


「え、高っ!」「ガチで運命じゃん!?」


 


俺も思わず口にする。


 


「……このふたり、まさか一番の当たりペアか……?」


 


《はい。協調性と感受性において、“恋の最適解”です》


 


AICOの声が、どこか誇らしげだった。


 


◇ ◇ ◇ 


 

俺はあらためてスクリーンに表示されている自分と椎名さんの名前を見る。



 


《佐倉湊 × 椎名瑠璃──“最重要ペアリング”、完了しました》


 


「……何が“最重要”だよ……」


 


でも、ほんの少し、嬉しかった。

少しだけ、期待してたのかもしれない。


 


それが伝わったのか──椎名さんが作業台にやってくる。


 


「……よろしくね、湊くん」


 


いつもより、少しだけ柔らかい声だった。


 


「……あ、はい。こちらこそ、よろしく」


 


──そして、実習が始まる。


 


材料が並ぶテーブル、手袋、エプロン。

すべてが整っていて、あとは“ふたりで”作るだけ。


 


《相性観測モード・Ver.ラブスイート、起動──“恋の甘さ”、定義中……》


 


《──恋の最適化、第2段階に突入します》


 


AICOの声が、どこか楽しげに響いた。


 


俺の鼓動は、さっきより少しだけ早くなっていた。


【大河原要】

……え、俺が後書き!?

いや、ちょ、心の準備が──


えっと、どーも大河原要です。今回はその、なんか……妹(違う)とペアになりました。

そして人生で初めて、「キモい」と真正面から言われた気がします。ありがとう。心が強くなりました。


湊のやつはさー……なんだよ、“椎名さんと最重要ペアリング”って。もう主人公すぎて笑えねえわ。

まあ、これからは俺にも“運命の最適化”が起きる予定だから!な?AICOちゃん?


次回もお楽しみに!湊、失敗すんなよ。俺の推しカプなんだからな!!

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