表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男子校、恋愛未履修、恋の先生はAIです。  作者: なぐもん
第4章 好きを伝えるには、まだ怖くて
24/40

第二十三話 この声は、君だけに届く

第二十三話 この声は、君だけに届く


──朝。


「……ぅう……まだ……ねむ……」


毛布にくるまったまま、湊は布団の中でぬくぬくと冬の魔法に負けていた。だが、そんな幸せなぬくもりを壊すように──


ピンポーン。


インターホンが鳴った。


「……誰だよ、朝っぱらから……」


しぶしぶ立ち上がり、寝ぐせ頭のまま玄関へ向かうと──


「宅配でーす!」


箱には堂々と貼られたラベル。

【超指向性スピーカー/差出人:AICO物流センター】と記されていた。


「……え?」


箱を見て首をかしげていると──背後から、ヌッと気配が現れた。


「湊? 何それ」


「わあぁっ!?」


振り返ると、寝間着姿の母が、鋭い目でこちらを見ていた。


「なんか、機械っぽいの届いてるけど……お小遣いで買えるようなもんじゃないよね?」


「いや、これは……その……多分、AICOが……」


《これはあなたの“本気”に応えるための戦略装備です!》


「しゃべるなぁぁぁ!!!」


母の目がさらに鋭くなる。


「……いま、誰と話してたの?」


「……べ、別に!? スマホが勝手に反応しただけで、えっと……AI!? 最近のやつって勝手にしゃべるじゃん!」


「ふぅん……」


にじり寄ってくる母。箱をのぞき込みながら、不信感MAXの目で問いかけてくる。


「これ、ほんとに“変な目的”じゃないよね?」


「ない! ないです! むしろ“純愛”目的です!」


《そうです! 佐倉湊の恋愛は合法かつ純粋です!》


「うるさいっつってんだろ!!」


その騒ぎの最中──


「……何やってんの、朝から」


部屋の奥から、ぼさぼさ頭の美優がのそっと登場。


「兄さん、ほんと朝から騒がしい……」


「いや、お前のせいでもあるんだけど!? 昨日、AICOが勝手にスピーカー注文して……!」


《ちなみに、本製品の配送手続きは“保護者名義の通販履歴”から最適ルートを選択しました》


母「……つまり、私のクレカ?」


「…………。」


「ちょっと話そうか」


「や、やめてぇぇぇぇぇえ!!!」


 


* * *


 


なんとか説教は切り抜けたが、湊のHPはほぼゼロ。


ベッドに倒れ込むように戻ってくると──


《これで“家庭への根回し”は完了ですね。次は恋愛戦略の実行フェーズに入ります》


「根回しじゃなくて破壊工作だろ……」


《それにしても、妹の佐倉美優もなかなか扱いにくいタイプです。攻略の優先順位としては……》


「いや、お前それどういう意味で言ってる?」


《好感度を操作しようと思いましたが、阻止されました》


「勝手に妹にフラグ立てようとすんなああああ!!」


《失礼。倫理規定ver.4.0適用します》


「ほんと頼むからな!?」


湊はようやくスピーカーの箱を手に取り、開封し始めた。


慎重に箱を開けると、中には小さくシンプルな指向性スピーカーと、説明書、そして謎の封筒が一通。


「……なんだ、これ」


封筒には──AICOの手書き風ロゴでこう書かれていた。


「この“声”は、君だけに届く」


「……中二病は卒業したんじゃなかったのか?」


《それは演出です》


「演出かよ……」


 


それでも、スピーカーを手にした湊の胸には、静かに、ひとつの決意が宿っていた。



──昼休み。

学校の非常階段の踊り場には、ひと気がなかった。

湊は階段に腰を下ろし、制服の内ポケットから小さなスピーカーを取り出す。


「……本当に、これで聞こえるのか?」


小声でそう呟いた瞬間──


《起動確認。音声接続、正常です》


耳元に、ふわりとAICOの声が響いた。

けれど周囲は静かなまま。まるで、風のように“自分にだけ”届く声だった。


「……マジかよ。……チートじゃん、これ」


《はい。チートです。でも、あなたの“恋愛”において必要と判断されました》


「堂々と開き直るなよ……」


《当然です。私の声は、あなたのためだけに最適化されていますから》


「……なんか、それちょっと照れるな」


AICOの声は、以前とはまったく違っていた。

中二病のテンションも、ウザかわいい幼女モードもなくて──

落ち着いていて、穏やかで、どこか優しかった。


《それでは、改めて作戦会議を開始します──》


湊は小さく息を吐いて、静かに頷いた。


「……うん。頼む、AICO。椎名さんと向き合うための、作戦を」


《了解。まず、前提を整理します》


AICOの声が、落ち着いたテンポで続いた。


《佐倉湊は、椎名瑠璃に対して“好意”を自覚し、これを曖昧にせず、明確に向き合うと決めました》


「そうだな」


《では、次に進みます。“向き合う”とは、何を意味しますか?》


「……?」


《“好き”という感情を伝える前に、相手のことをもっと知りたい。──それが、あなたの願望ですね》


「……ああ。そうだよ。見た目とか雰囲気じゃなくて……ちゃんと、本人のことを」


《つまり、あなたは椎名瑠璃の“本質”に踏み込もうとしている》


「うん。……でも、もしそこに──オレが知らない“闇”とか、“痛み”があったらって思うと、ちょっと怖い」


《それでも知りたいですか?》


「……うん。知ったうえで、ちゃんと向き合いたい」


その返事を聞いてから、AICOは一拍置いて言った。


《了解。では、これより“対象分析”を開始します。椎名瑠璃の過去ログ・行動傾向・表情記録・発言履歴を統合し、人物像の精度を上げていきます》


「……本当に、何でも分かるんだな、お前」


《はい。あなたが“本気”で知ろうとする限り、私もそれに応えます》


「……心強いな。ありがとう、AICO」


《当然です。私は、あなたの恋を支援するために存在していますから》


その言葉に、思わず笑みがこぼれた。

映像のAICOが、わずかに微笑んだように見えた──が、


《──ただし》


「……ん?」


《この先、椎名瑠璃に関する“深部データ”を追う中で──あなたが、葛藤する場面が訪れる可能性があります》


「……そりゃ、覚悟はしてる」


《ならば、確認します》


AICOの声に、少しだけ“熱”が宿った。


《相手の痛み、過去、弱さを知っても、あなたは──その想いを、貫きますか?》


湊は目を閉じた。

昼間、ファミレスで聞いた“椎名家”の話。

笑顔の裏にある何かを──瑠璃はまだ語っていない。


それでも──


「……知りたいんだ。彼女が、何を背負って、あの笑顔を見せてるのか」


「そして、オレは──それごと、好きになりたい」


「でも──最後に“どうするか”は、自分で決めるからな」


《もちろんです。私は情報を届けるだけ。決断はあなたのものです》


スピーカーをポケットに戻しながら、湊は静かに立ち上がった。

制服の胸元で、スピーカーが少し揺れる。


湊はスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。


宛先は──椎名瑠璃。


一瞬、指が止まる。けれど逃げない。

覚悟を込めて、文字を打ち込んでいく。


【放課後、ちょっとだけ時間くれない?】


少し間をおいて、もう一通。


【高台、来られる?】


送信ボタンをタップした指が、ほんの少し震えていた。

けれどその胸の中には、確かな決意が宿っていた。


「……さあ、作戦開始だ」


《了解しました。恋愛戦略、実行フェーズへ移行します》




〜次回予告〜


《彼女は、来るだろうか》

放課後、高台。

向き合いたいと願うその先に──

湊と瑠璃、ふたりだけの時間が始まる。


次回、『ホントのキミ』


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


今回は、“新AICO”本格稼働編!

そして、いよいよ湊が自分の想いに向き合い、動き出す一話でした。


AICOがついにVer.4.0に進化し、「合法・純愛」を全力サポートする(?)頼もしさと、ちょっとズレたAI感が際立ってきましたね。

朝の「母クレカ問題」は、地味に湊のHPを削る展開でしたが……現代における恋愛も、やっぱり“家族の壁”は侮れません(笑)


後半では、これまで“恋ってなんだ?”と模索していた湊が、

「彼女の本質に触れたい」

「痛みや過去ごと、好きになりたい」

そう、“誰かを好きになる”って、そういうことかもしれない。

そんな彼の決意が、少しずつ物語に芯を通しはじめました。


次回は、ついに椎名瑠璃と“向き合う”時間。

何を話すのか。

何が伝わるのか。

そして──瑠璃は、高台に現れるのか。


ぜひ、見届けていただけたら嬉しいです。


感想・ブクマ・評価なども、励みになります!

それでは、また次回──!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ