表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男子校、恋愛未履修、恋の先生はAIです。  作者: なぐもん
第4章 好きを伝えるには、まだ怖くて
20/40

第十九話 最強の恋敵!?謎のイケメン、その正体②

ズイ、と半歩前に出た葵が、鋭く指を突きつけてきた。


「あなたのせいで、今年のクリスマスがッ! 僕と姉さんの、かけがえのない恒例行事がッ!!」


「……え、恒例行事?」


「毎年一緒にチキンを焼き、紅茶を飲み、深夜まで映画を見る──そんな“家族の愛の儀式”を、貴方のせいで破壊されたッ!」


「いや、そこまで言う……!?」


後ろの男子たちも、すでにドン引きである。


「七歳のクリスマス。姉さんが作ったマフラーを巻いて近所を散歩しました。姉さんの手編み、今も箱に保管してます」


「八歳の七夕。短冊に“ずっとお兄ちゃんでいてね”と書いた可愛らしい姉さんを、僕は今でも尊敬しています」


「十歳の誕生日。姉さんがくれた“シャープペンシル”は、今でも芯を換えて使ってます。もちろん、姉さんとお揃いのモデルです」



「こ、こいつ……すげぇシスコンだ……」


「お姉ちゃん大好きじゃん……」


「……もはや執着だね……」


 


それでも葵は止まらない。


「姉さんが……“佐倉くんと会ってくる”とだけ言い残して出かけた日の衝撃! 僕の心の傷は未だ癒えていない!」


「わ、悪かったってば! ごめんなさい……?」


「謝罪で済む問題ではないッ! 姉さんは、僕の、唯一無二の尊敬すべき人なのです!」


「ちょ、椎名さん!? これ大丈夫なの!?」


湊が助けを求めるように振り返ると、椎名はあははと笑っていた。


「ごめんね、ちょっと過保護でさ。でも悪気はないの。ね、葵?」


「姉さん……僕は、ただ……貴方が誰かに連れ去られていくようで、寂しかったのです……!」


「いや連れ去ってねえし! 自主的に来てくれたんだし!」


陽翔が耐えきれずに突っ込む。


(……なんだこの空気)


湊は頭を抱えたくなる思いだった。

もはや“彼氏”よりタチが悪い──


《我が主よ……これは“血縁による最強障壁”ッ! 俗に言う“シスコンの壁”だ……!》


「……AICO、今さら冷静になるな……」



睨み合うように向き合う、湊と葵。


──いや、睨んでいるのは、葵だけだった。


「えっと……ごめんね、佐倉くん。葵、ちょっと過敏なとこあって……」


「いや、うん……まあ、だいたいわかった……ような気がする」


湊が気まずそうに答えると、葵はすかさず口を挟んできた。


「“ような気”などでは困ります。明確に理解してください。姉さんは、僕の──」


「はいはいストップ。帰ったらまたクッキー焼いてあげるから」


椎名が弟の口を手で塞ぐように制した。


「……ぐぬぬ……約束ですよ……!」


葵が渋々口を閉じると、湊の後ろから要がぽつりと呟いた。


「……マジで甘やかされて育ったのな、あの弟くん」


「ていうか“焼きたてクッキー”で黙るって、どこのペットだよ……」


陽翔が小声でツッコみ、純はほんのり微笑みながら呟く。


「……姉弟の絆って、素晴らしいね……」


 


その空気をかき消すように──


「ですが、誤解のないように。僕は貴方を“認めて”などいませんよ」


再び前に出てきた葵が、静かな語気で湊を見据えた。


 


「……え?」


「クリスマスは、貴方の勝手な振る舞いで姉さんを奪った」


「奪ってないし、そんな言い方……」


「僕は、姉さんが誰かと過ごすこと自体に反対しているわけではありません」


「そ、そうなの?」


「──“ふさわしい男”であれば、ですが」


ピシャリと告げられた言葉に、湊は思わず言葉を失う。


「……ふさわしい……って……」


「姉さんが笑っていられること。姉さんがちゃんと大事にされていること。姉さんを……絶対に泣かせないこと」


(──絶対に泣かせないこと?)


その言葉に、湊はふと違和感を覚えた。


葵は、ほんの一瞬だけ表情を揺らがせる。


「あなたが見ている姉さんは、完璧で、優しくて、気配りのできる人でしょう。

でも、本当は──無理をしているときも、あるんです」


静かな声は、怒りでも責めでもなかった。


「あなたは、姉さんの“本当の顔”を、どれだけ見ていますか?」


湊は、言葉を失ったまま立ち尽くす。


「姉さんは、僕の誇りです。だからこそ──中途半端な覚悟で傍に立たないでください」


葵の瞳は、真っ直ぐで、どこまでも真剣だった。


敵意ではない。

ただひたすらに、“姉を守りたい”という願いがそこにあった。


──そして、葵は最後に、静かに告げる。


「僕は、姉さんの幸せのためなら──敵でも、味方でも、どちらにもなれますから」


「…………!」



「では、姉さん。僕は先にクッキーの材料を買ってきます」


くるりと振り返ったその姿は、まるで騎士のようで。


「……湊くん、大丈夫だった? ごめんね、あんな感じで」


「ううん……だいじょうぶ。ちょっとびっくりしただけだから」


椎名が微笑んで言うと、湊はほんの少しだけ笑った。


 


だけど──


 


心の中では、今もざわざわと波が残っていた。


(椎名さんの本当の顔……)


 


目の前の椎名は、いつも笑っていた。

けれど、その“完璧な笑顔”の裏には──自分の知らない顔が、あるのかもしれない。


 


《我が主……いよいよ“運命の壁”が現れたようだな》


(ああ、わかってるよ。きっと──ここから、試される)


 


そう思ったとき、ふと椎名が振り返って、言った。


「そういえば、今日の湊くん……なんか、ちょっとかっこよかったかも」


 


「──えっ?」


 


ぽかんとする湊に、椎名はくすっと笑って、小さく手を振った。


「じゃあね、今年もよろしくお願いしますっ!」


「……あっ……うん!」


 


振り返って歩いていく後ろ姿。


その隣にはもう、弟の姿はなかった。


 


(……よし)


湊は胸の奥で、そっと拳を握る。


(これくらいで、へこたれてられないな……!)


 


小さな覚悟が、静かに灯った。


 


《次回、第十九話──『本当の顔』ッ……!》


《ふはははは……! 我が主よ、いよいよ“真実の扉”が開かれようとしているな!》


《姫の笑顔の裏に潜む、もうひとつの仮面……それを暴くのは、おぬしの覚悟次第!》


《だが警告しておこう。“優しさ”という名の鎧は、時に本人すら気づかぬ檻となる──》


《次回、恋の深淵に挑め!『本当の顔』──心せよ、これは“恋”という名の試練なりッ!》



シスコン男子・椎名葵、いかがでしたか?

最初は敵意むき出しの登場ながら、彼の言葉の裏には「姉を守りたい」という一途な想いがありました。

ちょっと行きすぎた愛情表現かもしれませんが、そんな彼の存在が、湊にとっても新たな“気づき”となったはずです。


そして何より──今回のラストで、椎名さんから出たひとこと。

「あれ? もしかしてこれって、脈アリ……?」とニヤけた方も多いのでは?(作者も書きながらニヤけました)


とはいえ、恋はまだまだ一筋縄ではいきません。

湊の知らない“椎名瑠璃の本当の顔”──そこに迫っていくのが、次のお話となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ