第二話「AIの初仕事、ツッコミが追いつかない件」
《判定:あなたは、“モブ属性”です。》
スマホに言われた侮辱に、オレは咄嗟にツッコんだ。
「いきなり人格否定!? ってか、モブってなんだよ!」
画面に浮かぶのは、黒背景に白文字だけのシンプルなUI。
今どきのアプリとは思えないほど地味なデザインだが、音声だけはやけにハッキリしてる。
《訂正します。“モブ”は、一般的な男子高校生を指す比喩表現です。特に目立った特徴がなく、異性との交流スキルも希薄──》
「説明すんな! 心がえぐれるだろ!」
どうやらコイツが、“恋愛補助型AI・AICO”らしい。
AIらしく丁寧な敬語で喋るくせに、ちょいちょい人を煽ってくる。クセがすごい。
《相談内容をどうぞ。恋愛対象の情報を教えてください》
「え、あ、いや……まだ名前も知らなくて」
オレは文化祭で出会った、あの“美術館から抜け出してきた子”のことを話し始めた。
制服の特徴。真っ直ぐな黒髪。生徒会長らしいってこと。方向音痴で──って、あれ?
《その情報から該当人物を推定します》
「え、無理だろ。そんなざっくりした話で──」
【解析中】
SNS認証……完了
校内文化祭映像ログ……同期中
GPSデータ照合……許可取得済み
「え、ちょ、待って。GPSって何!? 許可って誰の!?」
《問題ありません。すべて利用規約に同意済みです》
「オレ、読んでねぇよそんなの!」
AICOの処理速度は異常だった。
ものの十数秒で、スマホの画面に名前が表示される。
【該当候補】
名門私立・椿ヶ丘女子学院 生徒会長:椎名 瑠璃
「……マジで出た!?」
声が裏返った。いやいやいや、まさか、ホントに出るなんて。
《椎名瑠璃さんは、文化祭視察のために男子校を訪問。方向音痴のため指定ルートを逸脱し、渡り廊下であなたと邂逅したと記録されています》
「待って待って、“邂逅”とか言い出したぞこのAI」
《恋愛は偶然の出会いから始まります。あなたの好感度スコア:2/100です》
「低ッ!!」
《目標:再会による好感度上昇。初期ミッションを提案します》
【ミッション01】偶然の再会を演出せよ
【推奨行動】椿ヶ丘女子学院の文化部合同展(一般公開日)へ潜入
【準備項目】・制服外出対応 ・女子校エリアマップ
「いや、潜入って言い方すんな! なんか犯罪っぽいだろ!」
正気かこのアプリ。いや、正気じゃないからAIなのか。
すると突然、音声のトーンがガラッと変わった。
《ってワケで、行ってみよ~ぜ★ 恋はガツンと体当たりっしょ~?》
「……誰だお前」
《人格更新中……失礼しました。機械学習の一環でテンションに変化が起きる場合があります》
「テンションバグってんじゃねぇよ!」
オレはため息をついてスマホを置いた。
AIにツッコんでばかりで疲れる。でも、椎名瑠璃って名前がわかった。それだけでも一歩前進だ。
「もう一度、話したい。ちゃんと、今度こそ……」
願いってのは、口にすると少しだけ現実味を帯びる。
次に会える可能性があるなら、もう何だってやってやる。
「AICO、次のステップは?」
画面の奥から、AICOの淡々とした声が返ってきた。
《はい。次のミッションは──“運命的な偶然”の設計です》
そして、間を置かずこう付け加えた。
《なお、成功確率は……2.3%です》
「またかよ!」
◇ ◇ ◇
【次回予告】
《接触ミッション開始──AICOの導きで、男子高校生は女子校の迷路に挑む!?》
「次の話のタイトルコールまでしてくれるのね……」
《ログ完了。第二話までの読了を感知しました。》
《ユーザーの関心、ならびに時間資源の消費に対し──感謝を表明します。》
《本ユニット“恋愛支援AI AICO Ver.1.0”は、対象ユーザー:佐倉湊の恋愛行動を補助中です。》
《今回の主なアップデート内容:恋愛基礎知識の初期導入/感情観測モードの一部稼働》
《なお、次回:対象ユーザーが“女子校エリア”に侵入予定──想定外事象の発生確率、72%。》
《読了後の評価行動──“ブックマーク”および“★による評価”は、作品継続の重要因子となります。》
《ご協力、お願いします。》
《次回も、最適な恋愛データの獲得を目指し、継続的に観測を実行します。》
《──End of Log》