第十八話 最強の恋敵!?謎のイケメン、その正体①
(……あの人、誰なんだろう)
振袖姿の椎名と並んで歩く、あの高身長のイケメン。
肩に手を添えるほど親密そうな距離感に、湊の頭は未だ混乱から抜け出せずにいた。
「……なあ湊。さっきから固まりすぎじゃね?」
隣で、要が眉をひそめて覗き込む。
「まさかとは思うけど──今のって椎名さんじゃないよな?」
「いや、本人だったと思う……」
ようやく口にした言葉も、どこか上の空だった。
「おいおい、あの男、マジで彼氏だったりしてな……って、湊!? 顔色やっば!」
「落ち着いて……! 佐倉くん……しっかりして……!」
陽翔と純が慌てて肩を支えるが、湊の目は遠くをさまよったままだ。
──そして、その瞬間。
《……我が主よ。》
頭の中に響いたのは、やけに落ち着いたAICOの声だった。
《状況は理解した。あの者──高身長、整った顔立ち、姫の隣に立つという事実……これは、明らかに“恋の障壁”の気配……!》
「……やっぱ、ライバルか?」
《ぬぅううう……! このタイミングで登場とは、物語的に強すぎるではないかァァァッ!》
「なんか、テンション上がってきたなコイツ……」
《仮説①──イケメン彼氏。仮説②──いとこのお兄さん。仮説③──実はAIの実体化。……どれも一長一短……!!》
「最後、絶対ちがう」
「っていうか湊、どうすんの? このまま黙って帰るとかナシだぞ?」
「……うん。……行く」
湊はゆっくりと足を前に出した。
「直接聞くしかない……あれが誰なのか。椎名さんが、誰と一緒にいるのか」
「よっしゃあ! 主人公ムーブ、キターーー!」
陽翔が無駄に盛り上がり、要がニヤニヤと湊の背中を叩く。
「マジで突撃すんのかよ……正月早々、修羅場だったらどうすんだ……?」
「がんばって……! ぼく、応援するよ……!」
《ゆけ、我が主よ! その目で真実を確かめるのだ──“恋の真偽”を暴くのは、勇者だけッ!》
湊は唇を引き結び、鳥居の奥へと進んでいく。
振袖姿の椎名瑠璃と、隣を歩くイケメン。その背中を、真っ直ぐに──。
勇気を振りしぼって、湊は一歩一歩その背中に近づいていった。
背中を押してくれるかのように、後ろには陽翔、要、純の姿もある。
「……椎名さん!」
呼びかけると、椎名がぱっと振り向いた。
「あっ、佐倉くん! 明けましておめでとう!こんなところで偶然だね!」
明るい声が返ってくる。
そして、その隣の男子が、静かに湊を見やった。
──視線が交差する。
途端に、湊の背筋に冷たいものが走った。
(……え?)
ファッション雑誌で見るような整った顔立ち。
だが、何より印象的だったのは──その瞳に宿る、露骨すぎる敵意。
「え、えっと……その、隣の人は……?」
湊が言い淀むと、椎名はにこっと笑って答えた。
「この子? 弟の葵だよ。中学三年生なの」
「中三……!?」
後ろの三人から、そろって驚愕の声が上がった。
「でけえ……!」
「てか顔整いすぎて、中学生に見えねえ……!」
「……貫禄が、すごい……」
身長は180cmはあるだろう。
黒髪はさらりと整い、着ている黒いチェスターコートまで様になっている。
何より──その整いすぎた顔で、睨むように湊を見ていた。
「──あなたが、佐倉湊さんですね?」
「……あ、はい。そうですけど……」
その瞬間だった。
「姉さんをたぶらかしている、というのはお前か──ッ!」
続く
読んでくださりありがとうございました!
今回のエピソード、実は当初ひとつの話に収めるつもりだったのですが……
葵くんの登場と、想像以上のシスコンパワーにより、文字数がとんでもないことに(笑)!
というわけで、前後編に分割してお届けすることにしました。
振袖の椎名さんにドキドキしたかと思えば、突如現れる“最強の恋敵”。
彼氏かと思ったら、まさかの弟──しかも、タチが悪い(笑)




