第十七話 恋の好敵手!?波乱の初詣
《──貴様ァァァッ! なぜあの場面で告白しなかったのだァァァッ!?》
クリスマスデートの後──。
部屋の天井を見つめながら、布団に沈み込む湊の耳を、イヤホン越しの怒号が打ち抜いた。
「……AICO、うるさい」
《うるさいではないッ! あの雪のタイミングは、まさしく天啓──奇跡の演出であったのだぞ!?》
「……わかってるよ。自分でもさ。あの瞬間、言えたらよかったって思った」
言い訳のように息をつきながら、湊はぽつりと続けた。
「でもさ……あのときの椎名さん、すごく無邪気に笑っててさ。あの顔、崩したくなかったんだよ……」
《……ふむ。感情的判断にしては、理性の入り混じった判断だな。少し見直したぞ》
「おまえ、さっきまであんなにキレてたくせに……」
《ふっ。だがな、我が主よ──“恋愛戦線”は持久戦ッ! 焦ることなかれ。告白とは、タイミングを制した者のみが勝利を掴む、究極の一手なのだ!》
いつものように大仰な言葉で、AICOは持論を展開してくる。
でも、不思議とその声は心地よくて──
「……ありがとな、AICO。いつも、助けられてばっかりでさ」
《な、なにを言うか! 我はただの支援AIにすぎぬ……!》
思わず照れて音声が途切れかけたAICOに、湊はふっと笑って、イヤホンをそっと外した。
(次こそは……ちゃんと)
小さく呟いて、湊は目を閉じた。
◇ ◇ ◇
年が明けて──。
「おっす、湊! 初夢、富士山見えたかー?」
新年早々、テンション高めで湊に絡んできたのは陽翔だった。
学校は冬休み中だけど、陽翔、要、純、そして湊の男子校メンツは、恒例の「初詣ツアー」で駅前に集合していた。
「いや……夢見た記憶がないな」
「マジかー。俺はこたつで寝落ちしてたら、富士山どころかおしるこに溺れてた夢見たわ」
「どんな夢だよ……」
「……ぼくは、お餅三枚食べたよ」
「夢関係ねえし!」
それぞれの正月を過ごした男子たちは、全員で神社へと向かう道中、まるで修学旅行のように盛り上がっていた。
「うちなんてさ、元日から姉ちゃんと福袋争奪戦だよ。もう戦場だって、あれは」
「なにそれ平和そうでいいな」
「それに比べて湊は、リア充クリスマスだったんだよな〜?」
「なっ……!」
「うわー!顔赤っ!こりゃ図星だな!」
「……や、やめろって……!」
「よし、罰として初詣で“恋愛成就”の絵馬書いてもらおーぜ!」
わいわいと騒ぎながら、男子校の新年は、にぎやかに始まっていく。
神社の境内は、冬休み最後の賑わいを見せていた。
屋台の湯気、初詣客の笑い声、時折響く拍手──そのすべてが、年明けの空気を照らしている。
「うお、こっちのたい焼きデカすぎんだろ! マジで二人分はあるだろこれ!」
口を開けながら叫んだのは、要だった。
「なんであんこって正月に食いたくなるんだろうな〜」
陽翔がその横で、ふらふらと湯気の出る屋台へ吸い寄せられる。
「……ぼくは、さっきお餅を三枚食べたので……たい焼きは、やめておきます」
「お前餅ばっか食ってね?」
「それより、先にお参り行こうぜ。せっかく来たんだしよ」
要がズンズン進みながら、境内の中心にある大きな本殿を指差す。
「──今年も、いい年になりますように」
四人並んで手を合わせる。
冬の空は澄んでいて、どこか神聖な気持ちになる。
「よし、そんじゃ縁結びの絵馬でも書くか!」
陽翔がノリノリで手を叩いた。
「えっ、絵馬? 今そこ選ぶ?」
要が軽く引きながら笑う。
「おまえ、書く気ゼロだろ……」
湊が苦笑する横で──
「……ぼくは、書きます」
純が真剣な表情で木札を手に取り、スッとペンを走らせた。
「うわ、本気だ! 本気の純くんが来た!」
「……恋が、叶いますように」
「わぁああああ! ピュアがすぎるーっ!」
笑いながらも、それぞれおみくじを引いてみる。
陽翔が引いたのは──
「キタ! 大吉!」
「おまえ、今年どんだけ運使うつもりだよ……」
「いや、初詣ってこういうもんでしょ? 一発大吉でテンション上げてこー!」
「オレは……末吉か。なんか地味だな」
湊がちょっと苦笑しながら紙を握る。
「おう、でも末吉って意外と安定志向って聞いたぜ。堅実派だな、湊は」
要が肩をバンと叩く。
「……小さな幸せを大切にって書いてありますね」
純が優しく呟くと、なんだかその通りな気がしてくる。
ワイワイと歩いていたそのときだった。
──視界の端に、見覚えのある横顔が映った。
「あれ……」
湊の足が止まる。
「ん? どした?」
「……椎名さん、だ」
境内の端──朱塗りの橋の前に、椎名瑠璃の姿があった。
白い振袖。薄紅の椿模様が肩に描かれたそれは、雪のように清らかで、柔らかい光を纏っていた。
髪をまとめて、ほんの少し大人びたその表情。
その姿は、どこか現実味を失って──まるで異世界の姫のようだった。
「うわ……ヤベ、マジで……」
「めっちゃ似合ってる……てか、今日いるって聞いてないぞ!?」
「椎名さん……綺麗ですね……」
「おいおい、隣……誰かいるぞ?」
要が低く呟いた瞬間、湊の心に冷たいものが走る。
その隣に立っていたのは──
長身の男だった。
180cm近くあるだろうか。スラリとした立ち姿に、整いすぎた顔立ち。
漆黒のコートを羽織り、椎名の肩に自然に手を添えている。
笑って、彼女の耳元に何かを囁いていた。
「……っ」
湊の喉が、音を立てるように詰まった。
「え、誰あのイケメン……」
「ていうか、距離近くね……? マジで彼氏じゃね?」
「佐倉くん……その、えっと……大丈夫?」
湊は何も答えられなかった。
ただ、視線だけが、吸い寄せられるように彼らの背中を追っていた。
椎名は、男と一緒にゆっくりと参道を歩いていく。
時折顔を見合わせて笑い合う、その光景。
(……誰だ、あの人)
(まさか……椎名さんに、好きな人──?)
(それとも……)
(俺、何にも知らないんだ)
視界が、ぐらぐらと揺れた。
《──我が主ッ!目を覚ませッ!これは試練だッ!!》
「うわっ、AICO!? いまそれどころじゃ──」
《ちがう、この雰囲気……“恋の障壁”……まさか、宿敵!?》
「やめてくれ今は本気で混乱してんだって!」
──初詣のはずだった。
──笑い合って、今年も頑張ろうって思う日だったのに。
けれど、心に灯ったのは。
疑問と、不安と、どうしようもない──焦りだった。
⸻
【次回予告】
第十八話 最強の恋敵!?謎のイケメン、その正体
突然現れた超絶美形男子──
彼の正体はまさかの!? そして明かされる“真実”とは──!
読んでいただき、ありがとうございました!
今回は男子校コメディ×初詣イベント回でしたが、いかがでしたでしょうか?
ワチャワチャした男子たちの中に突如現れる椎名さん──そして隣の謎のイケメン。湊の心が揺れるラストまで、楽しんでいただけたなら嬉しいです!
次回はその“謎の彼”の正体が明かされます。
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