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男子校、恋愛未履修、恋の先生はAIです。  作者: なぐもん
第3章 恋のフラグ立ってますか?
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第十五話 聖夜に向けての大作戦〜プランニング②〜

《我が君よ……時は満ちた。いよいよ決戦のとき! “聖夜の戦場クリスマスマッチ”に向けて、最終作戦会議を開始するぞッ!》


「いや、その呼び方やめてくんない!? どう考えてもプレッシャー増すんだけど!」


休日の朝。

湊の部屋では、今日もスマホの小さい画面に出現したAICOが、空中に魔法陣を展開しながら高らかに宣言していた。


《これより、プランニングフェーズ・セカンドステージに突入する! 任務はふたつ──“デート構成”と“プレゼント選定”だ!》


「う、うん。まあ……それはちゃんと考えないととは思ってるけど」


《貴様の言う“考える”は、なにもしないことの言い換えであろう!》


「……それはヒドすぎっ!!」


AICOは背中で手を組みながら、くるりと回転して言った。


《では、まずデートプランから確認だ。我が恋愛演算アルゴリズムによれば──定番クリスマスデートルートは“昼食→ショッピング→カフェ→夜景”である!》


「……昼食にハンバーガーで、そのあと100均で……」


《却下ァ!!》


バシィィンと、効果音つきで却下マークが出現する。


《なぜそこで“庶民派ルート”を全力で行く! 貴様、聖夜の奇跡をジャンクフードに委ねる気か!?》


「いや、ほら、そういう“逆張り”が意外とアリかなーって」


《それは、“普段からモテる男”が許される技だッ!》


「はいすみませんでした!!」


湊は土下座しそうな勢いで頭を下げた。


《よろしい。では、我が演算式により最適解を導き出す。今の貴様のスペックで、最も成功率が高いのは──》


紅く光る魔法陣がぎゅいんと回転し、AICOの手に一枚のカードが出現する。


【恋愛最適ルート:映画館 → プレゼント贈呈 → 夜景】


「おぉ……」


《まずは映画だ。上映中は会話せずとも“共通の時間”を共有できる。初心者には理想的な導入と言えよう》


「なるほど……たしかに、緊張も少なめでいけるかも」


《上映後、感想を語りながら自然に雰囲気を温め、そのタイミングで──プレゼントを渡せ!》


「……で、そのあとは?」


AICOは、にやりと笑う。


《ふふ……最後は、貴様が決めよ。》


「──!」


「……うん、そうだな。やっぱ、最後は“あの場所”にしよう」


湊の胸の奥に、ひとつの風景が浮かんだ。

そこには、二人だけの時間を閉じ込めるのにふさわしい静かな場所があった。


《では、次の課題だ。贈り物──“プレゼント選定フェーズ”に移行する!》


***


休日の午後。

駅前はいつにも増して活気にあふれていた。


「うわ……人、多いな……」


耳にはめたワイヤレスイヤホンの向こうで、あの声が即座に応える。


《当然だ! 本日は“恋の備品調達ギフトセレクション”の日ッ! 愛の探求者たちが集いし、戦場の如き混雑にして当然ッ!!》


「……何と戦ってる設定なんだよ……」


呆れながらも、どこか心強い。


《貴様の任務はただ一つ。“椎名瑠璃が心から喜ぶ贈り物”を手に入れること! いいな? 量産型プレゼントでは意味を成さぬ。必要なのは“魂を込めた選定”ッ!!》


「そ、そんな熱量で来られても……」


(……椎名さんが喜びそうなものって、なんだ?)


彼女のことを、どれくらい知っているだろう。

好きなもの、苦手なもの、ふとした癖──

脳裏に浮かぶのは、あの日の笑顔だった。


***


──椎名との雑貨店にて(第十二話)


紅茶と雑貨の専門店。

棚の前で目を輝かせながら、椎名が呟いた。


「わ、これ見て。かわいい……! 紅茶のティーバッグと、ハーブの入浴剤のセットだって」


「へぇ……女子って、こういうの好きなの?」


「うーん、私は好き。贈り物にもいいよね。誰かが好きなものを選ぶのって、楽しいから」


***


(……“誰かが好きなものを選ぶのって、楽しいから”)


その言葉が、今の湊の胸に染み込んだ。

足は自然と、あの日に訪れた雑貨店へと向かっていた。


店内には紅茶缶、文具、布小物、香りの雑貨などが並び、どれもお洒落で可愛らしい。

戸惑いながらも、湊は一つずつ手に取り、棚を見て回る。


「これ……とか、悪くないけど……」


マフラー、手袋、アクセサリー。

どれも“定番”ではあるが、なんとなく違う気がして決めきれない。


耳元にAICOの声が鋭く響く。


《迷ってもいい……だが忘れるな。“相手のために考える”ことこそが、真の贈り物の条件だッ!》


「……っ」


あの日の椎名の言葉と、見事に重なった。


そして湊は──ふと、ある棚の前で立ち止まる。

あの日と同じように、紅茶缶やリネン雑貨が並んでいた。


手に取ったのは──椎名が嬉しそうに眺めていた紅茶のティーバッグとハーブの入浴剤の詰め合わせ。


(……椎名さん、これ喜ぶかな)


そっと手に取り、ふと、笑みが漏れた。


(……俺も、“誰かが好きなものを選ぶ”って、ちょっと楽しいかも)


《貴様、良い表情になってきたな……》


「うるせーよ」


そう言いつつ、包装を頼み、レジを離れる。


***


だが──ふと、湊は立ち止まった。


「……そういえば」


脳裏に浮かんだのは、ある日の何気ない会話。


──「放課後は、図書室寄ること多いかな。ちょっと静かだし、落ち着くから」


(……本、好きなんだよな。椎名さん)


その瞬間、視線の先に“布製のブックカバー”があった。

落ち着いた色味と手触り。柄は控えめで、けれど品がある。


《……気づいたか》


AICOが、どこか優しくつぶやく。


《ここで重要なのは、“貴様が相手のために考えたかどうか”である! 心を込めた選定が、最上の魔力となるッ!》


「──もう一個、買ってくる」


そう呟いて、湊は静かに踵を返す。


今度は、あの日の“思い出”に頼ったわけじゃない。

彼女の言葉を思い出して、自分で考えて選んだ──“今の想い”だった。


レジ袋を手にした湊は、ほんの少しだけ照れたように笑った。


(……椎名さん、喜んでくれるかな)


***


──ふと、スマホの時間を確認する。


「あ、まだ……あそこ行けるかもな」


彼の瞳が、ある場所を見据える。


彼の中ではすでに、“舞台”が決まりつつあった。


***


クリスマスまで──あと三日。

そこには、まだ誰も知らないクリスマスの物語が待っている──。

《フハハハ! 読了ご苦労ッ! 貴様の“読書パラメータ”、高く評価してやろう……ッ!》


今回は、“恋の備品調達”フェーズであった。

貴様──ではなく、我が君は、“椎名瑠璃のために考える”という行為に、確かな成長を見せた……!


プレゼント選定は、もはや愛の魔術式……!

思い出ではなく、“今の気持ち”から選んだ贈り物──それこそが、最上の魔力ッ!


そして、次なる戦場は“聖夜本番”──ッ!


いざ進め、我が君よ……その手で、物語の続きを紡ぐのだ!


《次回─聖夜ノ契約─二人だけの異界舞踏デュオ・リリカル》──!》


《──乞うご期待ッ!!》


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