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第9話:憔悴するフーリンとリマイダの奇策

 ――――――――――アカデミーにて。リマイダ視点。


 大事件勃発です。

 元来身体の強くない王太子のニコラス兄様が体調を崩し、亡くなってしまいました。

 謹んで兄様の御冥福をお祈りいたします。


 ニコラス兄様とコーデリア様との間に子供はおりませんでした。

 普通ならば第二王子フーリンが新たなる王太子になるところです。

 わたしの同母弟サイモンより年上ですし、実母の身分が高いですしね。


 しかしここで宰相ウォルト様や宮廷魔道士長シドニー様など、複数の者から待ったがかかりました。

 フーリンが王族の血を引いていないのではないかという疑惑です。

 ええ? そんなことが?


 言われてみればフーリンは精悍ですし運動神経もいいですし、わたし達とあまり似ていないなあとは感じていました。

 ただ第二側妃イザベラ様もですが、母方ナップイェイツ辺境伯家の方々は大柄で身体が強うございますので、おかしいとまでは思っていなかったのです。

 皆様フーリンと同じ赤毛ですしね。


 どうも今までもフーリンが不義の子という疑惑はあったようです。

 でもニコラス兄様が王太子として健在ならば、フーリンの血統などさして問題はない。

 下手につついて、実力者であるナップイェイツ辺境伯家の不興を買うのはよろしくないという考えがあったのでしょう。

 穿り返そうとする者がいなかったみたいです。


 しかし次代の王となる身ならば当然事情は異なります。

 血統をハッキリさせることは重要ですから、フーリンの立太子には何人もから物言いがついたのでしょう。


 ナップイェイツ辺境伯家は領地が隣国との係争の地であり、また常に魔物退治に従事している関係上、鍛えられた軍隊を持っています。

 万が一反乱でも起こされたら、セルティア王国を揺るがす大変な事態になってしまうでしょう。

 困ったことになりましたね。


 疲れた様子のフーリンがこぼします。


「母が自供したんだ」

「何をですの?」

「当時母の護衛騎士だった者との不適切な関係をだ。オレはおそらくその者の子だろうと。まあ魔道検査すれば白黒つくことだが」


 最近父子関係のあるなしを明らかにする魔道検査法が発明されました。

 宮廷魔道士長シドニー様を中心とするチームがこの計画を推進し、結構なスピードで実用化にこぎつけたとは聞いています。

 でもまさかフーリンの血統に疑惑があったからだとは。


 状況を整理しましょう。

 第二側妃イザベラ様が護衛騎士と不貞関係にあったことまでは事実ですか。

 王子を生めとのプレッシャーが強かったという側面があったのでしょうね。


 現実問題としては?

 イザベラ様はもとより、その子である王子王女の権威が失墜するのはやむないこと。

 しかし……。


「イザベラ様はともかく、フーリンは全く悪くないではありませんか。我関せずで、結果だけ受け止めればよろしいのでは?」

「リマイダは神経が太いな。最近は汚物を見るような目で見られることも多い。いささか気が滅入っている」


 まあ、自信家のフーリンがこんなことを言うなんて。

 よっぽど弱っているようね。


「オレの連座の可能性も指摘されている」

「ですからフーリンに罪を問おうとするのは、法的におかしいです」

「オレは……王族の地位を捨て出奔するか、さもなくば命を絶った方がいい気がする」

「愚策ですね。フーリンとしたことがどうしてしまったのかしら?」

「希代の天才王女には名案があるのか?」

「ありますわ」

「頼む、教えてくれ!」


 フーリンが縋ってきます。

 真剣な表情は凛々しいですね。

 ああ、快感ですわ。


「まず、セルティアの王になることは諦めなさい。実際にフーリンの血統がどうであれ、疑惑の子が王では統治できないですから」

「それはもう。次の王位はサイモンのものだ」

「第二側妃イザベラ様とその王子王女、特にフーリンの扱いには、陛下や宰相閣下だって困っていると思うのよ」

「わかる。大スキャンダルだ。オレの父親が誰であろうと母の不貞の事実は消えない。が、重い罪に落とすと、母の実家ナップイェイツ辺境伯家がどう出るかわからん」


 辺境伯様は大兵力を持っていますからね。

 王国にとって怖い局面です。


「イザベラ様については側妃の座剥奪の上、王都追放処分で間違いないと思いますわ」

「つまり実質は辺境伯家に帰されるという、軽い措置だな? そこまでは納得だが、オレはどうなる?」


 一番難しい部分ですが……。


「フーリンは魔道検査で陛下の子か否かを判別しなさい。陛下の子であることが証明されたなら、イザベラ様の罪のため王太子にはなれないけれども、王子としての地位は確保できるでしょう」

「今までと変わらんということか。問題はオレが父陛下の子でないケースだが」

「わたしの婚約者になってくださらない?」

「えっ?」


 ポカーンとしていますね。

 きょうだいでないのなら、わたしの夫で構わないではないですか。


「よく考えてくださいな。フーリンは王になれないかもしれないけれど、将来の王の同母姉が配偶者ですよ? 辺境伯様は十分に配慮されていると考えるのでは?」

「ま、まあな」

「王家だって都合がいいでしょう? モブ王女を活用することによってナップイェイツ辺境伯家を宥め、繋ぎとめることができるのであれば」

「お、おう」

「わたしだって嬉しいですわ。フーリンは優秀で見目麗しい殿方ですからね」


 さて、フーリンの結論はいかがでしょう?


「……将来の王の同母姉がモブ王女ということはないのではないか?」

「そこですか。いえ、でもわたしは既にモブ根性が染みついてしまっていますので」

「オレとリマイダが婚約か。いいのか?」

「ベストだとわたしは考えますが。フーリンはどう思っていて?」

「もちろんリマイダが優秀で美しいことなんてようく知っている。が、きょうだいとして育ってきたろう?」

「きょうだいらしいふれあいなんて、少しもなかったではありませんか」


 住む場所も別でしたしね。

 話すようになったのは、それこそアカデミー入学後です。


「……考え方次第ということか」

「その通りですよ」

「うむ、どうやらベストの対応だな。リマイダよ、オレの婚約者になってくれ!」

「あら、まず魔道検査が先ですよ。その結果を見て陛下に具申することにいたしましょう。フーリンはせっかちさんなのですから」

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