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第8話:第三学年開始、サイモン入学

 ――――――――――リマイダのアカデミー入学二年後、第三側妃の離宮にて。サイモン視点。


 近頃のトピックと言えば、第一王子であるニコラス兄上が王太子になられたことですね。

 ニコラス兄上はとっくに成人していらっしゃいましたから、むしろ立太子は遅すぎたくらいだと思います。

 兄上の妃コーデリア様が妊娠されたから、ということもあったのでしょう。

 でも残念なことに、赤ちゃんは流れてしまったそうで。


 ニコラス兄上もコーデリア様も気落ちしていらっしゃいました。

 姉様が今年初めて採れたイチゴを届けていましたよ。

 元気を出してくださるとよろしいのですが。


「ほらほら、サイモン。背筋を伸ばしなさい。あなたはセルティア王国の第三王子なのですからね。モブ王女のわたしとはわけがちがうのです。王子という自覚を持ちなさい」

「はい、わかっていますよ」


 姉様の自称モブ王女は今年も健在のようです。

 姉様は母性が強いのですかね?

 きっと将来は素敵な母親になると思います。


「忘れ物はないかしら? 新入生総代挨拶の原稿は?」

「大丈夫ですよ」


 忘れ物はむしろ姉様の方が。

 あれほど記憶力がいいはずの姉様なのに、何故かダンスのステップは時々忘れるのですよね。

 興味深いものが目の前にあったりすると、我を忘れることもありますし。

 いえ、決して冗談じゃないんですよ。


「サイモンもアカデミー入学なのねえ。月日が経つのは早いものだわ」


 言うことが年寄り臭いです。

 僕は姉様の二歳下なのですから、そりゃあ今年アカデミー入学ですよ。


「わたしの背は去年からほとんど伸びていないのです」

「そうでしたか?」

「うふふ。サイモンはまだわたしより小さいですけれども、すぐわたしなど追い越してしまうのでしょうね。ちょっと寂しいわ」


 僕は姉様の身長なんか考えたことなかったです。

 でも姉様は僕の身長を気にしてくれているのだなあ。

 マリサ母様よりも。

 何だか心にじんと来るものがあります。


 小さい頃、僕を人形のように大事に扱おうとする母様があまり好きではありませんでした。

 しかし僕もこの年齢になると母様の心情がわかってきます。

 王子を生めというプレッシャーは相当なものだったのだろうなと。

 僕の小さい頃の母様の記憶というと、貼りつけたような笑顔とカラクリ仕掛けのような動作でした。

 かなり精神にダメージを受けていたのでしょうね。


 でも最近の母様は自然に笑うようになったんです。

 母様の昔を知る人からは、側妃となった以前に戻ったねと言われることもあります。

 徐々に回復してきていることは間違いないと思います。


 今では姉様の畑を手伝っていることもあるんですよ。

 姉様も喜んで専門的な説明をしたりして。

 母様も理解はしていないのでしょうけれど、うんうんと頷いていて。

 小さな幸せってこういうことかと思ったりもします。


「さあ、アカデミーに行きましょうか」

「えっ? 今日は入学式ですから、姉様はお休みでしょう?」

「サイモンの勇姿を見たいですからね。母様と保護者席にいます」

「勇姿って。姉様、王族は貴賓席ですよ」 


          ◇


 ――――――――――サイモンのアカデミー入学一ヶ月後、アカデミーにて。サイモン視点。


「あっ、サイモン殿下。姉君のリマイダ様ですよ」

「そうだね。楽しそうでよかった」


 リマイダ姉様のアカデミー内での様子はよく知らなかったのです。

 メチャクチャ目立ってる生徒ではないですか。

 肝心の姉様のモブ王女だからという態度が全然変わっていないですから、全然気付きませんでした。


「リマイダ様って成績優秀なだけでなく、特別な芸術的才能がおありなのでしょう? 王都の絵画コンクールで二年連続金賞と聞きました」

「ええと、それは……」


 姉様の絵ってあれでしょ?

 見ていると不安になるような、心のざわざわする。

 姉様は冒険心に溢れるせいか、色を混ぜたがる傾向にあるのです。

 混ぜると色が暗くなるからやめた方がいいと言ってもです。


 絵画コンクールの金賞といっても……。


『だって先生がタイトルを変えて勝手に出展したのだもの。まぐれだわ』

『でも二年連続ですよ?』

『大まぐれだわ。それよりギリギリで絵画の単位が取れたの! よかったわ!』


 ちょっと何言ってるかわからなかったですね。

 でも絵画のベイジル先生は姉様を正しく把握しているのだと思います。

 姉様に金賞を取らせて栄誉を与えながら、スコアでは最低点をつけるのですから。

 バランス感覚がすごいです。


「リマイダ様は発明もなされているんでしょう?」

「サロンの成果なのですよ」

「名高い『サイモン殿下のサロン』ですね?」


 名高いのは知らなかったです。

 議論が白熱する時もありますが、大体はゆるい雑談の集まりですよ。


「僕の名前がついているのは御愛嬌で、実質的な主催者は姉です」

「そうなのですか?」

「はい。ただセルティア王国は男子にしか王位継承権がない関係で、姉の主催では人が集まらないだろうとの判断だったのです。それで僕の名前を使うことになって」

「リマイダ様は成績がいいというだけではなくて、機転の利く方なのですね」


 機転は利くと思います。

 でもいつまでもモブ王女と言い張っているのはどうなのかと。

 アカデミーに入学して理解できましたが、姉様は誰よりも生き生きしていますよ。


「リマイダ様は美しいですし気さくでいらっしゃいますしねえ。殿下。リマイダ様の好みの男性のタイプを御存じありませんか?」

「えっ? 姉を狙っているのですか?」

「自分がというわけではないのです。兄が、ですね。できることならリマイダ様を婚約者にしたいと」


 姉様の男性のタイプですか。

 うーん……。


「……一度も聞いたことがありませんね」

「一度もですか? 珍しくないですか?」

「姉は自分の婚姻ないし婚約に夢を見ていないのだと思います。陛下が嫁げと言ったところに行くものだと考えているのでは」

「ええ? リマイダ様ほどの美しき才女がですか? 本当なら寂しいことですねえ」

 

 確かに寂しいことですね。

 僕も姉様は本当に好きな男性に嫁いで、幸せになってもらいたいものだと思います。

 でも王族では難しいような気もしますね。


 ――――――――――


 この年、セルティア王国に激震が走る。

 しかしそれをまだ、リマイダもサイモンも知る由がなかった。

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