第7話:休業期間中にピクニックへ
――――――――――王都近郊の森にて。リマイダ視点。
「リマイダ様、この茹で肉は美味しいですね」
本日はフーリン、ネオリス様、キャロライン様とともに、王都近郊の森に遊びに来ました。
楽しくお弁当の時間です。
「ありがとうございます。自慢の塩をかけてありますのよ」
「塩、ですか?」
「ふむ、かなりの混ぜ物がしてあるな。塩味は強くない」
「塩と言いますか、正確にはミックススパイスですね。乾燥ハーブや香辛料を混ぜて、茹で肉にピッタリの配合にしたものですわ」
「聞いている。リマイダが考案したものなのだろう?」
「はい」
「「えっ?」」
意外でしたか。
ミックススパイスの配合と試食の繰り返しは、不器用なわたしでもできますしね。
ナイフを使用する調理ほど周りをハラハラさせないのです。
「料理人が考案したのではなくて? リマイダ様ったら、そんなことをしているのですの?」
「リマイダは食い意地が張っているのだ」
「まあ、フーリンったら失礼ね。でも間違いではありませんわ」
「笑顔のリマイダ様は可愛らしいですな」
「ありがとう存じます、ネオリス様。フーリンも見習うといいわ」
「笑顔のリマイダは可愛らしいぞ」
「……」
本当に言うとは思いませんでした。
ちょっと恥ずかしいですわ。
話題を変えるようにネオリス様が言います。
「リマイダ嬢は魔法をお使いになるという話ですが」
「はい、基礎的な攻撃魔法や回復魔法でしたら」
「噂は聞いておりました。リマイダ様が魔道理論にお詳しいのは存じておりますが、実際に魔法までお使いになるとは。すごいですな!」
「才能がおありになるのですね」
「いえ、魔力量は大したことないのです」
魔道の才能は持ち魔力量の多寡だと思います。
わたしはちょっと突っ込んで魔法を学んだだけで、才能なんかないのですよ。
才能はフーリンの方がよほどあるでしょう。
フーリンが言います。
「そういえば、オレもリマイダの魔法は見たことがないな」
「余興に何か披露しましょうか?」
「うむ、頼む……火魔法なんか使うんじゃないぞ?」
「わかっていますとも」
熱いですし、森が火事になったら大変ですものね。
ああ、フーリンは氷を出せと言っているのですか。
素直じゃないのですから。
「アイスボール!」
「わあ、氷ですね!」
一抱えほどの氷を出しました。
いえ、私くらいの魔力しかなくても、これくらいのことはできるのですよ。
「おお、素晴らしいですね」
「冷たくていいですわ!」
「気が利くじゃないか」
「いえいえ、どういたしまして」
うふふ、フーリンはわたしに花を持たせようとしているのですかね?
モブ王女にそんなことしなくていいですのに。
「あっ、あんなところにキノコが生えていますわ」
「森には恵みが多いですよね」
いえ、残念ながら恵みではありませんでした。
「キャロライン様、これはおそらくゲラゲラワライタケですわ」
「ゲラゲラワライタケ?」
「はい。子実体の表現型は環境によって変わるので、断言はできませんけれど。時期と植生からして、まず間違いはないかと思います」
「リマイダ嬢はキノコにも詳しいのですか」
「食い意地が張っているからだ」
「ゲラゲラワライタケなんか食べませんってば!」
もう、フーリンったら!
「毒か?」
「一般には毒キノコとされていますね。でもある種の薬の成分が取れるんですよ」
「どういった?」
「とっても幸せを感じるんですって。ゲラゲラワライタケの名の由来でもありますけれど」
「ほう?」
多幸感ですか。
一度体験してみたくはありますが……。
「……わたし、食べてみますね」
「「「えっ?」」」
「大丈夫です。わたしは解毒魔法を使えますから」
――――――――――フーリン視点。
ふうん、ゲラゲラワライタケか。
しかしリマイダの知識はキノコにも及んでいるのだな。
正直尊敬する。
「毒か?」
「一般には毒キノコとされていますね。でもある種の薬の成分が取れるんですよ」
「どういった?」
「とっても幸せを感じるんですって。ゲラゲラワライタケの名の由来でもありますけれど」
「ほう?」
薬と毒が紙一重とはよく言ったものだ。
ん? リマイダどうした?
「……わたし、食べてみますね」
「「「えっ?」」」
「大丈夫です。わたしは解毒魔法を使えますから」
ええ?
毒キノコとわかってて食べようとするってどんなだ。
いや、こうしたところがリマイダの特異性なのかもなあ。
「……解毒魔法があれば問題ないんだな?」
「慢性中毒に解毒魔法は効果がないって言われているんですよ。キノコによる急性症状でしたら大丈夫です。バッチリ効きます」
「リマイダ嬢はどうしてキノコを食べたがるのです?」
「ゲラゲラワライタケは誤食事故が多いキノコなのです。美味しいとも言われていますので、食味を感じたいと言いますか」
「食い意地が張っているからだ」
心の底からそう思う。
「ゲラゲラワライタケ成分による幸せな感じを体験してみたいと言いますか」
少々心をつつかれた気がした。
リマイダもオレの姉達と同じで、愛されず放置された感覚を持つのだろうか?
「やめた方がいいぞ?」
キノコで得られる幸せなんてものに頼るなと言いたい。
単なる好奇心であればいいが……。
「いえ、行きます!」
あっ、食べた。
全然躊躇しないのが怖い。
「リマイダ様、おいしいですか?」
「……苦味はないですね。適当な味付けがあれば美味しいと思われます」
「薬効成分ないし毒は、どれほど含まれているものなのですか?」
「さあ、わたしも詳しいことは……うふふ」
ん?
「うふふ、あはは」
「おい、リマイダ。毒が回ってきてるんじゃないか?」
「あは、あはは、あはははは」
「早く解毒しろ!」
「あはははははははははは!」
ダメだ、正気を失っている!
「直ちに王都に帰還する! 護衛兵! 一人先行して解毒魔法の使い手を手配しておけ!」
「あはは、フーリン格好いい……」
「知ってる!」
まったく何て日だ!
◇
王都帰還後、解毒魔法をかけてもらったらケロッとしていた。
「悪くない感覚でしたわ。本当に幸せで、自然に笑えてしまうの」
「笑い声はまだいい。地獄の底から聞こえてくるような鼻歌? あれはやめてくれ。心が冷える」
「あら、ごめんなさい」
まあつまらなくはなかったな。
手のかかる姉だ。