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第5話:美しい王女なのに

 ――――――――――アカデミー入学一ヶ月後、一学年最優秀クラスの教室にて。ネオリス・ミルズホープ侯爵令息視点。


「……と、こうなる。ケイオスワードの文法において、文節で区切ることは理解を高める役に立つだろう」


 現在、初級魔道理論の講義中だ。

 初級魔道理論が退屈な講義ワーストスリーの中に入るというのは、アカデミーの生徒の中ではほぼ共通に認識されていることだと思う。


 一般に魔素を扱う魔道は特殊な技術とされている。

 特に身一つで魔素を操作し、呪文を構成するケイオスワードに記述された通りの現象を起こす魔法は至難の業だ。

 しかし将来魔道具が発達していくのは間違いないから、アカデミー生たるもの魔道の基礎くらいは知ってろ、というのが世の趨勢ではある。


 魔道理論に力を入れているのは、ほぼ魔道の分野に進むと決まっている者くらい。

 最優秀クラスに初級魔道理論に注力している者は本来いないはずなのだ。

 最優秀クラスに在籍するのはほぼ高位貴族の令息令嬢だから、魔道の道に進むわけがない。


 にも拘らず、初級魔道理論の教諭が本学年で最も優秀と信じているであろう生徒は最優秀クラスにいる。

 リマイダ王女殿下だ。

 王女殿下ではあるが、『リマイダ嬢』と呼ぶのが身分に上下はないとされるアカデミーの通例だ。


 もっともフーリン殿下のみは『フーリン殿下』とお呼びする。

 殿下を呼び捨てするのは、二日だけ姉であるリマイダ嬢のみだ。

 それだけでリマイダ嬢には特別感があるのだが……。


「はい、『『掌ほどの』『真空を』『前方に』『強く』『撃ちだす』』です」

「エクセレント。諸君いいか? 『掌ほどの』は大きさが限定されているのに対し、『強く』はそうでないだろう? 後者の効果は術者の魔力の大きさや熟練度に左右されると考えたまえ」


 嬉々として答えるリマイダ嬢は、実に瑞々しく、美しい。

 リマイダ嬢は何と魔法を使えるとの噂もある。

 何故あれほど目立つ王女がノーマークであったのだろう?


 アカデミー入学前にミルズホープ侯爵家当主たる父が自分に課したのは、フーリン殿下の側近という役割だった。

 三人しかいない王子の一人であるから当然だ。

 フーリン殿下が王となることもあり得なくはなく、またそれ以上に政治の全権を握る執政官職に就く可能性はかなり高いと考えられているから。


 ちょっとした集まり等で、フーリン殿下と会う機会はアカデミー入学前も時々あった。

 まあ見るからにできる少年という感じだ。

 才気煥発であるという噂もチラホラあったしな。

 さもありなん。


 ところがリマイダ嬢という存在は名前しか知らなかった。

 フーリン殿下の直前に生まれた王女がいるということも、アカデミー入学のちょっと前に情報として知ったくらいだ。

 公の場には全然姿を現さなかった王女だから。


 考えてみれば、同い年の王女だ。

 自分の婚約者にということも十分あり得たのに、何故無関心だったか?

 身近にキャロライン・エルシャイロス侯爵令嬢がいて、いずれ婚約者になるんだろうと、何となく思っていたからかもしれない。

 ただ最近、キャロラインはフーリン殿下にお熱だ。


 お茶会の時にキャロラインが言っていた。


『リマイダ様が仰っていたのよ。リマイダ様がクラス委員になることは得がない。だからわたくしに譲ってくれたのですって』

『その得がないというのは、どうもよくわからない。内申に加点があるだろう?』

『加点があっても生きない、という意味だと思うわ。どうせ陛下の言う通りに嫁に行くだけのモブ王女だから、ですって』

『モブ王女』


 いや、理屈はわからなくはないな。

 内申に多少のプラスがあったところで、確かにリマイダ嬢の将来は左右されないだろう。

 一方でキャロラインはクラス委員になったことで優秀さが強調されることになり、フーリン殿下の婚約者の座が近付くということか。


 しかし実際に最優秀クラスのクラス委員を、何の価値もないことのように捨てられるものなのか? 

 これまであまり交流のなかった高位貴族令嬢であるキャロラインに恩を売っておく、という考えもあったかもしれない。

 驚くほどに決断がシャープだ。


『とにかくリマイダ様は素敵なのですわ! ああいう方とお友達になれたのは望外の喜びなのですわ!』

『リマイダ嬢は、頭がとてもいいだろう?』

『そうよね。わたくしも疑問に思って先生に聞いたの。リマイダ様が入学予備試験トップだったそうよ』

『えっ? トップはフーリン殿下ではないのか?』

『王家の権威を上げるためには、モブ王女よりフーリン殿下が新入生総代の方が得だからお任せしたとリマイダ様が仰ってましたわ』


 またしても損得の理論。

 そしてまたしても自らをモブ王女呼ばわり。


『……女子のクラス委員は、本来ナチュラルにリマイダ嬢だったのか。いや、現在リマイダ嬢が生き生きと講義を受けている様から、大変な才女ということは理解できるが』

『だからすごいのよ。でも御本人はあまり意識していないみたいなの』


 モブ王女って卑下しているくらいだものな。

 自己評価が低過ぎる。


『ネオリスはどうなのよ。リマイダ様を狙っていくの?』

『うむ。可能ならば』


 といっても王女の降嫁は陛下の胸三寸だろう。

 父から話を通してもらってもどうだか。

 いずれにしても、年齢的に数年先のことだ。


『ねえ、ネオリス。これからちょくちょくお茶会して、情報交換しない?』

『つまり自分がフーリン殿下の、キャロラインがリマイダ嬢のと、互いの情報を持ち合うわけだな?』

『そうそう。いいと思わない?』


 思う。

 しかし頻繁にキャロラインとお茶会では、仲が良くて結構と家人に思われそうではあるな。

 いや、仲がいいことに間違いはないのだが。


『勉強も重要なのだ』


 フーリン殿下の側近になるという使命があるから。

 リマイダ嬢達を含めて勉強会を開きたいものだ。

 学力を高めるとともに親睦を深める。

 素晴らしいじゃないか。


「……となる。ここで古典的知識ではあるが重要な考え方があるね。ネオリス君、四大元素とは何だったかね?」

「はい、地水火風です」

「正解。地水火風もしくは土水火風でもいい。この四大元素とはすなわち……」


 あ、危なかった。

 思考がトリップしていた。

 自分もまだまだだな。

 目の前のことに集中せねば。

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