第4話:モブ王女はクラス委員に興味がない
――――――――――アカデミー一学年最優秀クラスの教室にて。キャロライン・エルシャイロス侯爵令嬢視点。
担任教諭が言います。
「自己紹介は以上だな。ではクラス委員を決めようと思う」
さあ、今日の正念場ですわ!
わたくし、クラス委員になりたいですわ!
だって、男子のクラス委員はフーリン殿下に決まっていますもの!
フーリン殿下とは親しくさせていただきたいですわ!
いずれは殿下の婚約者にという話もあると思うのです。
だってわたくしはエルシャイロス侯爵家という高位貴族の娘ですもの。
だからわたくしは優秀なところを披露し、フーリン殿下に相応しいと思わせないといけないのですわ。
入学式の挨拶は、入学予備試験の成績が首位だった者が行うという慣習があります。
フーリン殿下は頭もおよろしいのですね。
ますます素敵ですわ。
わたくしの試験の成績は四位でした。
必死に勉強した甲斐がありました。
多分女子生徒の中ではトップだと思います。
成績通りなら、わたくしが女子のクラス委員になることでしょう。
しかしここで問題が一つ。
リマイダ王女殿下の存在です。
リマイダという名の、わたくしと同学年の王女がいると知ってはいました。
ただ全く社交をされていないのか、会ったことはなかったです。
もっとも王子は有名ですけれど、王女は目立たない方が多いですね。
王家の方針なのかもしれません。
しかしリマイダ様の王女という身分が忖度されると、クラス委員でいいんじゃないかと思われてしまうのでは?
困ります!
わたくしがクラス委員になりたいのです!
リマイダ様はおっとりした方のようにお見受けいたします。
最優秀クラスに組み分けされる程度には頭もよろしいのでしょう。
金髪のとても美しい王女殿下であることは認めますが……。
アカデミーの自由な校風を保つために、生徒間で身分の上下のないことが建前ではあります。
でも実際のところはどうなのでしょう?
わたくしも入学したばかりでよくわかりません。
過去第一王子ニコラス殿下のケースだと、クラス委員を務めることはなかったそうです。
でもそれは蒲柳の質とされるニコラス殿下のお身体に配慮されたのでは?
他の王女様方はどうだったのでしょうね?
ああ、ヤキモキします。
「男子はフーリン君に任せようと思う。異論がある者はいるか?」
皆さんの盛大な拍手です。
文句なんてありませんとも!
フーリン殿下がクラス委員であることは当然です!
パチパチパチパチ!
「うむ、ではフーリン君に男子のクラス委員を命じる」
「はっ。諸君、よろしく」
年齢に見合わぬ威厳があるというか風格があるというか。
惚れ惚れいたしますねえ。
さすが第二王子フーリン殿下ですわ。
そのお隣に並びたいですわ!
「では次に女子だ。リマイダ君に任せようと思うがどうだ?」
がーん!
やっぱり身分に負けてしまうのではないですか!
いえ、ビジュアル的にフーリン殿下の隣にはリマイダ様がピッタリなのではと、わたくしも心のどこかで考えてしまっていますが……。
「異論のある者は……」
「はい」
「む? リマイダ君どうした?」
「女子のクラス委員は、キャロライン・エルシャイロス侯爵令嬢がいいと思います」
……えっ?
リマイダ様はわたくしにクラス委員を譲ってくださろうとしている?
最優秀クラスのクラス委員は大変な栄誉ですよ?
一体何故?
――――――――――リマイダ視点。
「では次に女子だ。リマイダ君に任せようと思うがどうだ?」
フーリンがクラス委員を務めることは、王族の優れたところを見せつけるという意味で大いに推奨されるべきことだと思います。
いえ、もちろんわたしもモブとは言え、王族は王族です。
クラス委員になることにメリットがなくはないのですが……。
「異論のある者は……」
「はい」
「む? リマイダ君どうした?」
ただ異母姉のわたしが目立つと、フーリンの印象が薄れてしまうのではないですかね?
あまりよろしいこととは言えないです。
総合的に考えて、フーリンとのペアに最適なのは……。
「女子のクラス委員は、キャロライン・エルシャイロス侯爵令嬢がいいと思います」
キャロライン様が希望に満ちた目でこちらを見ていますよ。
キャロライン様もクラス委員になりたかったのではないですか。
モブ王女のわたしよりも、やりたい人に任せるのが一番でしょう。
先生が言います。
「クラス委員を務めると内申項目に加点がつく。リマイダ君にもプラスになることなのだが」
わたしのお仕事はどこかのどなたかに嫁ぐことです。
成績の良し悪しなど関係ありません。
むしろクラス委員で残業になったりすると、サロンの方に響いてしまいそう。
「いえ、やはりキャロライン様を推薦いたします」
「ふむ、何故だ? リマイダ君の考えとしては?」
「先ほどの自己紹介で、キャロライン様のハキハキした物言いにリーダーシップと意欲が見て取れました。クラスにいい影響をもたらしてくれると信ずるからです」
思うにキャロライン様は、フーリンの婚約者を狙っているのでは?
エルシャイロス侯爵家という高位貴族の令嬢でありましたら、当然あり得べきことだと思います。
またフーリンにとっても、お相手がキャロライン様ならプラスではないでしょうか?
ならばフーリンの姉のわたしは全くお呼びでないです。
キャロライン様がクラス委員となることは、八方良しと見ます。
「ふむ……リマイダ君がそのつもりであるならば。ではキャロライン君。女子のクラス委員を任せていいかね?」
「はい! ぜひ!」
「おお、やる気が素晴らしい。では女子のクラス委員はキャロライン君に決定だ」
キャロライン様が拍手に包まれます。
あれ、キャロライン様明らかにわたしにペコペコ頭を下げてくるではないですか。
ははあ、クラス委員を譲ったことに対する感謝ということですね?
……一つキャロライン様にサービスして差し上げますか。
「せっかくですから、お顔をよく覚えるためにクラス委員二人が並んだところが見たいです」
「それもそうだな。フーリン君、キャロライン君。前に出てきてくれたまえ」
うふふ、キャロライン様嬉しそうですね。
フーリンが睨んできますが、特にまずいことなどないではありませんか。
あなたの将来の婚約者かもしれないのですから。