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第2話:リマイダというノーマークの王女

 ――――――――――リマイダ及び第二王子フーリン一二歳時。フーリン視点。


「とりゃああああ!」


 今日も近衛兵を相手に、剣術の稽古に精を出す。

 セルティア王国の第二王子として当然のことだ。

 将来王となるニコラス兄上を補佐せねばならぬ身の上であるから。 


 ……ニコラス兄上の健康には不安がある。

 考えることすらも不敬だが、場合によってはオレが王位に就くこともあり得る。

 だからオレは文武に優れたところを見せつけなければならないのだ。


「いやあ、フーリン殿下はさすがですな」

「しかしまだまだだ。五本に一本も勝てない」

「ハハッ、それがしも本職でありますからな。身体のでき上がっておらぬ殿下に、何本も取られるわけにはまいりませんぞ」


 もっともではあるな。

 三年後には負けぬぞと、心に刻む。


「殿下は一二歳にしては身体も大きいですぞ」

「母方の血のせいだろうな」


 オレの母第二側妃イザベラはナップイェイツ辺境伯家の出だ。

 まあ辺境伯家の面々は皆身体がデカい。

 そして武に優れている。


 オレもまだまだ大きくなるだろう。

 どちらかと言うと王家の血は、武にはもう一つのイメージだ。

 王家はナップイェイツ辺境伯家の身体の頑健さを買って、イザベラ母上を側妃に迎えたのだと思う。

 体躯に恵まれたことは母に感謝している。


「さあ、殿下。今日の訓練はここまでにしておきますかな」

「うむ、ありがとう」

「いやいや、よろしいのですぞ。フーリン殿下の上達に貢献できるのは我が身の誉れです」

「ハハッ、ぜひともよき使い手にならねばならんな」

「時間の問題ですぞ。しかし休息も訓練の内ということを、決して忘れてはなりません」

「もちろんだ。明日も相手を頼む」


          ◇


 剣術の訓練の後は学習の時間と決めているが、今日は少々事情が異なる。


「どうだ、何かわかったか?」

「驚きました」


 最近話題の通称『サイモン殿下のサロン』というものがある。

 どうにも気になる。

 何が気になるって、当然『サイモン殿下の』というところだ。


 セルティア王国の王太子の座の本命は、もちろんニコラス兄上だ。

 正妃様の唯一の王子であるしな。

 ただニコラス兄上の身体は強くない。

 父陛下が既に成人年齢に達しているニコラス兄上を王太子に指名しないのは、健康面に不安があるからだと思う。


 まあ父陛下の思惑はひとまず置いておこう。

 万一の際はオレと異母弟サイモンで王太子を争うことになる。

 これは変えることのできない、単なる事実だ。


 サイモンか。

 しょっちゅう顔を合わせるわけではないが、ニコニコと感じのいい弟以外の印象はない。

 オレの方が年長であるし、母の身分が高いのだ。

 サイモンとならば、普通に考えてオレの勝ちだと思っていた。


 ところがサイモンは教育係やその知人らを集めて、自由な議論の場を設けたのだ。

 王宮ではさすがにできないことだが、側妃とその子に与えられている離宮なら平民を招くことも可能。

 正直よく考えたものだと思う。


 ……知識人や学者の間でサイモンの評価が高まると、武のオレ、文のサイモンという対立軸になるのではないか?

 サイモンはオレの強力なライバルになり得る?

 問題はサイモンが僅か一〇歳にして学術サロンを主催できるほどの俊才なのか? という点。

 あり得ないと思う。


 となれば結論は一つ。

 知恵の回るブレーンがいるのだろう。

 サイモンを担ぎ、オレに対抗しようとするやつが。


 しかし最も怪しいと思っていた第三側妃マリサの実家ペリング子爵家に、全く動きが見られないのだ。

 サイモンをオレのライバルに仕立てようとするなら、有力者をバックにつけなければいけないだろう?

 察し得ないほど水面下で動いているのか?

 それとも全てオレの疑い過ぎなのか?


 いや、警戒しておくに越したことはない。

 オレは配下の者から一人、サイモンのサロンに潜り込ませた。

 そいつからの報告を聞く。


「何に驚いた?」


 正直サロンにはオレも興味がある。

 参加してみたいくらいだ。

 サイモンはやはりできるやつなのか?

 あの無邪気な笑顔は仮面なのか?


「サロンを実質的に運営しているのはリマイダ王女殿下でございます」

「リマイダ?」


 その名前と顔を頭の中で一致させるのに少々時間がかかった。

 そうだ、サイモンの同母姉。

 オレと同い年だったはず。


 だが他人からリマイダの名を聞いたのはいつ以来だろう?

 全く存在感のない王女と言って差し支えない。

 リマイダがどうした?


 報告者の男は言う。


「リマイダ王女は大した才覚をお持ちでございます。サロンを開いて影響力を行使する目的であったわけではありません。王女が知的好奇心を満足させるために、自然とそういう形式になったと」

「オレと同い年の女がか?」

「はい。王女の教養は、年齢を考えるとちょっと信じられないほど広範にございます。かつ、主催と言うに相応しい積極性もございます」


 ではリマイダの趣味で開いているサロンということか。

 本当なのか?

 いや、オレはリマイダ個人をよく知っているわけじゃない。

 注目したことすらなかったが……。

 

「ふうむ、今までリマイダの名が表に出た記憶などないのだが」

「女性でようございました」

「……リマイダがもし男だったら、オレより上ということか?」

「とは限りませぬ。フーリン殿下は剣術も馬術も達者でございますゆえ」


 つまり頭では勝てないということか。

 来春入学の王立アカデミーでは、皆にオレの優秀さを存分に見せつける予定だったのだが。

 とんだ伏兵が現れたものだ。


 いや、リマイダはさておき……。


「サイモンの印象はいかに?」

「賢く穏やかな少年ではあるのでしょう。しかしそれだけですな。存在感は圧倒的にリマイダ王女の方が上にございます」

「ふうむ? ではどうして『サイモン殿下のサロン』などと呼ばれているのだろう?」


 『リマイダ王女殿下のサロン』でいいような?


「さて? リマイダ王女は自分が目立ちたくはないのか。あるいはサイモン殿下を立てようという気があるのか」

「不自然は不自然なのだな? リマイダがそう呼ばせている?」

「おそらくは。あれほどの知性を見せつける王女でありますれば」


 これで決まった。

 オレのライバルはサイモンではない。

 サイモンを裏で操っている可能性のあるリマイダだ。


「アカデミー入学が楽しみだ」

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