第四話 クラスメイト妹という爆弾。
そして、俺は見た。
担任・中島先生が、クラス全員の前であの忌まわしき宣告をする、その瞬間を。
「では今日から転入してくる生徒を紹介します。入っておいで」
教室のドアが開いた。入ってきたのは、見覚えのあるポニーテール。
「はじめまして。真壁 碧純です。よろしくお願いします」
その瞬間、教室が静まり返った。
名字が、俺と同じ。
顔立ちが、俺と微妙に似てる(気がする)。
しかも妙に、可愛い。スタイルもいい。声も落ち着いてる。
女子からは「え、美人……」のささやき。男子からは「マカベ、実は妹いたんか」などの声が漏れはじめた。
俺は目を見開いて、叫びたかった。
誰が同じ学校に転入しろって言ったァ!?
放課後。
「同じクラスって、どういうことだよ……!」
「だって、入学手続きの時に“兄と同じクラスに”って書いたんだけど?」
「書いたの!? 自分で!?」
「そりゃあ、知ってる人がいたほうが安心じゃん」
「いや安心以前に、こっちは危機感マシマシなんだけど!?」
碧純は、まるで“なんの問題もない”とでも言いたげな顔で、廊下を歩いていた。俺の隣で。至近距離で。異様に注目を浴びながら。
――そして、声が聞こえる。
「真壁って、あんな美人な妹いたんだ……」
「うちのクラス、勝ち組じゃね?」
「てかマカベ、妹に優しそうだよな~。いいな、兄妹って」
違う! 俺は妹にペコペコしてるだけだ! 勝ち組じゃない、服従だ!!
心の中で叫ぶ俺をよそに、碧純は一人、勝手に会話を進めていた。
「それにしても、さっきの“滝本美羽”って子、元カノなの?」
「……ッ!」
「“中二の夏、二週間だけの付き合い”って、結構具体的な過去だったよね?」
「やめろ! 蒸し返すな! あれは若気の至りだ!!」
「ふーん。じゃあ、私は?」
「な、なにが?」
「私は、“誰”になるの? “妹”? “同居人”? それとも――“ただのクラスメイト”?」
足が止まる。
彼女は、正面を向いたまま、表情を変えずに言った。
「まぁ、どうでもいいけど」
その言葉に、なぜか胸が少し痛んだ。
家に帰ると、俺はベッドに倒れ込んだ。
「くそっ……なんだよ……あの距離感……。妹なのに、クラスメイトで、しかも……妙に距離近くて、遠い感じするのなんなんだよ……!」
腕で顔を覆ったまま、もだえる。
……が、ドアがノックされた。
「な、なんだよ……」
「晩ごはん、作るけど。食べる?」
妹の声だった。
「……ああ、食う」
「じゃ、先に風呂入ってきて。ちゃんと湯張ってあるから」
「……」
もしかして、俺って――幸せなのでは?