第四十三話 侵食ノ魔眼、妹領域(シスターフィールド)を穿つ
火曜日、放課後。
下校中の商店街。
俺はルナと一緒に歩いていた。
「ねぇ、真壁くん……なんで、家に連れてってるの?」
斜め後ろから、妹・碧純の声が冷たく飛んできた。
「え、いや、違う違う。俺も急に言われて断れなくて――」
「“断れなかった”? ふーん……なるほど」
「わたしの観測によると、
真壁くんは“押しに弱く、曖昧な好意を拒めない”傾向がある。分析済みよ」
その言葉を発したのは――暁月ひより。
なぜか商店街の自販機前でバッタリ出会ってしまったという不運。
「貴様らの追跡スキル、なかなかのものだな……」
と、ルナは不敵に笑った。
「だが、今日は絶対に譲らぬ。我が契約者との儀式は、“第三夜の満ち欠け”に合わせねばならぬゆえ」
「その“儀式”って、まさか……」
「“契約者の部屋で、共にカレーを食すこと”だ」
「ただの夕飯じゃねーか!!!」
夕刻。
俺の部屋。
そしてダイニングには、四人の女の子。
碧純:家主にして正妻ポジ
明花:冷静な策士、常に分析モード
ひより:観察者からの参戦、微笑みの裏に怒気
ルナ:完全に中二病、でもなぜか可愛い
俺は、**家庭内戦争の中心に置かれた“爆弾”**だった。
「じゃあ、いただきます――」
カレーを食べ始めると、まずルナが一口目でうっとりとした表情になる。
「……このスパイス、まさしく“紅蓮の封印香”……真壁、貴様の調合、完璧だ」
「それ、市販のルーだけど!?」
その隣で、碧純がピリピリとした表情でスプーンを握る。
彼女の体からは、微かにバニラ系の柔軟剤の香りが立ち上っていた。
風呂上がりなのか、うなじから漂う体臭が、生々しくて、どこか色っぽい。
だが、本人の表情は静かな怒りそのものだった。
「……お兄ちゃん、ルナさんのカレー、もう二杯目?」
「いやその、あの、勝手に盛られて……!」
「ふふ……“自動追尾式おかわり術式”。避けられぬ定めだ」
おかわりを魔法のように言うな!!!
夕飯後。
リビングでは――
ルナ:「さあ、契約の続きを。貴様のベッドで“精神感応儀式”を行う」
碧純:「……………」
ひより:「“儀式”の名を借りた進入行動ね。真壁家、情報更新完了」
明花:「……“家族”って、こんなにハードだったっけ」
夜。
俺の部屋でルナと二人きりになったとき、
彼女がふと、トーンを落とした。
「……真壁。さっきは茶化したけど、
私、ほんとに“この家に入りたかった”んだ」
「なんで?」
「だって……この部屋に入った女の子は、
みんな、貴様のこと、真剣に好きになってしまうから」
その目は――ふざけてるようで、
でも、一滴の本音がにじんでいる気がした。
「……君も?」
「まだ、“なる途中”だよ。
でも、たぶん、“最終段階”は近い」
その夜、
碧純は自室で、枕に顔を押し付けながら呟いた。
「……ここ、私の家なのに。
なのに、なんで“侵入者”にドキドキしてるの……っ」
枕カバーからは、昼間の汗とシャンプーが混ざった香りがわずかに残っていて、
それがまた、やけにリアルで、悔しかった。
(つづく)




