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第三話 元カノという地雷、学校という戦場。

 月曜。朝。




 つくば市立北中等学園――略して「つくきた」。




 俺は駅前のバス停で、制服のネクタイをいじりながら、妹を待っていた。




「おっせぇな、碧純……。女子の準備は時間がかかるって言うけど、限度があるだろ……」




 通学時間を過ぎても来ない妹に、俺のイライラゲージはもう90%を突破していた。




 それと同時に、昨日のことを思い出す。




(……朝ごはん、美味かったな……)




 白いご飯、出汁の効いた味噌汁、絶妙な半熟加減の目玉焼き。


 食べながら“塩かソースか”の価値観論争が起きたのは想定外だったが、それすらも「家族の朝食」らしくて、なんだか少し……嬉しかった。




(……まさか、碧純と、こんな日々が始まるとはな)




 再会したその日には「キモい」の一言で撃ち抜かれた俺だが、それでも、確かに――何かが、変わり始めていた。




 だが、そう思っていた矢先だった。




「おまたせー!」




 笑顔で走ってくる妹。制服に、白いニーハイソックス。リュックにキーホルダーが揺れていて、髪にはちょっとしたリボンがついている。




 ……あれ? めっちゃかわいくね?




 何が起きたのかと目を見開く俺に、彼女は涼しい顔で言い放つ。




「ちょっと寝ぐせついてたからアイロンしてた」




「ま、まあ、それはいいけど……なんか今日、女子力高くないか?」




「当然でしょ? 初登校だもん。第一印象って大事だからね」




 ぴしっと制服のスカートを整える彼女。


 その仕草に、一瞬見惚れそうになって――




 ――いやいやいやいや待て。




 俺の妹だぞ? おいおい、気持ち悪いぞ俺。




 冷静になれ、真壁基氏。




 バスの中は、満員だった。




 それでも隣に立つ碧純は、つり革を掴みながら静かに前を見ていた。




 その横顔が、大人びて見えた。




 俺が中学生のとき、彼女はまだ小学生で、俺の後をちょこちょこついてきては「お兄ちゃん!」と呼んでいた。




 ――けど、あの頃の“妹”は、もういない。




(……変わったな、碧純)




 同時に、俺も“変わらなきゃいけない”のかもしれない。


 そんなふうに思った、ほんの束の間だった。




 教室に入った瞬間、事件が起きた。




「あっ、マカベじゃん!」




 元カノだ。




「うげっ……」




「なによ、その顔~。久しぶりなのに冷たーい。ほらほら、私、ちゃんと覚えてるよ? 中二の夏、二週間だけ付き合った“あの夏”!」




「やめてくれ、頼むから……!」




 彼女――**滝本たきもと 美羽みう**は、クラスのムードメーカー。誰にでも明るく接するタイプで、笑顔だけはプロ級。しかも、俺と“過去”がある。




「えっ、もしかして彼女? あの子、妹? え、マカベって妹いたんだ? マジ?」




「いや、だからその話は今すんなあああああ!」




 もう無理。今日という一日は終わった。




 妹・碧純は、その様子を後ろからじっと見ていた。




 冷めた目で。




「……ふぅん。元カノ、ね」




「いや! 違う! ほんの、ちょっとした事故で! アレは思春期の迷走であって!」




「別に何も言ってないけど? “ふぅん”って言っただけだけど?」




「いやもうその“ふぅん”が一番怖いからな!?」




 俺は絶望の中で机に突っ伏した。




 始業のチャイムが、今日ほど重たく響いたことはない。

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