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同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件  作者: 常陸之介寛浩★OVL5金賞受賞☆本能寺から始める信長との天下統一


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第十八話 スクリーン越しの恋と、ひとつの勇気

「ねえ、お兄ちゃん。来週の日曜、空いてる?」


 その一言が、まさかここまで心臓に悪いとは思っていなかった。


「え、なんだよ。急に」


「映画、行かない? 一緒に」


 ――映画。

 その響きが、なぜか“普通の兄妹”にとって、少しだけ特別な響きを持っていた。


「え、それって……なんの映画?」


「“恋するメロディ”っていうラブストーリー。原作小説が好きだったから」


「ラブストーリーぃぃぃ!?」


「なに? そういうの、無理?」


「いや無理じゃないけど! 俺のHPが危険信号出してるだけであって!」


「うるさい。付き合って。妹のお願い」


「妹って言えば何でも通ると思ってるよな最近……」


 日曜。映画館。


 館内は薄暗く、座席は意外と埋まっていた。


 そして――俺たちは、並んで座っていた。

 ポップコーンとドリンクをひとつずつ、膝に乗せて。


 隣にいるのは、

 部屋着じゃない。寝起きじゃない。風呂上がりでもない。


 “オフじゃない碧純”。


 ゆる巻きポニーテール。ベージュのニット。ほんの少しだけ光るリップ。

 俺の知らない、**「妹じゃない顔」**だった。


(ヤバい。めっちゃ可愛い)


 映画が始まっても、ストーリーが頭に入らない。

 目線を前に向けても、意識は完全に横にある。


(肩が、当たりそう……てかもう当たってる!?)


(この距離、何センチ!?)


(てか、こんな至近距離で恋愛映画観てる場合か!?)


 映画内セリフ「ずっと、そばにいたんだよ……」


(うるせぇぇぇぇ!!タイミング神かよ!!!)


 物語が佳境に入ったころ。


 スクリーンでは、主人公カップルがついにキスするシーンだった。

 静かな劇伴。ふたりの瞳が重なる。


 その瞬間――


 碧純の指が、俺の袖を、つまんだ。


(……えっ)


 ふと横を見ると、彼女はスクリーンから目を離さず、

 でも、顔をほんの少しだけ俺の方へ傾けていた。


 無言のうちに、伝わってきた。


「ねえ、お兄ちゃん――この距離、どう思う?」


 俺は、手を動かせなかった。

 触れそうで、触れたら絶対壊れるってわかってて。


 でもその一方で、心の中では誰かが叫んでいた。


「今だ! この瞬間が、踏み出すチャンスなんだ!」


 だけど――勇気は、あと少し届かなかった。


 映画が終わって、照明が戻る。


 碧純は何事もなかったように立ち上がり、

 俺に小さく笑って言った。


「面白かったね」


「あ、ああ……そうだな」


 その笑顔は、少しだけ、切なそうに見えた。


 帰り道。

 商店街を並んで歩きながら、ふたりともほとんど喋らなかった。


 でも、沈黙は“気まずい”んじゃなかった。

 たぶん、“言葉にできない何か”を、お互いに探していた。


 別れ際、家の前。


 碧純が立ち止まり、俺を見た。


「今日は、ありがと。楽しかった」


「……ああ。俺も」


 それだけ言って、彼女は玄関へ。


 ドアを開けかけて――一度だけ振り返る。


「映画の中みたいなこと……現実では、やっぱり難しいね」


 そう呟いた彼女の笑顔は、ほんの少し、寂しそうだった。

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