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同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件  作者: 常陸之介寛浩★OVL5金賞受賞☆本能寺から始める信長との天下統一


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第十七話 キスなんて、するわけないじゃん

 金曜の夜。


 週末前の空気は、どこか浮ついているはずなのに――

 我が家は、ピンと張り詰めていた。


 晩ごはんのあとのリビング。

 碧純と俺は、互いにソファの端っこで距離を取っていた。


 まるで、**“踏み越えてはいけないライン”**を意識しているように。


(こないだまで、もっと近かったのにな……)


 でも今は、近づけば何かが壊れそうで、触れれば二度と戻れない気がして。


 そんな空気を破ったのは、テレビから聞こえてきた、一本のセリフだった。


「……あのね、私、ずっと我慢してたの。

 でも、我慢するのって、バカみたいでしょ?」


 恋愛ドラマの主人公が、泣きながらヒーローに抱きつくシーン。


 ――その瞬間。


「なあ、お前って、キスしたことあんの?」


「……は?」


 俺は、完全に口が滑った。


「い、いや違っ、今のテレビがさ、なんかそういう雰囲気だったから!」


「何その理由、最低すぎる……!」


「違う!聞きたいとかじゃなくて、単に、ほら、その……興味本位で!」


 俺は顔面真っ赤になりながら手をバタつかせた。


 碧純は、しばらく沈黙したあと、そっと言った。


「……ないよ。そんなの」


「え、マジで?」


「なに、キス未経験ってだけで妹の市場価値下がった? 引いた?」


「いやいやいやいや! 引かねぇし! なんなら安心したまであるし!」


「何が“安心”なのよ、バカ……」


 でもその時、彼女の頬が、ほんのり赤く染まっていた。


 その後。


 寝る前に、歯を磨きながら、俺はふと気づいた。


 廊下の端。暗がりの中で、碧純が何か探していた。


「おい、どうした?」


「あ……床にイヤホン落として……あっ!」


 しゃがみ込んだ瞬間、彼女の身体がバランスを崩す。


「危ない――って、うわっ!!」


 結果、彼女は俺の胸に倒れ込む形になった。


 ぐらついた身体を支えた手は、肩と腰に。

 顔の距離は、20センチもなかった。


 静寂。

 視線が絡む。


 そのときだった。


「お兄ちゃん、あのさ――」


 彼女が小さく、でも真っ直ぐな目で見つめながら、呟いた。


「……“キスなんて、するわけないじゃん”」


 でも、それは拒絶じゃなかった。


 その言葉のあと、俺の手を、彼女が握っていた。


 引くでもなく、でも自分から近づくでもなく。


 ただ、許容している距離。


 それが、何よりもリアルで、リアルすぎて、

 俺はそれ以上動けなくなった。


 その夜、ベッドに入ってからも、

 彼女の指先の感触が、ずっと残っていた。


 そして、胸の奥で、もう一人の自分が囁いていた。


 ――「するわけない」って言葉は、

 本当は「したいけど、できない」って意味じゃないか?

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