表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同居のヒロイン達に夢精がバレる俺は、正妻戦争の中心にいるらしい件  作者: 常陸之介寛浩★OVL5金賞受賞☆本能寺から始める信長との天下統一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/52

第十五話 熱があるときは、嘘がつけない

 その日、碧純は朝から、様子がおかしかった。


「……うーん、ちょっと、頭痛いかも」


 食欲はなく、顔もほんのり赤い。

 熱を測ると、37.9℃。アウト判定。


「お前、絶対無理してたろ」


「平気だし……学校行くし」


「はあ!? この体温で!? お前はブラック企業社員か!」


「うるさい……お兄ちゃんに言われたくない……」


 ふらふらしながら制服に着替えようとする彼女を、強制ベッド送りにした。


 昼休み。


 俺は学校を早退し、薬局とスーパーをハシゴして帰ってきた。


「ポカリ、冷えピタ、ゼリー、あとおかゆの素……完璧だな。俺、看病系男子いけるわ」


 静かな部屋の中、碧純は布団にくるまっていた。

 寝汗で前髪がぺたりと額に貼りつき、頬はいつもより赤い。


「……おかゆ、作ったけど、食えるか?」


「ん……あとで。……ありがとう」


 ぼそりと呟く彼女の声に、妙にドキッとしてしまう。


 風邪で弱ってるせいか、語尾が柔らかい。

 そしてなぜか、ちょっと甘えているように聞こえる。


(やめろやめろやめろ。今のは“妹”としてだ。風邪で気が緩んでるだけ)


 しばらくして、ゼリーだけ少し食べさせると、彼女はすぐに眠ってしまった。


 ベッドの横、俺は椅子に腰かけたまま、静かにスマホを見ていた。


 そのとき――


「……ん……お兄ちゃん……」


 寝言、だった。


 けれど、俺の名前を呼ぶその声は、どこか切なくて、あたたかくて。


「……昔みたいに……手、握ってて……」


 目を閉じたまま、碧純の手が、探すように空を彷徨う。


 俺は、そっとその手を取った。


 細くて、やわらかくて、熱がこもっている。


「……お兄ちゃん、いっつも逃げるから……ずるい……」


「……」


「私が“妹”って言わなかったら……抱きしめてくれたのかな……」


 その言葉に、俺の心臓は、一瞬止まりかけた。


(それ……マジで言ってるのか……?)


 彼女は寝たままだ。目は開かない。

 だけどその唇は、確かに本音を紡いでいた。


「……もう、やだよ……お兄ちゃんに、他の子見てほしくないのに……」


(本音が……出てる)


 熱に浮かされて、無意識で喋ってる。

 普段なら絶対言わないような、あまりにもまっすぐな言葉。


 俺は、彼女の手を握ったまま、そっと答えた。


「……ごめん。ほんとに……ごめん」


「……うん……許す……ちょっとだけ……」


 そのまま、碧純は再び眠りについた。


 しばらくのあいだ、俺は手を離せなかった。


 この手を放したら――

 “妹”と“女の子”の狭間にいる彼女を、二度と取り戻せない気がしたから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ