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第十一話 妹として、女の子として。

 翌朝。


 台所に立つ碧純の背中は、いつもと変わらないように見えた。

 でも、その無言の優しさに、逆に胸が苦しくなる。


(あんなこと言わせて、俺は……)


 味噌汁の湯気が目に染みたのは、たぶん気のせいだ。


「……味噌汁、置いといたから」


「ありがと。あとで食べる」


「冷めるよ」


「……じゃあ、風呂入ってから」


「え? 今から? 朝シャン派なの?」


「なんかこう……気持ち、切り替えたくて」


「ふーん……じゃ、先入るなら早くしてよ。あとで私も入りたいし」


「おっけー」


 そのやり取りは、一見いつも通り。

 けど、目も合わせず、互いに“わざとらしく平静”を装っていた。


 風呂場の前。


(気まずい空気、どうしたもんかな……まあ、リセット的な意味で湯船に浸かろう)


 そう思いながらシャツを脱ぎかけた――そのとき。


 ガチャリ。


「――あっ」


「え?」


 バスタオル姿の碧純と、脱ぎかけの俺。


 0.8秒の静止。


 0.9秒で俺が急いでタオルを掴む。


 1.3秒後。


「何してんのよおおおおおおおおおお!!!!」


「いやいやいや! 声かけたよ!? 今から風呂入るって言ったよな!?」


「言ってないし聞いてないし聞こえてないし見えてるし!!」


 顔真っ赤な妹。ずるっと落ちかけるタオル。

 見えそうで見えないライン。視線が本能と理性の綱引きを始めたところで――


 ビンタ炸裂。


 俺、即死。


 風呂上がり。

 リビングに戻っても、碧純は自室から出てこなかった。


 ようやく着替えて現れた彼女は、いつもの制服姿だったけれど、顔は真っ赤だった。


 俺も一言も喋れなかった。


 それでも玄関で、靴を履きながら彼女がぽつりと言った。


「……だから、好きって言わなきゃよかったのに」


 その声は、小さく震えていた。


 俺は、その言葉に返事ができなかった。

 それがただの後悔なのか、本音の漏れなのかすら、わからなかったから。



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