ルームメイトと恋心
「カイってさあ……オレのこと好きなの?」
「え?」
スカイツリーのイルミネーションの下で。戻ってきたカイの手からハルは温かいカフェラテを受け取る。
「彼女と別れたてでクリスマスしんどいだろって、オレのこと連れ出してくれたけどさ。
今日ずーっと嬉しそうなの、カイじゃない?」
何と答えれば良いかわからず、カイは黙り込む。
「オレの好きなキャラクター知ってるし、昼ごはんはオムライスだったし、カフェラテは砂糖たっぷりだし」
「オレ、こんなにエスコートしてもらったのってはじめてだよ」
ハルのやわらかな笑顔に、カイは頬を赤らめる。
「ハルは、俺の……ルームメイトだよ」
「……それだけ?」
「3年も一緒の部屋だったら、好みくらいわかる」
「でも、オレのこと大好きなんでしょ?」
「……まあ、」
カイは目線をそらす。
「嫌いじゃ、ないけど」
それからもう一度ハルを見た。
「おまえのこと、なぐさめたかっただけ」
「ありがとう」
コーヒーを飲み終わると、ふたりとも体が幾分か温まっていた。それでも寒空の下、クリスマスマーケットを歩くと、指先がどんどん冷たくなっていく。
「クリスマスに男2人でスカイツリー、周りカップルだらけで気まずいんだろうな〜って思ったけれど……ここまで観光スポットだといろんな人がいて、なんも目立たないね。多国籍だし」
ハルはドイツ製のくるみ割り人形を手にして眺め、棚に戻す。
「寒いし、恋人つなぎでもしてみる?」
「おまえ、ふざけすぎ。そんなんじゃないから」
ふざけて手を繋ごうとしてきたハルの手を、カイは軽く払いのける。
門限ぎりぎりで部屋に戻ってきて。
ハルが寮のシャワー浴びに行った隙。カイはベッドに仰向けになり、ため息をつく。
一年生のとき、はじめてハルを見て。好みの相手と同室になって焦った。しかしハルには彼女がいた、ずっと。
だから、別れたと聞いて有頂天になった。でも『彼女と別れた』は決して『自分にもチャンスがある』という意味ではない。
(今日のハルには参ったな……)
からかわれているだけだ、本気にしてはいけないと、カイは考える。
卒業するまでは、この恋は秘密だ。
ハルがシャワーから戻ってくると、カイは先に寝落ちしていた。
「あーあー シャワーも浴びないで」
ハルは、カイの寝顔を眺める。
「カイは、ずるいな。なんで彼女と別れたか、知りたくないのかな?」
ハルは、カイの髪をそっと触って笑う。
「責任、とれよなあ」