ハルという子供
_____世界がひっくり返る
女の人が手を伸ばす。
必死に誰かの名前を呼んでいる。
どうしたんだろう。あの人はなんで俺に向かって手を伸ばしてるんだろう。わからない。俺は今まで何をしていた?ここは何処だろう。空が段々遠くなってる。
……あぁそうか、俺は落ちてる。
ぐちゃ
自分が落ちていると理解した瞬間あんなに遅く感じた世界が物凄い速さで進み始めた。
痛い、痛い、痛い、痛い。
生ぬるい何かが体から出てきてる。
あまりの痛みに意識が飛びそうになった。
だが、一瞬で目が覚めた。
傷口に入った砂利のせいで痛みが体にはしった。
まるで電撃を食らったみたいに、体がビリビリしてる。手の先が痺れて気がする。何も分からない、俺はなんでこんな所にいる?痛みで全ての思考が邪魔されて何もわからない。思考が散乱してる。
痛い、死にたくない。死にたい。生きる意味がほしい。ここは何処。なんで俺は落ちてた?助けて欲しい。俺はだれ?俺は、俺は春だ。そうだ俺は春で、会社員で、ブラック企業に勤めていて…それで…それでなんだっけ?
「っっ!!! っる!!!」
うるさいうるさい、ただでさえ痛いのにうるさくするな。やめてくれ、やっとゆっくり眠れそうだったんだ。もうどうでもいい、ここがどうかもなんて知らねぇよ。寝たいんだ、寒い、辛い、痛い。なのに傷口は火を吹いたように暑くて、痛みが強調されてるようで、痛くて痛くてしょうがない。やめてくれ、もういいじゃないか、俺は頑張った。なのになんでこんな…
「ハルっっっ!!!!」
誰かが…誰かが俺の名前を呼んだ。
もう重すぎて、眠たすぎて開かない瞼を必死に開けた。手を真っ赤にして、泣きじゃくった顔が俺に近寄った気がして、なんでだろうか。頭の奥の誰かが「良かった」と呟いた気がした。
そして俺はそんなどこからから生まれた安堵の気持ちに包まれて、また眠ってしまった。